視聴データ開示も徐々に開始 Netflix、日本上陸からの変化とSVOD新時代へ向けた取り組み
クリエイターへの視聴データ提供は徐々に始まっている
「日本は米国に次ぐエンタメ消費大国です。しかもパッケージ市場が今なお健在で、映画館も充実しているなどエンタメ消費に積極的。かつ目の肥えたユーザーが多いのも特徴です。だからこそ日本をコンテンツ制作の重要な拠点として、日本発のオリジナル作品制作に注力しています」
Netflixでは今後12ヶ月で日本発の新作オリジナル作品を16タイトルを配信することを発表している。このなかには独占配信するドラマシリーズ『深夜食堂:Tokyo Stories Season2-』(10月31日配信)などの“シリーズ続編”は含まれておらず、実質的なオリジナル作品は約30タイトルにのぼるという。
「ただし具体的な視聴数は公表していません。グローバルに展開するプラットフォームですので、数字の公表に慎重にならざるを得ないケースは少なからずあります。とはいえ、クリエイターなどの制作サイドとしては指標となる視聴データも必要との声も受けており、一定期間内における視聴数などのデータの共有は徐々に始めています」
一方で、ユーザーサイドに公表されている指標は少ない。今後、テレビの視聴率や映画の興行収入に準ずるような数字(再生数など)を公表する意向はあるのだろうか?
「現状は考えていません。たとえ視聴数が少なくても世界のどこかで喜んでいただいている方がいれば、それは十分にすばらしい作品であると評価できます。メンバーの選択に不要なバイアスをかけないためにも、あえてランキング等の公表を避けているところはあります。それよりも注力しているのが、レコメンドの精度の向上。検索や視聴履歴、途中までしか観なかった作品などあらゆるヒントをもとに、メンバーごとにどんな作品を上位表示すれば観たい作品にいち早くリーチできるかを日々テストしています」
ただし、イギリスなど一部の地域では、トップ10のランキングを開示するなど公表がはじまった地域もあるとのことだ。
世界で巻き起こるSVOD戦国時代 最優先は優れたコンテンツの制作
「目的としてはNetflixそのものの認知と加入促進です。いずれの作品も熱意を持って制作され、自信を持って送り出していますから、そのなかからさまざまな要素を踏まえて、四半期ごとに数本の作品を大々的にプロモーション展開しています」
『全裸監督』もこの夏に一大プッシュされた作品の1つで、前述した海外での視聴もさることながら、アニメも含めてこれまで制作された日本オリジナル作品全ジャンルを通して、国内でもっとも視聴された作品となる成果を挙げた。もちろん新規加入者も伸ばしている。
「観たい作品をいつでも」はもはや当たり前。他サービスとの差別化や会員獲得などの狙いから、オリジナル作品の充実に注力しているのが近年のSVOD事業者の傾向だ。しかし、一方でそれは「未加入者は作品を観られない」「複数のSVODに課金しないといけないのか?」といったストレスも生む。
「やはりメンバーにとっては契約や支払いは1回で済んだほうが便利なはず。そこで弊社では、契約やサービス料金の一本化のいち早い実現に向けて提携を結びました」
J:COMは契約世帯は約500万。これまで以上に日本のユーザーがNetflix作品に触れられる環境となる。一方、アメリカではディズニーのほか、大手メディアグループが続々と自社の動画配信サービスを準備しており、コンテンツの囲い込みなど、近い将来に新たな戦国時代を迎えることが予想される。
「将来に向けて弊社がいまやるべきことは、優れたコンテンツを作り続けることです。日本の映像制作者の方々の多くは、グローバルに作品を届けられることに魅力を感じていただいているのではないでしょうか。しかし、まずは日本の視聴者に楽しんでいただける作品であることが、コンテンツ投資の最優先事項です。国内で話題になることが嬉しい一方で、世界で同じような興味、関心を持った方へ作品を届けるために、多言語化やレコメンド機能を充実させています。そうすることで、結果的に広く作品が届くわけです。これからもより積極的に、日本の視聴者に喜んでいただけるストーリーをお持ちのクリエイターと一緒にものづくりをしていきたいと考えています」
(文/児玉澄子)