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新会社第1弾『天気の子』で大成功を収めたSTORY・古澤佳寛氏「日本のクリエイティブを世界へ」

 興収150億円に迫る大ヒット中の『天気の子』は、東宝からスピンアウトして設立された新会社・STORYの制作プロデュース第1弾。『君の名は。』(16年)に続き新海誠監督とタッグを組む、代表取締役社長の古澤佳寛氏にSTORYの見据える未来を聞いた。

クリエイティブに寄り添って企画を進めていきたい

――東宝から独立して新会社を立ち上げた経緯を教えてください。
古澤佳寛もともとの僕のキャリアの話をさせてもらうと、前任者がいない仕事が多くて、ODS事業の立ち上げ後、12年に東宝内でアニメーション事業を本格的に立ち上げる責任者になりました。テレビシリーズや小規模映画からスタートしつつ、最終的にはジブリに続くようなオリジナルの大ヒット映画を作るのが目的でした。それが『君の名は。』によって思ったより早く実現できてしまって、次に何をやるべきか目標を少し見失ってしまっていたなか、よりクリエイティブ側に立った視点で映像企画をする形が模索できないかという思いが湧いてきました。そのためには、市場がダウントレンドな国内需要だけでは厳しい。海外事業を含め、インディペンデントで小回りが利く形ならよりいろいろなことにチャレンジができると思い、東宝の島谷能成社長に会社設立を相談させてもらいました。

――東宝から独立するメリットはどこにあるとお考えだったのですか?
古澤佳寛よりクリエイティブの立場で企画を進めることができるようになりました。短期の収益を前提にした予算感とスケジュールでは、犠牲になる要素も出てきます。また、日本の映画業界の場合、完全に外に出てしまうと古巣とはなかなか仕事を一緒にしないケースが多いと感じますが、外部の立場で東宝とファーストルック契約を結ぶことにより、適度な距離感でこれまでの良い部分を活かしつつ、ゲリラ的なチャレンジもできるようになりました。

――クリエイティブの立場で企画を進めるというのは具体的には?
古澤佳寛今は配信プラットフォームもいくつもあり、海外のお客さんにも一瞬でリーチできる世の中になってきています。その一方、時間をかけて映画館に来てもらって作品を楽しんでもらう古くからの映画の市場も、新興国を中心に拡大しています。良いクリエイティブを最適なメディアで観てもらう事が、よりクリエイターに近い場所で判断できるようになっていると思い、この会社ではより積極的に海外に出ていくことに注力しています。

中国法人を設立しアジアネットワークを拡大

『天気の子』(C)2019「天気の子」製作委員会

『天気の子』(C)2019「天気の子」製作委員会

――具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか?
古澤佳寛今年に入って中国に子会社のSTORY CHINAを設立しました。現地の配給会社と組んで企画を進めている案件も複数あります。直近で言うと、中国で人気の高い映画『唐人街探案』のシリーズ第3弾を、日中合作の枠組みで日本で制作していて、来年1月に中国で公開予定です。前作は600億円ほどの興行収入をあげた作品であり、ここまで大規模な日中合作映画は過去にないと思います。足利市に渋谷のスクランブル交差点のセットを組んだり、僕らも驚くようなお金の使い方しています(笑)。

――中国は最重要市場という考えなのでしょうか?
古澤佳寛まずはアジアという地域を最重要に考えていて、そのなかでも中国市場は巨大なので、必然的に中国が中心になってきています。もちろん、アジアだけではなく北米も意識にありますが、これまでの先輩方を見ていても、なかなか日本の作品を直接北米に持ち込んで観てもらうのは難易度が高いと感じています。

――企画自体も海外を意識したものになっていくのでしょうか?
古澤佳寛世界の映画興収を見ると、日本は北米、中国に次いで第3位。中国はここ数年で北米を抜いて1位になります。アジアでは日本と中国が世界の上位を占めていて、今後もアジアは人口の伸び率が高い。そこで人気を博したものは、北米でも無視できないと思います。たとえば『君の名は。』の実写化も、日本と中国で大ヒットした事によって、ハリウッドを代表するJ.J.エイブラムスがプロデュースを務め、脚色を『メッセージ』の脚本を手がけたエリック・ハイセラーが担当します。その意味では、まずは日本でしっかり受け入れられるものを作ることが重要。一方で、中国で勝とうとした場合、中国の観客の気分を教えてくれる、クリエイティブがわかるプロデューサーがパートナーとして必要になると思っています。ひと昔前までは、日本の人気IPを中国に持ち込んでアニメ化すれば収益的に見えるところがあったのですが、いまは日本IPに金額が付きにくくなってきていて、そのやり方は通用しない。中国で人気のIPを僕らのやり方でおもしろく見せるか、中国でオリジナルを作るか……。どちらにしても、中国の市場を知っている人たちのサポートが必要なので、そういう人脈をどれだけ作れるかということにも注力しています。

――海外に市場を広げることで、クリエイターに還元できるという考え方は、閉塞感漂うアニメ業界には希望ですね。しかしカントリーリスクなど、海外との仕事は難しい部分も多いのではないでしょうか?
古澤佳寛中国の配給会社との交渉でも、お互いの常識が違うので、その部分もしっかりと神経を巡らせています。日本もそうですが、中国でもクリエイターよりも出資者の方が立場が強いという考え方が根強い。北米などはクリエイターが強いのですが、それは市場が世界だからです。やはり国内だけで完結してしまうと、収益の取り合いになってしまう。市場が広がれば解決できることは多いと思っています。

――日本のアニメ業界の疲弊が叫ばれていますが、そこに一石を投じる動きになっていくのでしょうか。
古澤佳寛パッケージ市場の縮小をはじめ、将来的にハッピーになりそうな明るい話題がいまのアニメ業界には少ないのが現状ですからね。10月期でもテレビアニメは50本近くあると聞きます。さらに今年はアニメ映画も多く、制作現場はより大変になっています。ヒット率が上がり、現場のクリエイターにちゃんと還元されるような状態になってほしい。僕らは少人数ですが「ここに良いルートがあるからみんなも来なよ」と言えるような開拓者になっていければと思っています。

提供元: コンフィデンス

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