光石研、俳優生活40年で初主演にして主演男優賞 「主演より脇役の方が好き」
初の連続ドラマ単独主演で、気負っても良いことはない
光石 とても光栄なことで、嬉しく思っています。僕で大丈夫なのかと。主演男優賞をいただけたのも共演者、スタッフ、全員で力を合わせた結果だと思っています。皆でお祝いをしたいですね。
――『デザイナー 渋井直人の休日』は、俳優生活40年にして初の連続ドラマ単独主演となりましたが、主演を演じてみていかがでしたか?
光石 とても嬉しかったです。気負っても良いことはないので、いつも通り普通に演じ、とにかく皆で楽しくドラマを作ろうという気持ちでした。
――主演をやりたいとは思っていましたか?
光石 もちろん、やらせていただけるのは嬉しいです。ただ、主演が目的ではないです。どちらかといえば、脇で面白く演じているほうが好きですね。
――原作はご存知でしたか?
光石 はい。原作が発売されるタイミングで、帯に入れるコメントを下さいと言っていただけて。その時に原作を読ませていただいたのですが、面白い作品だなと思っていました。
――原作を読んで、ご自身と重なるなと思いましたか?
光石 いやいや。皆さんに渋井直人と似ている、重なると言っていただけますが、僕はあそこまでチャーミングではないので。音楽が好きなところは似ていますが、恥ずかしいなあ(照)。
――雰囲気や佇まい、人柄が渋井直人に似ているのかなと思っていました。
光石 僕はあんなに良い人ではないですよ。腹黒いですし(笑)。
――では、原作や脚本を読んで渋井直人という人を理解して演じたのでしょうか?
光石 そうですね。小道具、美術、照明……細かいディテールまでスタッフの皆さんが渋井直人の世界観を作ってくれたので、その総力が役に反映されていると思います。
僕の腹黒い部分を出さず(笑)、可愛らしい渋井さんでいるように心がけました
光石 皆をまとめるとか……そういうことはなかったです。タイトなスケジュールではあったので大変でしたが、そのなかで、皆で楽しく笑いながらドラマを作ろうという気運が高まっていました。誰もがそういう気持ちでこの現場に入っていましたね。それに松本監督が、「朗らかな現場で行きましょう」と言ってくださって、笑いの絶えない現場でした。
――光石さんが今作と向き合う上で特別に気をつけたたことはありますか?
光石 渋井直人というキャラクターを崩さないこと。原作でも愉快なキャラクターで、僕の腹黒い部分を出さず(笑)、可愛らしい渋井さんでいるように心がけました。
――では、主演を意識することはなかったのでしょうか?
光石 現場に入ると主演だからということもなかったです。それよりも、年の離れた若い女性を本気で好きになって振られる渋井直人という人物を皆で楽しんでいました。
――「ドキュメンタリーを観ているようで、光石さんの自然な演技が良かった」という声も多かったです。
光石 日常を描いたドラマなので、特別に何かをするということなく、普通でいようと心がけていました。そういっていただけると本当に嬉しいですね。
――とても好評なドラマでしたが、その反響を肌で感じることはありましたか?
光石 出版社で働いている方やアパレル、美容業界の方から反響が大きかったです。スタイリストさんに「うちのアシスタントも杉浦ヒロシ(岡山天音)と同じような感じだった」と言われて、面白がって観てもらえたようです。
個性的な役をいただけたおかげで、個性的な存在にしてもらえている
光石 あんなオシャレな生活をしていて、渋井直人はいけ好かないヤツですよ(笑)。その渋井直人が、若い女性に翻弄されて自虐ネタに持っていくところが人間味があって、いいですよね。「そういう大人ってバカだよね」と笑わせてくれる。
――ご自身と重ねてみたりしますか?
光石 渋井直人に似ていると言われるのですが……ドラマで使用しているトートバックは僕の私物で、ダッフルコートもプライベートではもう着れなくなっちゃって(笑)。自分とリンクする部分もあって、周りの方にぴったりな役だねと言われたりもしますが、それも含めて自虐ネタで面白いなと。
――渋井直人はこだわりの強い人ですが、光石さんはどうですか?
光石 僕はいつも洋服を買う店が決まっていて、でもそういう変な拘りっていい年した大人の男性がちょっとかっこ悪いなって。ボタンダウンにこだわってしまうところとか、かっこ悪いと知っていてやっている自分自身も嫌なんですよ。でも、渋井直人はそうは思っていない。そういうのもひっくるめて渋井直人のこだわりが素敵ですよね。
――三浦カモメ役の黒木華さんや杉浦ヒロシ役の岡山天音さんなど、共演者で個性派が多かったです?
光石 ゲスト出演の方も含めて、濃いキャラクターの役ばかり。天音くんも楽しませてくれたし、勉強にもなりました。とても真面目な青年です。黒木華さんは横綱のような女優さんで、どんなにぶち当たってもびくともしない。
――光石さんもそうですが、バイプレーヤーとした活躍されている俳優の方が、主演に抜擢されることが多いのですが、今の状況を見てどう思いますか?
光石 なんでこんなにおじさんがもてはやされているのかなと思っています。女子高校生に「かわいい」と言われたり、本人たちはそうは思っていない。制作者側に若手が増えて、おじさんに滑稽なことをやらせたら面白いかもって。大人は憧れの存在だと思っていたけど、おじさんたちも大したことないと(笑)。
――光石さんの今作の演技にも「かわいい」という声がありました。
光石 いくらでもいじってくださいという気持ちですね(笑)。僕自身、個性があるわけではないので、個性的な役をいただけたおかげで、個性的な存在にしてもらえている。俳優というお仕事は、変わった人物像を演じられて楽しいです。