ベストセラー『教養としてのワイン』の著者であり、世界的なオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク支社にてアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した渡辺順子氏。彼女の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が先日刊行となった。今回は、数々の一流ワインをオールカラーで解説した本書から抜粋する形で、ボルドー不動のトップシャトー「ラフィット」にまつわる驚きのエピソードを紹介します。
「私はラフィットしか飲まない」
メドック格付にて第1級シャトーのトップに選ばれ、「1級中の1級」として不動の地位を確立し続けているのがシャトー・ラフィット・ロスチャイルド(ロートシルト)です。
18世紀、ルイ15世の愛妾であったポンパドゥール夫人がラフィットを溺愛し、ヴェルサイユ宮殿の晩餐会にて「私はラフィットしか飲まない」と宣言したことから、その名声は確固たるものとなりました。
宮廷で人気となったラフィットは「The King’s Wine(王のワイン)」と呼ばれて名声を博し、フランス国内ですら品薄状態で、特にイギリスやオランダの輸入業者は獲得に苦労したようです。当時、アメリカ合衆国公使として赴任していたトーマス・ジェファーソンもラフィットに魅せられた一人でした。彼が公使という立場を利用し、ラフィットを何樽も購入していたのは有名な話です。
20世紀後半には、彼が所有していたとされる1787年産のラフィットがパリで見つかり、大きな話題を呼びました。「Th. J」と彼のイニシャルが彫られたこのボトルは「ジェファーソンボトル」と呼ばれ、約10万5000ポンドという破格の値で落札されました。
しかし、結局このボトルには「偽物」という審判がくだります。詳しく調べた結果、ボトルに彫られていた彼のイニシャルは、当時は存在しない歯を削る機械で彫られていたというお粗末なものでした。
この騒動は、後にブラッド・ピット主演で映画化が進みましたが、偽物を買ってしまったアメリカの大富豪が自身の名誉のために映画化の権利を買い取り、残念ながらお蔵入りとなっています。