ベストセラー『教養としてのワイン』の著者であり、世界的なオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク支社にてアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した渡辺順子氏。彼女の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が先日刊行となった。今回は、数々の一流ワインをオールカラーで解説した本書から抜粋する形で、神と呼ばれる造り手アンリジャイエの代表作「クロパラ」について紹介します。
ワインを語るうえで外せない
神と呼ばれる造り手「アンリ・ジャイエ」
ブルゴーニュには「神」と呼ばれる造り手がいます。1922年、ヴォーヌロマネ村にてぶどう栽培業を営むジャイエ家の三男坊として生まれたアンリ・ジャイエ(Henri Jayer)です。
幼少の頃から父親の下でぶどう栽培を手伝っていたアンリは、ディジョン大学醸造学科を卒業後、ブルゴーニュの名家カミュゼ家が所有する特級畑「リシュブール」と「ニュイサンジョルジュ」の管理・醸造を任せられます。
そして、30代には「Henri Jayer」を冠にした自身のブランドでワイン造りを開始し、晩年まで数々の名品を残しました。アンリの造るワインの価格は、低い格付のワインですら、他のドメーヌの特級ワインを超えるほどです。
中でも高額なのは、1級畑クロパラントゥで造られる「ヴォーヌロマネ クロパラントゥ」、通称「クロパラ」です。1827年にはすでにぶどう栽培が行われていた記録のあるクロパラの畑ですが、戦時中にはアーティチョーク(西洋野菜の一種)が植えられるなど、もともとはまったく注目されていない畑でした。
そのクロパラを一躍有名にしたのがアンリです。クロパラは、大きな岩の上に粘土石灰岩の層が広がり、その土壌の質は決してぶどう栽培に恵まれているとは言いがたい土地でした。しかし、アンリはその条件から最高の酸味を併せ持つワインを造り出せることに気づき、ぶどうの栽培と醸造を始めたのです。
そして、1978年に初ヴィンテージをリリースし、特に1985年産は世界中のジャイエファンが切望するヴィンテージとなりました。85年産は偽造ワインも多く出回り、騙されたコレクターも少なくありません。2018年には、スイスのジュネーヴで行われたジャイエ家自らが出品する蔵出しオークションにて、来歴が保証された85年産6本入りが出品され、なんと3000万円以上で落札されました。これによりアンリ・ジャイエのワイン1本あたりの最高落札額も更新されています。