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キットカット=受験生を応援…浸透したからこそ固定イメージにも? 企業のリブランディング戦略
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赤い『キットカット』(左)と『オトナの甘さ』(右)のパッケージ
「“単なるお菓子ではない”価値を生み出せた」キットカットが受験生を応援する取り組み
キットカットの包装には、メッセージを書ける欄が設けられている
生活者から自発的に発生したこの事象から「お菓子だって人の気持ちに寄り添える瞬間があるのではないか」という問いに気づき、同社はその発信を全国へと広げていった。今では同商品が「多くの人の気持ちに寄り添う存在」となったことを実感しているとネスレ日本の『キットカット』マーケティング担当・佐藤由樹さん。
「単なるお菓子という存在を超えて、お客さまの気持ちに寄り添ったキャンペーンとコミュニケーションを展開してきたことが、“受験応援と言えばキットカット”のイメージにつながったと思っています。グローバルでは受験のキャンペーンはまったくやっていないので、日本独自の感情に寄り添ったコミュニケーションです。単なるお菓子じゃない価値を生み出せたことがよかったのだと思います」(佐藤さん)
シックで洗練された“オトナの甘さ”、「大人の○○」商品の先駆けとなった黒パッケージ
黒のパッケージの『キットカット オトナの甘さ』※リニューアルに伴い、終売しています
「甘いチョコが苦手な方もいらっしゃいます。そんな人たちにとっての定番を作りたいと考えました。中味も試行錯誤し、あくまで大人のお客様が“自分にとってちょうどいい”と感じる甘さという視点で作り上げていきました。“オトナの甘さ”であること、赤色キットカットとの差別化として、発売当時のパッケージは黒色を採用しました」(佐藤さん)
2010年代以降は、大人が日常のご褒美として食べられるお菓子の需要も高まり、仕事中のちょっとした休憩でお菓子を食べる人も増えていたため、職場で食べても気まずくないシックなパッケージデザインを意識していたという。赤い『キットカット』と対比もしやすく、売り場でもわかりやすいメリットもあった。
「だいぶん幅広い世代の方がお菓子を食べるようになってきていたとはいえ、仕事中のちょっとした休息や気分の切り替えにお菓子を食べるのは、当時まだまだはばかられる空気感があった時代です。でも黒いパッケージでシックなデザインであれば、仕事中に食べても恥ずかしくないですし、後ろめたさも緩和しやすい。発売後は、そのようなお声もあったと思います」(佐藤さん)
『キットカット オトナの甘さ』は大きな反響を呼び、同商品が抹茶やイチゴなど様々なシリーズへと展開していく足掛かりを作った。また、同ブランドとしての売上も連なるように上がっていったという。同商品のヒットをきっかけに、「大人の○○」とうたった商品も次々と発売され、大人が食べる“リッチ感”や“本格派”といった価値観が醸成されていった。
「苦くておいしくない」“黒”のイメージが大きく変化しリニューアルを決断
25年にリニューアルした、キットカット『オトナの甘さ』
「黒いパッケージから想像される苦さのレベルが、年々上がっているのを感じました。苦くておいしくない、薬などのレベルにまで想像されるようになってしまっていたんです。黒いパッケージは、他社さんの板チョコレートで結構な苦い味の商品に使われていたり、分かりやすくミルクとビターを認識するためのものとして考えられていたり、こちらが想定する以上にお客さまの中にある黒色で想起されるビターのレベルが上がっていたんです。これらの点から、パッケージが黒色であることで手に取りづらい商品になってしまっていたんだと気づき、パッケージをリニューアルする決断をしました」(佐藤さん)
ただ、10年以上も黒をトレードマークにしていたため、最初は「黒を残しつつ、ほかの色で苦さを和らげる」という案を主軸に考えていた。ところが、調査を重ねる度に“黒の強さ”が浮き彫りに。そして、「黒を残す限り、本来の価値は伝わらない」結論に達した。
「もういっそのこと黒は止めて、本来伝えるべきである“程よい表現”ができる新しい色を探そうということになりました。1年半という時間をかけて慎重に検証をくり返し、「マルーン(栗色)」という答えにたどり着きました。
既存のファンの方たちは、「オトナの甘さ」のシック感や洗練されているデザインを好んでくださっていることも分かっていました。ちょうどよくシックさを残しながら、苦さを想起させづらい色として、マルーンカラーがぴったりなのではないかと最終的にはチームメンバーで話し合い決定しました」(佐藤さん)
「食べていただかないとおいしさは伝わらない」 「キットカットくらべ」開催背景
ガンプ鈴木さんが起用された、「キットカットくらべ」キャンペーン
「実際に食べていただかないと、おいしさは伝わらない。このキャンペーンを通じて、1人でも多くの人に『オトナの甘さ』を知って食べていただき、『こういう商品もあるんだ。これなら好きかも』という方を1人でもつくりたいという思いで始めました」(村岡さん)
キャンペーン「キットカットくらべ」では、人力車で世界を駆け回る旅人・ガンプ鈴木さんを起用。ガンプさんが、人力車で旅をしながら2種類のキットカットを配る「#キットカットくらべ日本横断1,000kmの旅」に挑戦した。
SNSでも拡散され話題となり、たくさんの人に応援され、ガンプさんも応援を返しながら進む旅となった。旅先で出会った人たちとの接点が自然に生まれたことで、ファンコミュニティの熱量もどんどん高まっていき、共創型の広がりを見せる結果となった。
ネスレ日本・村岡慎太郎さんが登場し、ガンプ鈴木さんに花束を授与したシーン
次回の旅は来年1月スタート、受験生への応援メッセージを集める旅を計画しています。学業の神様・防府天満宮を目指します。旅の途中で会う方々に受験生の応援メッセージを書いてもらったり、直接応援を届けたり、キットカットの受験キャンペーンでやってきたことはずっと大事にしていきたいと考えています」(村岡さん)
全ては“応援”が軸に 継続的にコミュニケーションを広げていくことが使命
キットカットは定番製品、ご当地土産製品、期間限定製品、キャラクター型(サンタ型)製品など、幅を広げている
「人によって、それぞれに“ちょうどいい甘さ”があるので甘さが苦手な方にとっては、いつも寄り添ってくれる存在が『オトナの甘さ』になる。その人にとってのキットカットでありたいですね」(佐藤さん)
同ブランドは今回、「FMCGアジアアワード」を受賞した。これは、“受験のお守り”をはじめとした、キットカットの“応援”という強みの部分が、ほかの国の人たちにも理解してもらえた証左ともいえる。
「“応援”のコミュニケーションは、本当に日本独自のものです。他の国では、『Have a break, have a KitKat』なんですけど、日本で培われたこの文脈が今回アジアで評価をいただけたということは、やはり『キットカット』がグローバルブランドであるのと同時に、『キットカット』のメッセージを届ける文脈とを他の国の方々に理解いただけたからだと考えています。僕らとしては、そういった応援のコミュニケーションをスポット的ではなくて継続的に行っていきたいとあらためて思ったので、来年の「受験生への応援メッセージを集める旅」の取り組みにも、ぜひご期待いただければと思っております」(村岡さん)