• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
  • ホーム
  • ライフ
  • 『スイカバー』は「スイカ味」ではない? 特徴なき“スイカ”をどうアイスに…開発の舞台裏
(更新: ORICON NEWS

『スイカバー』は「スイカ味」ではない? 特徴なき“スイカ”をどうアイスに…開発の舞台裏

 1986年の発売以来、“スイカ味”のアイス代表格として、長年愛されてきた『スイカバー』。発売から37年たった今も他の追随を許さず、独自の展開で“スイカアイス”市場を独占しているロングセラー商品だ。アイス市場全体で見ても、目まぐるしく嗜好が変化し、各メーカーからほぼ毎週新商品が発売される中、コンビニやスーパーの限られた売り場スペースで選ばれ続けている。『スイカバー』が勝ち続ける秘訣をロッテ担当者に聞いた。

「スイカ味」は諦めた? 果汁は“わずか5%”の「スイカバー味」への舵切りで市場を独占

 『スイカバー』が誕生したのは、昭和61年。まるでカットスイカのような三角形のアイスバーは、「くだもの屋さんもビックリ!!」という当時のキャッチコピーよろしく、多くの人々に衝撃を与えた。

「食べているだけで夏を感じられ、楽しい気持ちになれるアイスを作りたいという想いから、開発しました。当時からスイカは夏の定番の食べ物として親しまれていましたが、スイカをお菓子にした商品は存在しなかったようです。スイカをアイスなど他の形態にしようという発想がなかったのかもしれません」(ロッテ・マーケティング本部・アイス企画課・江幡辰也さん/以下同)
 『スイカバー』発売後も競合たり得る商品が出てこなかったのは、「スイカの味をアイスで表現するのが難しい」というのが大きな理由だったと思われる。

「イチゴやメロンなどは果汁を使えば使うほどその味に近づくので、美味しく仕上がりやすいのですが、スイカはそれ自体の風味が弱く、美味しく仕上げることが難しいんです。スイカ味をリアルに再現しようとすると青臭くなり、スイーツからかけ離れてしまいます。やはりアイスである以上、”甘くて美味しい”ことは担保しないといけませんから」
 果たしてスイカの味をどう出すか? 悩んだ末、開発スタッフは発想を転換させる。スイカの味を忠実に再現するのではなく、”甘くて赤い”というスイカのイメージを元に、味を構築していくことに。ある種、“スイカ味”を諦めた結果、現在の味にたどり着いた。

「果汁をたくさん入れたら美味しくなるわけでもないので、スイカ果汁は5%にしています。その上で、赤い部分は“赤くて甘い”イメージ、緑の(皮の)部分は“緑の甘い”イメージで味を作っています。スイカ味というよりは”スイカバー味”を表現しました」

 また形状も、当初から追従を許さないこだわりが。四角い棒アイスが一般的だった中、スイカ型の三角形にするのはかなりのチャレンジだった。

「各家庭ではスイカを三角形に切って食べることが多かったので、そこまで再現しようと。かなりイレギュラーな形だったので、四角形に比べると箱の中での安定性が弱く、『売り場で売りにくい』という声もあったようです。でもその声に負けずに、徹底して三角形をやり続けました」

人気ブランドながら、“期間限定”を貫き続けている理由とは 奇しくも猛暑が追い風に

 発売してすぐ人気に火が付いたわけではなく、長い年月をかけて少しずつ認知度を上げていった。激しい競争の中で爆発的なヒットを狙おうと、つい路線変更しがちだが、今日にまで至る『スイカバー』の人気持続の背景には、「変えない勇気」があったと筆者は考える。

 まずその1つに、発売から現在まで一貫し、通年ではなく期間限定で販売している。毎年春・夏に販売され、大体お盆明けには店頭でなくなり始める。これにより、発売時からのコンセプトである“夏ならではの商品”として、長年に渡ってブランディングを確立してきた。
 だからこそ、同社のアイス商品の中でも、『スイカバー』は特に天候と相関性が高く、気温が上がるほど売上が伸びる傾向にある。故に昨今の猛暑続きは、同商品にとって奇しくも追い風となっているのだ。

「スイカバーは、気温が30度や35度を超えると売上が伸びる傾向が強いです。今は昔より暑くなっているので、やはり売り上げは堅調に推移しています。今後は“暑くなったらスイカバー”という訴求の仕方で、需要喚起を図っていきたいと思います」

 また、発売時から現在まで、原材料や製法にも大きな変わりはないという。赤いアイスと緑のアイス、そしてチョコ種から構成されるスイカバー。これを楽しみにしてくれているファンのために、やはり基本スタイルは「変えない」。その中で、絶えず進化しているのはチョコ種だ。

「開発当初はチョコチップも検討しましたが、口どけが悪かったので、パフにチョコレートをコーティングしたチョコ種を採用しました。その後もチョコレートの食感、美味しさについては日々改良を重ねています。水分の多いアイスと、油分の多いチョコでは融点が違うので、口の中の温度で心地よく溶けてくれるよう調整したり、カカオ成分の配合比率を検討したりしています」

ロングセラーの秘訣は「定番&限定2軸展開」 贅沢志向に流されない姿勢も“逆差別化”に?

 しかし、30年以上に渡って、同じものを作り続けていては生き残れない。激戦のアイス市場において、新規ユーザーの目を引くのは難しく、既存ファンは違う商品に流れていってしまう。そんな中でも、コンビニやスーパーの限られた売り場スペースの中で、毎夏必ず『スイカバー』が選ばれ続けているのは、「変えない」中でも「変化」を楽しんでいるからだ。

 定番品に加えて、10年前から『チョコかけちゃったスイカバー』(2013、2015年)、『黄色いスイカバー』(2015年)といった変わり種のスイカバーや、スイカバーから派生した『BIGメロンバー』(2016年)、『BIGパインバー』(2017年)など、毎年限定品が登場している。
「スイカバーは弊社の中でも、特に遊び心のあるブランドだと思います。昨年の『幸せ!?の青いスイカバー』や今年の『ピンクに染まった!?スイカバー』も、”もっともっと楽しくやろう”というマインドを持って取り組んでいます。定番の商品を毎夏楽しみにしてくださっている方々がいらっしゃるので、これまでやってきたことをぶらさず続けていく。その代わり、変わり種の限定品でワクワクも提供しながら、今後もファンを増やしていきたいと思っています」

 価格も、長らく「変えない」ことにこだわってきた。2019年までは定価100円をキープ。2020年から110円に改定され、現在に至っている。昨今のアイス市場は贅沢志向が高まっており、160円前後が一般的なプライスラインとなっているが、原材料や物流などの高騰もある中、110円をキープしているのはかなりの企業努力と言えるだろう。

「昨今は200〜300円台のアイスも見られますが、こうした高級志向と低価格帯の二極化が今後より顕著になってくると思います。スイカバーとしては、高い方に合わせるのでなく、現在の価格を維持しながら、“お手頃に買えるアイス”というイメージを浸透させたいです」
 いくら贅沢志向が高まろうと、“安くておいしいアイスを食べたい”というニーズはなくならないだろう。市場随一のスイカアイスとして、その代表格を担うポジションを狙っている。また、昨今の高級アイスラインナップでは見かけない “キャラクター”が存在していることも、今後強みとして押し出していくという。

「スイカバーにはオリジナルキャラクター(すいかばマン、かばメロちゃん)がいますので、それも活用して、日用雑貨やTシャツなど、アイス以外でのスイカバー商品を作りたいと考えています。アイス売り場だけでなく、他の売り場でも『スイカバー』を目にしてもらう機会があれば、さらにブランドとしての認知度も高まるかなと思っています」

 ぶれない味や形状、コンセプトを軸に変化を楽しむ――そんな“中の人”の遊び心が、老若男女問わずにファンの心を掴み、愛され続けているのだと感じた。夏休みの思い出としても、筆者の心に刻まれている『スイカバー』。昭和、平成、令和と、世代を超えて共有できる数少ない氷菓子として、今年も多くの人の“夏の味”として刻まれていくだろう。


(取材・文=水野幸則)

あなたにおすすめの記事

 を検索