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今や絶滅の危機? 昭和のけれん味残る“生CM”の未来とは
テレビ黎明期は“生コマ”が一般的「生放送番組が多く、コスパが良かった」
そんななか、ライオンが生コマを始めたのは、テレビ放送開始から19年を経た1972(昭和47)年。カラーテレビの普及率が60%を超え、『NHK紅白歌合戦』の視聴率が史上最高の80.6%を記録。さらにTBSドラマ『ありがとう』をはじめ、ホームドラマが軒並み高視聴率を記録するなど、テレビが隆盛を極めていた時代だった。
「TBSの情報番組『モーニングジャンボ 奥さま8時半です』とフジテレビの『奥様スタジオ 3時のあなた』の2番組で生コマを始めました。ハミガキや食器・野菜用洗剤、洗濯用洗剤など多くの日用品を手がける弊社にとって、出演者が実際に商品を手に取って使ってみせる生コマには、商品の良さを、最も訴求したい家事を担う視聴者層へよりリアルにアピールできるという利点があり、『マーケティングの妥当性のある戦術』でした」(ライオン ビジネス開発センター クリエイティブデザイン 宮城英明氏/以下同)
その後、時代とともにテレビ業界も進化。黎明期のように収録素材の放映にコストがかかることもなくなり、経済成長を背景にさまざまなアイデア、手法が用いられ、テレビCMは隆盛を極めた。加えて、生放送番組も減少という時代の変化とともに生コマは激減していったが、ライオンにとってけれん味あふれるこのスタイルでのCMの価値は変わらなかった。
「もちろん番組視聴率の変化によって、社内で議論になることはあります。それでも、弊社のような日用雑貨のメーカーには、まだまだテレビの影響力は大きいですし、“生コマ”も、CMのバリエーションのひとつとして長年定着している大事な手段となっています。もちろん一定の効果が認められているので、ここまで続いてきたのだと思います」
2014年から収録になるも“生コマスタイル”は維持「普遍的な日常を訴え続ける」
「日常雑貨を扱う弊社には、“いつもの何げない、変わらない日常が幸せ”という一貫したコンセプトがあります。旬のタレントを使っているインパクトのあるCMとは対称的に、この生コマでは、流行や時代に左右されずに、普遍的な日常性を訴えられることに意義を感じていますので、現在のスタイルを貫いています」
そのこだわりは長年、生コマを担当してきた出演者からもわかる。現在も出演している伊津野亮は約25年、佐藤遥子に至ってはなんと50年も出演し続けているのだ。さらに出演者に関しては、通常CMとは異なるこんなこだわりをもっている。
「一般的なCMでは、知名度や人気の高い、あるいはこれから話題になりそうなタレントさんを起用し、商品と一緒に覚えてほしいと考えますが、生コマはそれとはある種、対称的。ライオンのメッセンジャーとして、毎日、お客様に情報を届ける役割という位置づけなので、タレントより商品が立ち、内容や特徴がお客様にしっかり伝わるよう、生活感があって、身近な存在と感じられる人であることが肝だと思っています」
50年間継続の敬意はあるが、特別扱いせず「毎年その存在価値を模索しています」
「最初にきっかけなり“動機”があって、解決するために『こういう商品があります』という“プロミス(約束)”があり、それを使うと『こうなります』という“ベネフィット(恩恵)”がある。それをある一定の秒数のなかで、視聴者に分かりやすく届けるという形で構成が練られています。今はCGでいくらでも演出できますが、なるべくフリップの紙をはがしたり、黒板に書くなどやっていますね。手づくりの物ってつい、見てしまうんですよね。できるだけ視聴者に日常に近い雰囲気を感じていただけるよう、アナログ感を心がけています」
数々の流行語やヒット曲を生みだしているように、CMは時代を移す鏡。という意味では、時代錯誤な感じも否めない“生コマ”だが、今や長く続いてきたものだけが放てる様式美に変化してきているといっても過言ではないだろう。ある種の文化遺産ともいえるこのスタイルで放送開始から50周年を迎えたが、「CMはその時代、その時代のマーケティングの“表れ”。もちろん敬意はあるけれど、50周年だから偉いということでもない。毎年その存在価値を模索しています」と、シビアに判断されているという。市場全体を見ても“絶滅危惧種”である生コマは今後、どうなっていくのだろうか?
「商品ファーストで商品の特徴や利便性を一生懸命、視聴者にアピールするという手法は、企業のマーケティングがある限りなくならない。生コマのようなスタイル(一般的なCMよりも長尺で商品の実演や使用者の感想などを入れるもの)は、今後も一定の需要があるだろうと思います。そんななかで、今後はメディアの枠を超えたいろいろな組み合わせが出てくるのも面白いかなと思います」
取材・文/河上いつ子