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『クレヨンしんちゃん』愛され続ける秘ケツ 30周年振り返り座談会

 漫画・テレビアニメ・映画でおなじみの『クレヨンしんちゃん』。臼井儀人さんの漫画連載開始から2020年に30周年、1992年4月に放送開始したアニメも31年目。一時は「子どもに見せたくない」番組と言われた『クレヨンしんちゃん』が国民的アニメとなり、海外にもその人気が広がっている。製作委員会に名を連ねる双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADKエモーションズの担当者が一堂に会し(リモート含む)、しんちゃんが愛され続ける秘ケツを語り合った。
【出席者】
双葉社:鈴木健介さん
シンエイ動画:山崎智史さん、西川由香里さん
テレビ朝日:佐野敬信さん
ADKエモーションズ:秋山倫子さん

30年の歩みをざっくり振り返ると…

――2022年に公開された30作目の映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』が興行収入20.4億円の大ヒットとなり、テレビアニメのレギュラー放送も土曜夕方で定着。30周年を超えてなお勢いを増していますね。30年を振り返ってみたいのですが。

双葉社:鈴木このメンバーの中で一番長く『クレヨンしんちゃん』に携わっているのは僕ですが、それでも20年なんです。

――アニメ化初期の頃を知っている世代の方々はほとんどはすでに現場から退いていらっしゃる。30年というのはそれほど長い時間なんですね。2021年4月にテレビ朝日で放送された『しくじり先生』で紹介されていたのですが、ほかに本命の企画があったにも関わらず、「大人が子どもに振り回される斬新な家族アニメ」と評価されて、『クレヨンしんちゃん』のアニメ化が決定したそうですね。

双葉社:鈴木本当にライトな感じで始まったようなことは聞いています。初期の担当者たちもアニメが30年以上続くとは思っていなかったんじゃないかな。僕も20年も担当することになるとは思わなかったです。
 放送開始当初、視聴率が振るわず、制作現場には早々に打ち切りムードが漂う中、スタッフは「どうせ打ち切りになるなら、とことん子ども向けに振り切ろう」と決意。どんどんギャグを投入したところ、子どものファンを次々と獲得し、視聴率も上昇して、放送スタートから1年3ヶ月後には世帯視聴率28.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。その年の大みそかには『NHK紅白歌合戦』に野原しんのすけが登場し、「オラはにんきもの」を披露した。

 一方で、下ネタや大人に対する生意気な態度などから、放送当初は全国の親たちから苦情が殺到。そんな中でも制作スタッフは代表的なギャグのひとつ“ケツだけ星人”は死守しようと決意。その結果、2002年についに“子どもに見せたくない番組”の第1位となってしまい、その後、調査自体が終了するまでの18年連続で同ランキングのベスト5入りするという“金字塔”を打ち立てた。
ADK:秋山私は、“子どもに見せたくない番組”で話題になった頃『クレヨンしんちゃん』を毎週見ていた“子ども”ではなかったのですが、そのことはすごく印象に残っていました。3年ほど前に『クレヨンしんちゃん』の担当になって、印象はガラリと変わりました。実際に当時子どもで、今、親世代になっている方々から「子どもの頃に親には見ちゃいけないって言われたけれど、自分の子どもには見せたい」といった声を聞きます。いまは、“子どもにぜひ見てもらいたい”アニメの一つになっていると思います。

双葉社:鈴木30年の間には、社会現象になった後、落ち着いて、視聴率に苦戦したり、映画の興行収入が振るわなかったりした時期もありましたけど、みんなで協力して続けてきたのが、いまになって成績も残し、“ケツだけ星人”を死守したことで、30周年記念の企画展『しん劇!ケツだけワンダーランドの大冒険』(東京・池袋サンシャインシティ・展示ホールCで開催中) もできたのかな、と思います。

軸足は“笑い”に置く、再確認したターニングポイント

――流れを変えたのは、映画シリーズ9作目『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)と、シリーズ10作目『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(02年)。原恵一監督が手がけた両作は、それまでとはひと味違う“泣けるクレヨンしんちゃん”として話題になりました。『クレヨンしんちゃん』にとっての映画シリーズとは?

テレビ朝日:佐野30年も続いている作品なので歴代の担当者はそれぞれの考えがあると思うのですが、僕としてはテレビ番組の『クレヨンしんちゃん』は毎週放送していて1年に50回見てもらうことになるので、日常生活に溶け込んだものにしたいと思っています。そして何よりテレビは無料ですからね。一方で映画は1年に1回、決して安くはないお金を払って観てもらうものなので、日常とは違うイベント的なお祭りとして楽しんでいただけるものを提供したいなと。テレビ番組の日常感と映画の特別感、その違いは意識しています。

双葉社:鈴木レギュラー放送で日常を描いて、映画では日常でできないことをやろう。宇宙に行ったり、メキシコに行ったり、現実世界と地続きであったり、そうじゃなかったり。同じことはできないので、シンエイさんを中心に毎回毎回、知恵を絞って新しいテーマや舞台を考えてきました。確かに『オトナ帝国』と『戦国大合戦』はすごく評価していただき、エポックメイキングでした。その後、感動できる作品を作ろうと肩に力が入ってしまった時期もあったのですが、もうすぐ20周年だね、って頃に『クレヨンしんちゃん』で感動を狙ったらダメなんじゃないか、とプロデューサー、監督含め、みんなで話し合ったことがあったんです。

 『クレヨンしんちゃん』の軸足はあくまでも“笑い”に置くべきなんじゃないかと。もちろん作品ごとに伝えたいメッセージはあるけれど、まずは笑わってもらわなきゃ、というのをみんなで確認し合ったことをよく覚えています。そこからブレずにやってきて、興行的にも上向いてきた今がある、そういう印象なんですね。『クレヨンしんちゃん』のターニングポイントは、感動路線に傾きかけた後の、“やっぱりしんちゃんは笑い”だよね、という軸足を確認できた時だったのかな、と思います。

【シンエイ:西川】東日本大震災が起きた後、『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』(2011年)みたいなおふざけ映画を公開していいのだろうか、と話し合ったこともありましたよね。こんな時だから笑いが必要じゃないか、しんちゃんみたいに飄々(ひょうひょう)とした子どもが元気に駆け回っている姿を観てもらって、少しでも明るい気持ちなってもらえたら、と話し合ったことがありました。

 全国に初めて緊急事態宣言が発布された2020年も、映画館に人を呼び込んでいいのだろうか、という葛藤と、でも子どもたちに笑ってほしいよね、『クレヨンしんちゃん』だからできることがあるよね、といったことを話し合って、『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の公開を決めたことも、今、ふと思い出しました。

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