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小説や漫画も続々…男性ファンも魅了するタイBLドラマの現在地 クライムサスペンスやアクションなどジャンルも多様化

  • 『SOTUS 1』(KADOKAWA)

    『SOTUS 1』(KADOKAWA)

 日本の人気BLコミック『LOVE STAGE!!』(原作:影木栄貴/作画:蔵王大志)がタイでドラマ化され、この9月には日本での視聴もスタートした。タイのBLドラマといえば2020年3月頃よりSNSを通じて火が付き、日本でもたちまち熱烈なファンを獲得。この夏にはタイの人気俳優が集結したイベントも初開催され、大盛況を博した。昨今は原作小説の翻訳やコミカライズも盛んとなっているが、BLカルチャー発祥の地である日本で今後どのような発展を見せるのか。

『おっさんずラブ』などの良質なBLドラマの支持 配信タッチポイントが広がり、影響もあり間口が広がったタイBLドラマ

 タイの放送局・GMMTVが制作するドラマの出演俳優が一同に会する初のイベント『GMMTV FAN FEST 2022』が、8月27、28日に神奈川・ぴあアリーナMMで初開催された。チケットは、即完売し、急きょライブ配信も行われる大盛況となった。

 同イベントに登場したのは、『SOTUS/ソータス』や『A Tale of Thousand Stars』といったタイのBLドラマに出演する総勢11名。以前から人気に火が付いていたものの、コロナ禍により長らく来日がままならず、ようやく会えた推し俳優を前に大勢のファンが「実在していたんだ…!」と目を輝かせた。

 会場に足を運んだKADOKAWAの営業担当によると、「従来のコアなBLファンよりも客層が幅広く、女性がほとんどではあるものの、男性グループの姿も散見された」とのことだ。

「たしかにタイBLのアーリーアダプターは、従来からのBLファンでした。加えて日本でもすでに『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)や『きのう何食べた?』(テレビ東京系)などの良質なBLドラマが、広く支持されていた背景があり、面白い作品であればBLファンならずとも楽しむ視聴層が増えていたこと。さらに、テレビ放送や配信サイトなど、タイBLドラマのタッチポイントが広がったことで、美形ぞろいの俳優ファン、アジアドラマファンなども流入し、シーンが盛り上がっていったのが、ここ2年の流れだったと感じています」

 小説、コミック、映像などBLコンテンツのレーベルを複数持つKADOKAWAでは、2020年より部署を横断した連携施策をスタート。人気タイBL作品の日本語版小説やコミカライズを精力的に手掛けている。そして2022年には、「アジアBLプロジェクト」として正式に組織化された。

「もともとは各部署のタイBLファンが好きが高じて各々で動いていたのが、社内で横の繋がりができてプロジェクトに発展した形です。メディアミックスが企業文化としてある出版社ですので、ドラマから火がついたブームですが、原作小説の翻訳やコミカライズは自然な流れでした」(営業担当)

観ていてホッとするタイBLドラマ、描かれる男性カップルのごく当たり前の日常

 プロジェクトメンバーのほとんどは日本発祥のカルチャーであるBLの魅力を知り尽くしたファンでもある。にも関わらず、タイのBLに魅せられるのはなぜか?

「1つには文化の違いによる萌え要素がありました。例えば、タイでは大人の男性でも自分のことを下の名前で呼んだりするんですね。また大学に制服があるのも新鮮でした」(『Manner of Death』等書籍編集担当)

「親しい間柄でも本名を知らないことの多いあだ名文化や、学内における絶対的な上下関係・ソータス制度(新入生教育制度として大学の上級生が新入生に対して、礼儀や仕組みなどを厳しく教える校内システム)など、タイならではの文化により展開する刺激的な関係性も、日本のBLにはなかった要素です」(『SOTUS』コミカライズ編集担当)

 なかでも全員が口を揃えるのが「純愛」と「胸キュン」という要素だ。

「男性カップルがごく当たり前の日常にフラットに存在する世界観は、多様な性のあり方に比較的寛容なタイだから描けるのかもしれないですし、それがとても華やかで楽しく、観ていてホッとさせてくれるものがあるんです」(『SOTUS』コミカライズ編集担当)

 コロナ禍のさなかに癒しを与えてくれたタイBLドラマだが、昨今は作品のテイストも日常系ラブストーリーにとどまらず、クライムサスペンスやアクションものなど多様になっている。

「最近は俳優陣も王子様系の俳優だけでなく、ワイルド系や筋肉系の俳優も起用されるようになりました。例え好みのタイプの俳優じゃなかったとしても、圧倒的なドラマやストーリーとしての面白さに引き込まれ、そのなかで描かれる恋愛要素に自然とのめりこんでいくというファンも増えている印象です。ただし前述のイベントの盛り上がりからも、初期からのファンの多くはやはり最初に心を掴まれた要素、つまり美しい男同士の純愛を求めているのではないかと思います」(映像事業局担当)

タイBLドラマの翻訳小説と漫画では購入層が違う…日本原作の作品がタイでドラマ化される動きも

 では翻訳小説やコミカライズの取り組みは、タイBLシーンにどのような影響を与えたのか。

「翻訳小説のユーザーの多くは、タイBLドラマファンなのではと思います。『作品をより掘り下げたい』『ドラマで気になったことを再確認したい』という欲求から購入していただけるケースが多いようです」(『Manner of Death』等書籍編集担当)

「一方、コミックのユーザーは『タイBLが原作だとは知らなかった』という方も多い印象です。もともとBLコミックファンは、作家で作品を選ぶ傾向があるのもその理由だと考えられます。その意味では、コミカライズによってコンテンツにリーチする人は、より広がったのではないかと思います」(『SOTUS』コミカライズ編集担当)

 KADOKAWAでは、日本の人気BLコミック『LOVE STAGE!!』(原作・影木栄貴/作画・蔵王大志)をタイの俳優を起用し、タイでドラマ化する試みを行なっている。日本でアニメや映画化もされた同作は、ストーリーの面白さはもちろん、ファンが求める「純愛」と「胸キュン」も存分に堪能できるラブコメディだ。9月12日から逆輸入される形で、タイ版ドラマが衛星劇場で放送され、9月30日からはレンタル配信もスタートしている。今後こうした動きも増えることが予想される。

 タイBLブームが起こった当初に比べて日本上陸する作品も格段に増え、ファンであってもすべて追うのは難しいほどだと、メンバーは口々に言う。「多様性が広がった一方で、ドラマ『2gether』が、Twitterの世界トレンド1位を獲得したときのような、圧倒的なムーブメントを期待したい気持ちもあります。次なるアイコン的な作品の登場に期待したいところ」とメンバーが言っていたのが印象的だった。

 BLファンに熱狂的に愛される作品はこれからも作られ続けるだろう。一方でBL要素がありながらも、広く視聴者を惹きつける作品があることも証明されている。KADOKAWAの「アジアBLプロジェクト」では「今後もタイにとどまらず、台湾などのBL作品の翻訳、コミカライズにも広げていきたい」と意欲を見せている。BLドラマ大国・タイから発信される作品が、日本で韓国ドラマのような確固たるジャンルに育っていくか、今後も注視したい。

(文/児玉澄子)
『Manner of Death』
【著者】Sammon/【訳者】南知沙
【価格】1870円(税込)
◆『Manner of Death』オフィシャルサイト(外部サイト)
『Grab a Bite』
【著者】Sammon/【訳者】リリー
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『SOTUS 1』
【作画】慧/【原作】BitterSweet
【価格】 880円(税込)
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『完全版 LOVE STAGE!! 1』
【原作】影木栄貴/【作画】蔵王大志
【価格】1320円(税込)
◆『完全版 LOVE STAGE!! 1』オフィシャルサイト(外部サイト)
◆タイ版実写ドラマ『LOVE STAGE!!』オフィシャルサイト(外部サイト)

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