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(更新: ORICON NEWS

実現不可能と言われた「つめかえパックの水平リサイクル」が可能に? 技術者たちの挑戦

シャンプーや洗濯洗剤などで利用することの多い「つめかえパック」。本体容器にくらべ、約7〜8割のプラゴミ削減につながるというエコ製品だ。ところが本体容器に充填してしまえば使用済みゴミとして廃棄され、リサイクルされることがなかった。「技術的に困難」「開発費が膨大」であることから、「つめかえパックのリサイクル」は業界では夢物語とされていたが、今回、生活用品メーカー・花王が実現にむけて取り組んでいることがわかった。2025年の商品化を目指すという。同社の革新的な取り組みに注目した。

当初は困難の連続、ようやくたどり着いた“色の薄い”試作品

「飲料のペットボトルは単一の素材で作られているため比較的リサイクルが簡単ですが、様々な複合素材からできているシャンプーや洗剤などのつめかえパックは、強度の問題などから非常にリサイクルが難しく、これまで“実現困難”とされてきました」(花王株式会社・事業PR戦略部 小切琳子さん)

 環境省のデータ(※)によれば家庭用ゴミの容積での割合に占めるおよそ61%が包装容器で、プラスチック容器は48%ほどになる。そのプラスチックゴミ排出量で日本はアメリカに次いで世界第2位という不名誉な状況でもある。この環境課題に対して早くから取り組んでいるのが、化粧品からシャンプーや洗剤などの日用品を提供する花王だ。

 本体容器が空になっても中身だけを補充するつめかえパック製品を1991年から次々と発売し、プラスチックゴミの削減に貢献してきた。ところが、つめかえたあとは当然のように使用済みパックを捨てている現状があった。そこで使用済みのつめかえパックを再びつめかえパック製品として活用するという“究極のエコ”、「つめかえパックの水平リサイクル」を目指し、社内プロジェクトが始動した。

 2021年から和歌山県にある工場内に、リサイクル化のためだけに大規模な設備を建設し、回収した使用済みつめかえパックを洗浄、細断し、再びつめかえ製品の容器として再生する実験を試みてきたという。

「当初は複合素材であることが原因で穴あきだらけのフィルムになったり、パッケージに使われているインク等が影響して、くすんだ緑色に仕上がるという技術的な課題がありました。緑色にしかならないと製品として使い勝手がよくないですよね。最近、ようやく透明に近い“色の薄い”再つめかえパックを完成させるまでに至りましたが、まだまだ試作段階。製品化に向け一層の努力をしている最中です」

 再生プラスチックを使用したつめかえパックを製品化することで、プラスチックの資源循環のムーブメントが業界全体にも波及することをぜひ期待したいところだ。

(※)データ出典:環境省「容器包装廃棄物の使用・排出実態調査(令和元年度)」

つめかえパックのリサイクル試作品。(左)緑色の試作品(右)淡い色を実現できた改良品

つめかえパックのリサイクル試作品。(左)研究当初は緑色だった。(右)淡い色を実現できた改良品。

もはや容器不要? つめかえやすい形状を極めた『ラクラクecoパック』

 そもそもつめかえパック製品はいつ発売され、どのように進化して来たのだろうか。花王の川上直美さん(事業PR戦略部)に聞いた。

「当社では、たくさんのつめかえ製品を発売しておりますが、特に粘度の高い、コンディショナーなどの製品をつめかえるときの不満を解消するためずっと改良を重ねてきました。そしてついに残らずきれいに本体容器につめかえられるその名も『ラクラクecoパック』にたどり着きました」

 つめかえやすい形状を極めた『ラクラクecoパック』は、本体容器とぴったりフィットするそそぎ口を備え、中身をこぼさずに最後まできれいにつめかえられる優れものだ。そのうえ表面積を小さくし、薄さにもこだわることで、これまで以上にプラスチック使用量の削減を果たした。

 画期的な『ラクラクecoパック』は、つめかえ機能の進化にとどまらない。

「別売りの“スマートホルダー”に『ラクラクecoパック』をセットすればつめかえる作業もなく、ポンプを差し込むだけでそのまま使えます。また、同じく別売りの“らくらくスイッチ”は、『ラクラクecoパック』にフックとノズルをつけることで、パックをそのまま吊り下げて使用することができます」

 要するに、『ラクラクecoパック』はパックそのものが本体容器代わりとしても使える斬新な製品なのだ。最近では他社も同じ容器機構の製品を提供しはじめている。メーカーという垣根を超えて、これが広がれば、プラスチック使用量の削減は大幅に加速しそうだ。
  • つめかえやすい形状を極めた『ラクラクecoパック』。フィルム自体も薄くなり、これまで以上にプラスチック使用量の削減を果たした。

    つめかえやすい形状を極めた『ラクラクecoパック』。フィルム自体も薄くなり、これまで以上にプラスチック使用量の削減を果たした。

  • 『ラクラクecoパック』を中にセットして使う”スマートホルダー”。つめかえではなく”つけかえ”という新発想だ。

    『ラクラクecoパック』を中にセットして使う”スマートホルダー”。つめかえではなく”つけかえ”という新発想だ。

  • つめかえの『ラクラクecoパック』をつりさげて使える別売りの”らくらくスイッチ(フック、ノズルセット)”。もはやつめかえ不要の時代に。

    つめかえの『ラクラクecoパック』をつりさげて使える別売りの”らくらくスイッチ(フック、ノズルセット)”。もはやつめかえ不要の時代に。

「つめかえパックリサイクル」に残された大きな課題

 より使いやすい「つめかえパック」にたどり着き、使用済みつめかえパックのリサイクル化のメドも立ちつつある今、新たな課題もあるという。

「つめかえパックのリサイクルを実現するためには、使用済みの包装容器を回収しなければなりません。実証実験のために、これまでにも社内だけでは数が足りず、いくつかの自治体に協力していただいて、およそ73万枚にも及ぶ使用済みのつめかえパックを集めて実験して来ました。リサイクルによるつめかえパックの製品化を実現するには、安定供給しなければなりません。その原料となる、使用済み包装容器をどう回収するかの仕組みづくりも合わせて構築する必要があります。今はそれを試行錯誤している段階です」 (花王株式会社・事業PR戦略部 小切琳子さん)

 リサイクル化には、使用済みつめかえパックを効率よく回収しなければならず、手間がかかる。自治体や販売店との連携になるのか、それとも業界全体でリサイクルの枠組みを提案するのか、最後に残った課題は大きい。

 個人ひとりひとりでは環境保全活動に参加しにくく、効果を上げることも難しい。だが、日々の暮らしの中でエコロジカルな製品を選ぶことでプラスチック包装容器のゴミゼロにつながるのであれば、環境保全は誰にでも簡単に出来る。

 花王がつめかえパックの完全リサイクル化を進める先には、消費者に寄り添った環境保全の活動も見据えている。業界全体でこうした取り組みが推進されれば、環境保全の成果は今まで以上にきっと大きくなるはずだ。

(取材・文/福崎剛) 画像提供:花王

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