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音の遅延を「限りなくゼロに…」、音楽ゲーム“永遠の課題”に挑むゲーム技術者の気概

 通信技術の飛躍的な進化で、オンラインゲームは世界レベルで発展。国境を超えてリアルタイムで対戦するeスポーツ大会は頻繁に開催されており、スマホゲームを種目とする大会も増えている。そうした中、スマホゲームにおいて大きな課題だった「音ズレ」を限りなくゼロにする新技術が注目を集めている。スマホゲーム『ディズニー ミュージックパレード』を皮切りに人気ゲームに続々と導入されているこの新技術は、ゲームを超えて人々の暮らしをどのように豊かにするのだろうか。

当たり前とされてきた「音の遅延」、“ズレ”前提でプレイするゲーマーたちの実情

 ディズニーの名曲の数々でプレイできるタイトーの音楽ゲーム『ディズニー ミュージックパレード』(以下、ミューパレ)は、光の粒子が溢れる美しい3D空間をかけめぐるライドアトラクションを体感できるのが特徴。複数で“セッション”のように演奏を楽しめる演出も人気だが、ゲーム業界で大きな話題となったのが、スマホゲームの永遠の課題と言える「音の遅延」を大幅に改善した新技術である。
 スマホの普及やコロナ禍でゲーム人口は格段に広がった。中でも音楽やリズムに合わせて直感的にプレイできる音楽ゲーム(音ゲー)は、コアファンからライトユーザーまで幅広い層に楽しまれている。

 一方で、ゲーム専用機ではないスマホでゲームをプレイすることが一般的になる中で浮き彫りとなったのが、スマホをタップしてから音が鳴るまでのタイミングが遅れる「音ズレ問題」だ。

 とくに画面のタップと音の連動が心地よい音ゲーにおいて、音ズレは致命的だ。スマホはゲーム専用機ではないため、遅延が発生するのは仕方ないこととして、「音がズレることを前提に体(指)を動かすことで高得点を狙う」というヘビーユーザーもいるほどだ。

 とは言え、ゲーム開発者としてはプレイヤーに不必要なストレスを与えるのは本望ではない。音声や映像の独自技術でゲーム開発者を支えるCRI・ミドルウェアでも長らくこの課題に取り組んでおり、新技術『SonicSYNC』で、ついに業界の悲願だった「音ズレ限りなくゼロ」が実現された。

「人間が体感できる“ズレ”がほぼ解消」没入感の向上へ

 では実際のところ、“音ズレ”はどのくらい改善されたのか。開発に携わったCRI・ミドルウェアの最高技術責任者、櫻井敦史さんに解説してもらった。

 「たとえば音ズレが比較的小さいとされてきたiPhoneでも、従来は0.1秒ほどの遅延が発生していました。これが、『SonicSYNC』を導入したゲームでは、端末機種に関係なく0.05秒程度にまで縮められます。数字ではわかりにくいかもしれませんが、グランドピアノの鍵盤を押してから音が鳴るまでの時間は0.04〜0.06秒ほどですので、人間が体感できる音ズレはほとんど解消されたと言っていいでしょう」(櫻井さん)

 ちなみに音ズレを「完全にゼロ」にすることは理論的に不可能のようだ。

 「スマホをタップしてから音が鳴るまでには、@端末が画面タップを認識する時間、A音を準備する時間、Bスピーカーが音を鳴らすまでの時間。この3段階の時間がかかっています。このうち@とBはスマホの端末に依存しますし、さらにワイヤレスイヤホンなどの環境でも異なるので、アプリ側では制御できません。とは言え、@とBによる音ズレはそれほど大きくないんです」(櫻井さん)

 一方で、最近のゲームは音楽や効果音、キャラの声など多くのサウンドが複雑に重ねられており、これがAの部分「音を準備する時間」に大きな負担をかけていた。

 「これまでのゲームでは、Aのデータを圧縮したり、絵を出すタイミングを少し早めに調整してユーザーの気を紛らわせたりして遅延問題に取り組んできました。しかし、それにも限界があります。こうした方法論を根本から大規模なスケールで見直し、『音を作ってすぐに鳴らす』仕組みに変えたことで『A音を準備する時間』をゼロにしたのが『SonicSYNC』です」(櫻井さん)

 画期的とされる同技術は、昨年夏以降続々と人気ゲームに導入されている。新作はもちろんアップデートのタイミングで導入するゲームも多く、「ゲームの中のこと」のため見た目ではわからないが、プレイの体感変化に気づくユーザーも多い。

 「それまで音ズレ前提でプレイしていた方は、最初は違和感があったかもしれません。しかしこれも慣れの問題。私もゲームファンの1人ですが、音ズレは少なければ少ないほど没入感は向上しますし、ゲーム開発者が本来届けたかった魅力もきちんと届けられているはずです」(櫻井さん)

ゲーム事業から派生、ボイスチャットや自動車にも…“音ズレ”軽減はコミュニケーション分野全体で必要不可欠な命題に

 現在多くの人気ゲームに導入されている『SonicSYNC』だが、その開発の背景には音楽ゲーム『ディズニー ミュージックパレード』(以下、ミューパレ)が深く関わっていたという。

 「ミューパレは、画面をタップしたときに鳴るのが単なる効果音ではなく、ディズニー音楽に合わせて音階を奏でる仕組みになっています。まるで楽器を演奏しているような感覚を体験できるのも、ミューパレの魅力のひとつなんです。だからこそ、音の遅延は極限まで低減したいというのが開発チームからの要望でした」(櫻井さん)

 例えば7月1日に追加された新ワールド『リメンバー・ミー』の楽曲は、ミュージシャンを夢見る少年・ミゲルがギターをプレイするアクションが特徴。ミゲルとともにセッションしている感覚をより追求しているのだ。

 なお『SonicSYNC』の技術は、営利目的ではない個人のゲーム開発者向けなどに無料で開放している。「スマホゲームだから音ズレは仕方ない」と諦めず、業界をもっと盛り上げていきたいという想いがあるという。

 ゲームの最新技術が、生活のさまざまな場面に活用される例は多い。『SonicSYNC』もまた、「たとえば弊社で力を入れている領域の1つがクルマ関連。とくに危険を知らせる“警告音”は命に関わることもありますから、音ズレは限りなく低減させたいです。あるいは遠隔のカラオケや楽器のセッション、ボイスチャットなど、コミュニケーション分野への活用も考えられます」と広がりを期待している。ゲームで遊ぶ人もそうでない人も、私たちの日常がさまざまな技術者の努力と挑戦によって支えられていることを知っておきたい。
『ディズニー ミュージックパレード』(外部サイト)
ディズニー音楽に合わせてスマホ画面をタップするリズムアクション。楽曲は、『ミッキー&フレンズ』より「エレクトリカル パレードのテーマ」、『アナと雪の女王』より「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」、『リトル・マーメイド』より「アンダー・ザ・シー」など、数々の名曲がプレイできる。ディズニー作品のキャラクターが名シーンのライドに乗って駆け巡る演出が特徴で、イルミネーションのような演出が施された3D空間も見どころ。7月22日にサービス開始から1.5周年を迎えた。
※画像はすべてプレスリリースより

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