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乳がん罹患・両乳房全摘出に「性を売り物にした報い」 誹謗や偏見のなか、復帰した世界的“ポルノスター”の覚悟
小さなきっかけから“がん”発覚…次々と迫られる大きな選択
「同じアパートに住んでいる年配の日本人の方が、甲状腺のがんで入院されたんです。その時、なぜかいつもよりがんを身近に感じて、『乳がんは触るとわかる』というので、ふと胸に触れたらシコリがありました。でも、アメリカは医療費が高いし、痛みもなかったので、しばらくアクションは起こさなかったのですが、同じ女優の友人に『安心を買うために病院に行って』と諭されて病院に行きました」
医師からは、「99%以上の確率でがんではないが、シコリが大きいから」と勧められ、手術でシコリを切除。しかしその3週間後、検査結果でがんだったことを告げられ、そこから数ヵ月、検査漬けの日々が始まった。病と向き合う中で、何よりつらかったのは、女性にとって、そして自身にとって職業柄、大きく、苦しい選択を迫られたことだった。
「『念のため、切除したシコリのまわりの組織も取らなければならないが、それだと放射線治療を何回も受ける必要がある。手術自体は乳房を摘出するより軽いが、火傷のような痕が残る。一部を取るか、全部取るか』とか、『右胸にしかシコリはない。でも転移する可能性はすごくある。乳房を片方取るか、両方取るか』とか。自分の体の一部を取るなんていう今まで考えたこともない大きな選択を迫られて、しかも、モタモタしていたら転移してしまうので、数日以内に毎回答えなければいけなくて、本当に疲れ果ててしまいました」
摘出と再建手術…苦難の道を耐えられた「もう1度カメラの前に立ちたい」という切なる思い
「あるとき、自分ががんだと言う事実は変わらないから、2つも3つも欲張るのはやめよう。自分が生き残ったらやりたいことを1つだけ考えて、その1つは絶対に勝ち取ろうって思ったんです。それからは、『カメラの前にもう1度立つにはどうしたらいいか』を常に優先的に考えて、それに適した手術を希望し、行動しました」
信念を貫き、両乳房全摘出と再建という大手術を受けたのが19年3月のこと。幸い転移は見られなかったものの、“世界一痛い”とも言われる注射の激痛に耐え、手術を乗り切っても、望み通り、すぐに復帰することはできなかった。その苦難の過程は体が受けたダメージが物語っている。
「通常、胸の柔らかみや滑らかさは脂肪が出していますが、全摘出した私の胸は、脂肪なしのインプラントの質感まる分かりの状態。その後、現場に戻るためには、何回かの再建手術を繰り返えさなければいけなくなりました」
現在も、「一生消えなくなった傷や痣が胸に残っている」と語るMarica。復帰当初は嫌でたまらなかったその事実も、今は自分の勲章のように思えると微笑む。そう思えるきっかけとなったのは、辛い治療を乗り越える中、芽生えた夢の数々だった。
「手術後、数ヵ月は特別なブラジャーや体に埋め込んだドレーン(貯まったリンパ液を排出するための管)を収納するポケット付きのパジャマが必要なのですが、どれも色気もかわいさもない物しかなくて。ただでさえ治療中の辛い時期に、追い打ちをかけるようにどんよりした気持ちにさせられるんです。そんな経験から、患者さんのモチベーションを上げられるようなグッズをプロデュースしたいなと考え始めたり、両胸を失った“ポルノスター”が写真集を出したら、エロだけでなく、勇気や強さを表現できるのではないかと思ったり。新たな目標がいろいろ生まれて、その夢を叶えるためにもますますカメラの前に戻りたいし、戻るべきだと思いました。病気を経験したからこそ、自分がやりたいことや信じた道をもっともっと貪欲に突き進もう、生きているから望んだことは何でもできるのだからと、精神的に強くなった気がしますね」
誹謗・偏見にも屈せず「両胸を失ってもここまでやれるという勇気や強さを表現していきたい」
「アメリカでは宗教上の理由で性を売り物にすることを受けつけない人たちがいるので、その方たちから同じようなことを言われました。ただ、事実ではないので、何も感じませんでした。というか感じても私は1日で忘れられるので(笑)」
日本では、故飯島愛さんや他のセクシー女優のアイドル化により、以前に比べ社会的地位の向上し、偏見が少なくなったといわれているが、決して無くなったわけではない。Maricaも「少なからずあって当然」とキッパリ。
「だって人前で普段見せてはいけないことを見せているのですから、その偏見に関して、声をあげるつもりはありません。ただ、私が経験して感じたアダルトの世界は凄く厳しくて真面目で、愛がある。そして一般の世界では認められなかった人たちが認められるような優しい世界です。私自身、アダルトの世界は大人になって選んだ仕事のひとつで、自分自身、真剣に愛せる世界を見つけて幸せだと思っていますしね。ただ、1つだけ言うならば、家族は、自分の身内が偏見のある世界に飛び込むことを望んでいるはずがないので、家族に対しては、普通の世界で生きられなくて、心配かけてごめんなさいとは思います」
今後は、先の発言にもあったとおり、乳がん患者を応援するグッズの開発販売や、アダルトとメインストリーム、国の枠を超え、書籍・写真集などを通して、「両胸を失ってもここまでやれるという勇気や強さを表現していきたい」と語るMarica。現在は、ドキュメント映画も制作中だ。
「私は、本当に特技があるわけでも無いし、ずば抜けた美人でも無いです。でもあえて自分の強みをあげるならば、誰もやったことがない場所に飛び込む勇気、タイミングの計り方、そして飛び込んだら徹底的に努力する力が人並み外れていると思います」
偏見や固定観念を乗り越え、自らの道を切り開いてきたMarica。今後も、力強い歩みで“生”を表現してくれることだろう。
取材・文/河上いつ子