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ユニクロの牙城を崩すのはコンビニ? ファストファッションの勢力図に変化の兆し
緊急需要が主流だったコンビニ衣料品、デザイン性と品質を担保した「Convenience Wear」
ファミリーマートがスタートした「Convenience Wear」は、そうした“コンビニの衣料品”の概念を覆したファッションブランド。「じぶんを愛そう。いい素材、いい技術、いいデザイン」をコンセプトに、世界的ファッションデザイナー・落合宏理氏と共同開発したアウターTシャツやインナーなど、68種類が全国で購入できる。
落合氏は、自身が手がけるファッションブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のほか、リオ五輪・パラ五輪の閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」の衣装制作なども手がけた人気のデザイナー。SNSでは、「FACETASMの服がファミマで買えるの!?」「ファミマのアパレルをファッションデザイナーが手がける時代。それもクリス・ブラウンやカニエ・ウェスト、ジャスティン・ビーバーなどが愛用する世界的ブランドのデザイナーを起用するあたり、ファミリーマートさんさすがといった感じ。お得でしかない」といった驚きの声も上がっている。
デザインはもとより品質にもこだわった。主にインナーに使用されている高機能素材は、旭化成の機能素材「ペアクール(R)」と伊藤忠の「RENU」を使用し、繊維の配合から独自で開発するなど、アパレルブランドさながらの品質を追求している。
品質やデザインの追求はもとより、あらゆる世代や志向の人への信頼獲得が重用
「“コンビニの衣料品=緊急需要”というイメージから一歩進んで、毎日身に付けたい、長く着続けたいと思っていただけるアイテムをお届けするのが『Convenience Wear』のコンセプト。そのためアウターは挑戦したい商品の1つでした。ただし弊社の独りよがりになってはいけない。コンビニの売り場の特性をきちんと意識した上で、商品開発と展開をしていく必要があると考えています」(吉村氏)
SNSには「1枚で着ても乳首が透けないのがありがたい」「丈も幅もいい感じで着心地最高」と着用感をレポートするコメントも寄せられている。この声から従来の“コンビニの衣料品”を普段使いすることへの不安と、それが払拭された感激が伝わってくる。
デザイナーの落合氏は「無地のTシャツは現代の日本人なら誰もが着こなせる最もベーシックな日常着」と位置付けている。選択肢もファストファッションからストリートブランド、ハイブランドなどと広く、「白Tは絶対に◯◯」とこだわる人もいる。一方で「手軽に買えればいいが、品質が悪いものはイヤだ」という人もいるだろう。
「ステッチの幅やシルエットといったデザインを追求するのはプロとして当たり前の仕事であり、他のブランドと遜色のない完成度になったと自負しています。コンビニで展開する上で最も重要なのは、あらゆる世代や志向の方に信頼していただくこと。プロジェクトにあたってファミリーマート店舗を回り、オーナーさんやスタッフさん、お客さんなど多様な方々の意見を聞けたのはデザイナーとして非常に有意義な経験でした」(落合氏)
ファストファッションを“競合”という意識で臨むべき
「緊急ニーズだけを狙うのだったら、こうしたデザインは採用されなかったはずです。僕がこのプロジェクトを受けた理由の1つとして、ファッション業界を目指す次世代にデザイナーとしての新たな可能性を提示したいという思いがありました。現在、アパレル業界はビジネスとして厳しく、若い人たちが夢を抱けない状況にあります。そうしたなかで自分のクリエイションを発揮する新しいストーリーを見せることができたのは、ファッション業界にとってもありがたいことで、同業者からは『応援したい』という声がたくさん届いています」(落合氏)
落合氏も語っている通り、コロナ禍も相まってアパレル業界は全体的に不調だ。そのなかでもファストファッションのみが引き続き市場を伸ばしている。その理由として挙げられるのは、低価格で品質とデザインも納得できる満足度の高さ。また店舗数やオンラインショップが充実している手軽さ、アクセスの良さもファストファッションの特徴だが、その点では店舗数をはじめ、24時間365日営業のコンビニに軍配が上がる。
さらに高品質・良デザイン・低価格を実現した「Convenience Wear」は、ファストファッション市場を脅かす存在になるかもしれない。それを象徴するかのようにSNSでは、「ラーメンと一緒にTシャツも買った」「おにぎりやファミチキも美味しいし、雑誌も置いているし、Tシャツもある」といった声も上がっている。
「ファストファッションもコンビニも、今や日本人のライフスタイルに定着した文化です。また、高品質な商品を取り揃えて常に時代の最先端を発信してきたのがコンビニであって、質のいい衣料品を当たり前に買える場であってもぜんぜんおかしくないですよね」(落合氏)
「もちろんファストファッションとは業態も違いますし、ユーザーを取り合う意図はありません。ただ弊社としては、『安心できる衣料品として当たり前に買っていただきたい』という思いがあります。そういう意味では、“競合”という意識で臨むべきだとは思っています」(吉村氏)
品質、価格、デザインでしのぎを削るファストファッション業界だが、「Convenience Wear」のアイテムが充実することで、その勢力図が変わる可能性もある。いずれにせよ消費者としては選択肢が広がるのは歓迎すべきことだ。
(文/児玉澄子)