アニメ&ゲーム カテゴリ
(更新: ORICON NEWS

『聖☆おにいさん』中村光、育休中は「ものすごく不安だった…」乗り越えた商業漫画家の原動力

コンビニを舞台に社会風刺? 「普通の人が成長する物語にしたかった」

──『ブラックナイトパレード』は、コンビニバイトの主人公・三春くんが、ブラック企業のサンタ工場にスカウトされるというユニークな物語です。

中村さんなかなか内定をもらえなかった主人公が、やっと就職先が決まって成長していく内容です。若い子たちは、その時代ごとに就職難を抱えて、さらに就職しても競争社会でたくさんのストレスにさらされていますよね。Twitterでリアルな声を拾いながら構想しました。

──三春くんは就活に失敗して、コンビニバイトをしていることに自虐的になったりしています。一方、物語では「コンビニ」が重要な拠点にもなりますね。

中村さん私の田舎には、家から離れたところに1軒のコンビニしかなかったので、存在そのものがちょっと神格化してるところがあるんです(笑)。なんでも売っててワクワクするところみたいな。ただ東京に暮らしてみて思ったのは、現代の人にとってコンビニってRPGゲームで言うところの「セープポイント」みたいな場所なんじゃないかなと。

──コンビニ=セーブポイント、わかる気がします!

中村さん仕事で疲れたときにふらっと立ち寄って、お店を出るときには回復しているようなイメージです。あと、コンビニ店員さんってものすごくマルチタスクですよね。レジ打ちはもちろんですけど、商品出しから、ホットスナックの調理から、公共料金の支払いまでなんでもこなします。今や、コンビニがなければ生活が回らない、という方もいるはずです。

──何の特技もなさそうな三春くんですが、回を追うごとに異能を発揮していきます。彼には何を託していますか?

中村さんその発想も、「みんな気づいてないけど、実はコンビニ店員さんってものすごい能力の持ち主なんじゃないかな」というところからでした。「普通の人」って、学校へ行って受験して…ものすごく全部を成功させているような人だと思うんです。社会で「普通にできて当たり前」と思って頑張る人ってたくさんいると思うんですけど、普通でいることって当たり前にはできないし、本当はすごいことだってことを伝えたいと思ったんです。

──一方で、三春くんみたいな「普通の人」を困らせるキャラも登場します。たとえばキラキラネームの皇帝(カイザー)くんはDQNなチャラ男。稲穂ちゃんは、したたかであざとい美女です。現実にもいそうでリアリティがありますね。

中村さん今まで描いてきた漫画には、「敵」とか「嫌なやつ」、「裏表のある人間」が登場することがなくて、それに挑戦してみたいという想いがありました。カイザーや稲穂は、そういう意味でとても描いていて楽しいキャラクターです。

トラウマを抱えたクリスマス、さみしく過ごす人がいたら「漫画で笑い飛ばして」

──そもそもクリスマスを題材にしたきっかけは?

中村さんもともとクリスマスが大好きだったんです。両親がわりと本格的にクリスマスを演出するタイプで、小さい頃の楽しい思い出がたくさん詰まった日でした。

──だけどキライになってしまった?

中村さんはい。大人になって東京で一人暮らしをするようになってからですね。「中止になってくれないかな」と思ったりもしました(笑)。私はわりとファミレスや喫茶店などで漫画を描くことが多いんですが、この時期にお店の隅っこの席で、1人で漫画を描いていて、変なカップルに絡まれたりしたこともあったんですよ…。オタクいじりじゃないですけど。

──多くの人が“クリスマスは恋人と過ごす”という妙なプレッシャーを感じていそうです。

中村さん今となっては「くだらない価値観に縛られてたんだな」と思えるようになりましたけど、やっぱり若い読者さんにとっては良くも悪くも特別な日だと思うんですよね。なので、『ブラックナイトパレード』は、ギャグも所々に入れて、笑い飛ばせるような漫画になったらいいなと思ったんです。読者のみなさんも、漫画でも辛い思いをしたくないですからね(笑)。
■『ブラックナイトパレード』(外部サイト)
『聖☆おにいさん』、『荒川アンダー ザ ブリッジ』で知られる中村光の10年ぶりの新連載。クリスマスを1人むなしくコンビニバイトに費やしていた青年・日野三春は、その夜、顔のない黒いサンタ服の男に遭遇する。「悪い子の所には、黒いサンタがやってくる」そう語る男に「悪い子」だと告げられた三春は、突如、サンタの袋に捕食され…気づけばそこは、世にも奇妙なサンタの会社!悪い子は、サンタのために強制就労させられてしまうのだという…。かくして三春の“北極社畜ライフ”がスタートした。(6巻:2020年12月18日に発売)

あなたにおすすめの記事

 を検索