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ぬいぐるみ一筋30年「やまね工房」の卸売り終了に絶えない惜しむ声、作家が明かす後継者問題と今後

 30年以上もの間、全て手作業でぬいぐるみを作り続けている「やまね工房」。一般的なキャラクターのぬいぐるみとは異なり、代表作のニホンヤマネの他、モモンガやフクロウなど日本に生息する野生動物を題材にしたぬいぐるみを販売している。その素朴すぎるフォルムに根強いファンは多く、SNSでは「子どもの頃から大切にしている」「癒しでしかない」「わたしの永遠の推し」などの投稿が寄せられている。そんな長く愛され続けている「やまね工房」の代表でぬいぐるみ作家の落合けいこさんに、ぬいぐるみの役割やこだわり、技術を継承する難しさ、そして今後について聞いた。

卸売り終了も、惜しむ声止まず…後継者問題

 根強い人気で、親子2代で可愛がるほどのファンもいる「やまね工房」だが、2017年には縫製を依頼していた工場の廃業とともに惜しまれながら卸販売を終了。現在は直営店とネットショップのみの販売となっている。卸販売終了を発表したブログには、やまね工房のぬいぐるみを愛する人たちから多くのコメントが。「とても残念です」、「大好きだったのに悲しい」と終了を惜しむ声の他、「ずっと大事に手元に置いておきます」、「ぬいぐるみが大切な思い出になりました。ありがとう」という感謝の言葉も多く、落合さんの生み出してきたぬいぐるみがいかに愛されてきたかが伺える。

 「たくさんの声を頂いて驚くと同時に、とても嬉しかったです。子どもの頃の大切な思い出と言ってくださる方もいて、私のやってきたことは間違いじゃなかったんだなと実感しました。子どもの頃の幸せな思い出って、その人の根っこを作るんじゃないかと思うんです。だからぬいぐるみが、その幸せな記憶の1ページになれたのなら、すごく幸せですね」(落合さん)
 30年の間には、やまね工房のぬいぐるみに魅せられ、その技術を継承しようと訪ねてきた人も多くいたという。だが、続けるために後継者を育てることは、その間のお給料をカバーするだけの基盤も必要であり、体力も必要だ。技術を伝承する難しさについて落合さんはこう語る。

 「訪ねてきてくれた人を社員にして、育てようとしたことも何度もありました。でも、技術は伝えられても、感性は与えられないから。真似をしようとしても同じ様にはできないし、自分の中に表現したいものがなかったら作れないんですね」(落合さん)

 そして、バブル崩壊や震災で次々工場が廃業するという時代の流れの中、高い品質を支えてきた職人も高齢化し、やまね工房が縫製を依頼していた工場も廃業。ついに2017年6月、やまね工房は卸販売終了を決意する。
「様々な理由がありますが、一番はもう日本では作れないからです。何とか続けられないかと色々探しましたが、同じクオリティーを求めると不可能だと判断しました」(落合さん)

「日本の動物は日本で作りたい」リアルさ再現のため研究の日々

 リアルさを再現するため、落合さんは野生動物の研究を重ねた。作り始めた当初は今のようなネット時代ではなかったため、資料を集め、実際に見て、なかなか見られないものについては研究者や博物館の人などエキスパートに話を聞いて、1つ1つ作り上げていったのだ。そんなやまね工房のぬいぐるみは、自然の中に溶け込んでしまうほど本物そっくりの仕上がり。
 「撮影でヤマネを落ち葉の中に置くと、保護色になっているのでどこに置いたかわからなくなることも(笑)。ある方が、“子どもを自転車に乗せて公園に行く途中にモモンガのぬいぐるみを落としてしまったら、トンビにさらわれた”と教えてくれたこともありました。ごまかしの効かない鳥の目にも本物に見えたのは嬉しかったですね」(落合さん)
 動物について知り、1つずつ魂を込めて制作されたぬいぐるみたち。工場で手作業する職人たちとも想いが共鳴し、愛を持ってくれたからこそ作れたと落合さんは言う。想像だけでなく、実際に動物のことを知らないと本当にいい物は作れない。だからこそ、日本に生息する動物たちは、日本で作るというのがやまね工房のこだわりでもあるのだ。

 移り変わりが激しいキャラクターものではなく、商売として始めたわけでもなかったぬいぐるみ販売。だからこそ30年以上続いたと落合さんは語る。
 「1つのぬいぐるみを作るのに、素材選びから工程まですべてこだわって制作しているんです。実際の動物と同じになるように毛足の密度や向きを考えたり、加工の温度を調整したり、そういう技術的なことは量産するとそのままはできない。似て非なるものを作ったら儲かるかもしれないけど、私のやりたいことはそういうことではなかったんですね」(落合さん)

病気で変化した人生観、ぬいぐるみ作りの今後

 様々な困難にぶつかりつつ、“やめたら文化の喪失になる”という想いを胸に、ぬいぐるみ作りを続けた落合さん。
 「お金のためにやっていたら、とっくに終わっていたと思います。利益集団になってクオリティーが落ちたら、何のために作っているのかわからなくなってしまうので」(落合さん)

 自身の信念を貫き通したからこそ、長きにわたり愛されるぬいぐるみを作り続けられたのだろう。

 元々、環境保護や自然の大切さを伝えるための活動として生み出されたというぬいぐるみたち。その役割は十分に果たしてくれたと落合さんは語る。
 「私がぬいぐるみに伝えてもらいたかった言葉は、もう多くの人が分かっていると思うんです。彼らはメッセンジャーとしての役割をもう十分果たしてくれました」(落合さん)

 また、6年前に突然くも膜下出血で倒れたことで、人生観も変化したという。
 「諦めたらそこで終わり。ぬいぐるみは作れなくなったけど、やまね工房はきちんと“仕舞えた”と思います」(落合さん)

 そう語る落合さんの次なる目標は、オープンガーデンカフェ開店。これまでに集めた膨大な資料を展示するライブラリーや、ワークショップを開催し、生地があるうちは、可能な限りぬいぐるみ作りも続けていくそうだ。

 「人生は一期一会だし、やり直しできないから。私には子どもはいないけど、やまね工房というひとつのコミュニケーションツールみたいなものを育てた自負はあります。やまね工房は私の“全部”でした。今までの作品と変わらない想いはこれからも残るので、簡単には終わらないと思います」(落合さん)

 1匹のやまねから始まり、多くの人に大切なメッセージを伝え続けた野生動物のぬいぐるみたち。落合さんが彼らを通して紡ぎだした想いは、時を超えてこれからも伝わっていくはずだ。
 
【Information】
◆ぬいぐるみへのこだわり解説や、オンラインショップはこちら
やまね工房公式サイト

◆店舗や工房のリニューアル情報も更新中
ぬいぐるみ作家・落合けいこさん ブログ「さとやま暮らし」

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