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ぬいぐるみ一筋30年「やまね工房」の卸売り終了に絶えない惜しむ声、作家が明かす後継者問題と今後
卸売り終了も、惜しむ声止まず…後継者問題
「たくさんの声を頂いて驚くと同時に、とても嬉しかったです。子どもの頃の大切な思い出と言ってくださる方もいて、私のやってきたことは間違いじゃなかったんだなと実感しました。子どもの頃の幸せな思い出って、その人の根っこを作るんじゃないかと思うんです。だからぬいぐるみが、その幸せな記憶の1ページになれたのなら、すごく幸せですね」(落合さん)
「訪ねてきてくれた人を社員にして、育てようとしたことも何度もありました。でも、技術は伝えられても、感性は与えられないから。真似をしようとしても同じ様にはできないし、自分の中に表現したいものがなかったら作れないんですね」(落合さん)
そして、バブル崩壊や震災で次々工場が廃業するという時代の流れの中、高い品質を支えてきた職人も高齢化し、やまね工房が縫製を依頼していた工場も廃業。ついに2017年6月、やまね工房は卸販売終了を決意する。
「様々な理由がありますが、一番はもう日本では作れないからです。何とか続けられないかと色々探しましたが、同じクオリティーを求めると不可能だと判断しました」(落合さん)
「日本の動物は日本で作りたい」リアルさ再現のため研究の日々
「撮影でヤマネを落ち葉の中に置くと、保護色になっているのでどこに置いたかわからなくなることも(笑)。ある方が、“子どもを自転車に乗せて公園に行く途中にモモンガのぬいぐるみを落としてしまったら、トンビにさらわれた”と教えてくれたこともありました。ごまかしの効かない鳥の目にも本物に見えたのは嬉しかったですね」(落合さん)
移り変わりが激しいキャラクターものではなく、商売として始めたわけでもなかったぬいぐるみ販売。だからこそ30年以上続いたと落合さんは語る。
「1つのぬいぐるみを作るのに、素材選びから工程まですべてこだわって制作しているんです。実際の動物と同じになるように毛足の密度や向きを考えたり、加工の温度を調整したり、そういう技術的なことは量産するとそのままはできない。似て非なるものを作ったら儲かるかもしれないけど、私のやりたいことはそういうことではなかったんですね」(落合さん)
病気で変化した人生観、ぬいぐるみ作りの今後
「お金のためにやっていたら、とっくに終わっていたと思います。利益集団になってクオリティーが落ちたら、何のために作っているのかわからなくなってしまうので」(落合さん)
自身の信念を貫き通したからこそ、長きにわたり愛されるぬいぐるみを作り続けられたのだろう。
元々、環境保護や自然の大切さを伝えるための活動として生み出されたというぬいぐるみたち。その役割は十分に果たしてくれたと落合さんは語る。
「私がぬいぐるみに伝えてもらいたかった言葉は、もう多くの人が分かっていると思うんです。彼らはメッセンジャーとしての役割をもう十分果たしてくれました」(落合さん)
また、6年前に突然くも膜下出血で倒れたことで、人生観も変化したという。
「諦めたらそこで終わり。ぬいぐるみは作れなくなったけど、やまね工房はきちんと“仕舞えた”と思います」(落合さん)
そう語る落合さんの次なる目標は、オープンガーデンカフェ開店。これまでに集めた膨大な資料を展示するライブラリーや、ワークショップを開催し、生地があるうちは、可能な限りぬいぐるみ作りも続けていくそうだ。
「人生は一期一会だし、やり直しできないから。私には子どもはいないけど、やまね工房というひとつのコミュニケーションツールみたいなものを育てた自負はあります。やまね工房は私の“全部”でした。今までの作品と変わらない想いはこれからも残るので、簡単には終わらないと思います」(落合さん)
1匹のやまねから始まり、多くの人に大切なメッセージを伝え続けた野生動物のぬいぐるみたち。落合さんが彼らを通して紡ぎだした想いは、時を超えてこれからも伝わっていくはずだ。