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(更新: ORICON NEWS

ブサイク芸人殿堂入り・アインシュタイン稲田から学ぶ“鈍感力” 「コンプレックスではなく『個性』だと思っていた」

 今年1月12日に放送された『人志松本のすべらない話』にて、自身の容姿が呼び寄せた悲しくも可笑しいエピソードを披露し、見事MVSに輝いたお笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹。よしもとが毎年行う「ブサイク芸人ランキング」では3年連続1位となり、圧倒的な強さで殿堂入り。ベテラン芸人・今くるよをして、その姿に「よしもとの宝」とうならせ、周囲の芸人から「ブサイク芸人の歴史を終わせる」と形容されるほどの顔面のインパクトを持つ男だ。昨年にはドラマ「ちょうどいいブスのススメ」が、タイトルが乱暴だと炎上した出来事があるなど、容姿にまつわる話題がセンシティブになっている中、鮮やかにネタに昇華し続ける稲田から「前向きにいられる」理由を探った。

知らない子どもから「あいつ見たことある!」と言われた少年時代

 1984年12月28日、大阪府四條畷市に生まれた稲田。幼いころから周囲よりも少しだけ“あごがしゃくれて”いたが、容姿について話題にされることは少なかったという。

「周りが僕の顔をいじったりせず、優しい人ばかりだったから、それほど変わっていると思うこともありませんでした。性格もぜんぜん曲がらずに成長できて」

 ただ、今思うと本人が「あれ?」と感じた忘れられないエピソードがある。

「お母さんと一緒にお出かけしてて、電車の中で学区も違う全く知らない男の子から『あいつ見たことある!』って言われたことがあるんですよ。そのときは『なんでやろ』って感じでしたが、今思うと、一度見たら忘れられない珍しい顔だったんでしょうね。知らない人から顔を指されることは子供のころからちょいちょいありました」

ヘアスタイルを奇抜にしたら教師に「いじめられた」と心配される

 性格はおとなしく、少年時代は穏やかな日々を過ごしていた稲田。しかし、高校2年の終わりごろに転機が訪れる。当時、FUJIWARAや2丁拳銃が出演していたバラエティ番組『吉本超合金』が流行っており、“お笑いのノリ”に憧れを抱くようになった。それと同時に、ちょっとやんちゃな友人たちと仲良くなり、「ボケ」「ツッコミ」や「調子乗り」を繰り広げるようになったそうだ。

「ある日、『みんないじってくるやろうな〜』とワクワクしながら、頭のてっぺんだけ髪を残したヘアスタイルで登校したことがあったんですよ。案の定、生活指導室に呼び出されて『めっちゃ怒られるんやろな』と思ったら、先生が真剣な顔をして『ノーと言えるようにならないといけないよ』って諭してきたんです(笑)。必死に『自分でやったんですよ』って信じてもらえなくて、たぶん先生からしたら、僕のような子がそういうことをすると思えなかったんでしょうね」

 停学処分になってもおかしくないようなことをしてきたが、その見た目や性格から「稲田はほかの生徒からやらされている可能性がある」という教師たちの見解により、咎められることがなかった。

「青春の1ページとして停学処分になることに対してちょっと憧れもあったんですよ。僕は怒られたいのに、なんで大人はこんなにも守ってくれるんだろうと不思議でしたね」

前向きな姿勢を作ってくれたのはラルク?「明日起きたらhydeになってますように…」

 当時、稲田がお笑いのほかに憧れていた人がいる。それが現在もファンを公言するロックバンド・L'Arc-en-Ciel(ラルクアンシエル)だ。

「自分の部屋の窓から、よく月が見えていたんですよ。そんな日は、『明日起きたらhydeみたいになってますように』と祈るのを習慣にしていました。でも、朝起きてもやっぱり“稲田”なんです。『なんでまた稲田やねん!』ってなって、めっちゃしんどかったです(笑)」

 hydeのような“美形代表”を常に憧れにしてきたのが、ポジティブでいられる秘訣なのだろうか。余談だが、稲田は現在の地位を築いたあとにも、L'Arc-en-Cielのライブを訪れたことがある。そこで気分が高揚して自身の隣にいたギャルに「このあとご飯行きませんか」と調子に乗って声をかけたが「hyde見た後にこれはないわ!」とバッサリ断られたそうだ。

「M-1」優勝の先に掲げている壮大な目標とは

 高校を卒業後は、一度は就職をした稲田。しかし、その数か月後、中学時代の同級生から、芸人へのオファーを受ける(※旧コンビ名「バンパイア」)。

「『夢を追う』ってことに憧れを持っていました。このままで一生終えるのではなくて、なにかしてみたい。それで吉本に入りました」

 当初は、現在の芸風とは違い、ネタの中で顔をいじることは全くなかったという。その理由は「単純に気付いてなかった」から。そんな自身を「鈍感なのかな……」と振り返る。

「芸人始めたばかりのときは、自覚が足りなかったんでしょうね。『ちょっと個性的かな』とは思っていたぐらいで。自分が感じている以上に、先輩がめっちゃいじってくるようになって、やっと認識しました。その後ライブのつかみで初めて『顔、捨てたろか!』って言ったとき、気持ちいいくらいウケたんですよ。『あ、お客さん、これ言ってほしかったんや』って、はじめてわかって(笑)」

 自身の顔のユニークさに気づき始めたことで、芸風も自身の容姿いじりが多くなり、人気も知名度も上昇。だが、いくら芸人という職業とはいえ、言われすぎて疲弊することはないのか。

「これまで自分の顔は、コンプレックスじゃなく『個性』と思っていて。いじられても『イヤなこと』ではなかったんです。むしろ見た目の良し悪しよりも、人のことを悪く言う人、いわゆる“性格ブス”の人のほうが軽蔑しちゃいますね」

 稲田の顔が個性的なだけだったら、現在の人気はなかったかもしれない。彼の「素直な性格」に加え、人がコンプレックスに思うことを意に介さない「鈍感力」があったからこその立ち位置だろう。今後、東京進出もささやかれるが最後に芸人としてのビジョンを聞いたところ、臆することなくこう語った。

「芸人として賞レースで結果を出すことや、冠番組を持つことはもちろん目標の一つとしてあるんですが、それって当然のことで、自分なりの『これだ!』というものがなかったんです。でも最近結論が出ました。目標は、“L'Arc〜en〜Cielさんが面白いと言ってくれる芸人になること”です。僕にとっては『M-1』優勝の、さらに向こうにある、大事なことのような気がしています」

(文・氏家裕子/写真・山口真由子)

Information

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