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「僕は鬼が怖いと思った」桃太郎目線の“1人称童話”が保護者に好評、子どもが考えるきっかけに

  • お話を聞かせてくれたクゲユウジさん

    お話を聞かせてくれたクゲユウジさん

 “桃太郎が語る桃太郎とは?”そんな童話の主人公目線で描かれた絵本『1人称童話』シリーズが2018年度グッドデザイン賞の金賞を受賞し、話題となっている。これまでの童話のストーリーは踏襲しつつも、登場人物の気持ちや行動を自由に想像し、新たな視点で物語を生み出している。なぜ、このような作品を制作したのか?本書の企画・文を担当したクゲユウジさんに話を聞いた。

グッドデザイン賞を受賞 “広告が消費されていく切なさ”から生まれた絵本

 『1人称童話』の企画と文を担当したクゲさんの本業は、広告クリエイター。絵本とは異なる業界から、なぜ絵本を書こうと思ったのか。

 「僕を含めて広告クリエイターは、いかに印象に残すかが勝負で、手がけた表現がすぐに消費されて消えてゆくことに日夜ジタバタ抵抗しています。それはある意味、このお仕事の面白さでもあるんですが、ふと逆に、一番長く人の記憶に定着するコンテンツってなんだろうと考えたんです。もしかしてそれって絵本なんじゃないかなって。ごく幼い頃にばったり出会って、そのまま一生忘れない。人生の端から端まで、何十年という時間を一緒に生き続けます。普段の広告作りの面白さや価値とは反対側のものとして、ぜひ作ってみたいと思ったんです。」(クゲさん)

 絵本といえば親が子供に読み聞かせることも想定されるため、ストーリーテラー視点で語られるのが普通だ。しかし、『1人称童話』ではこの常識が覆されており、もともとの物語を知っている層にも新しい物語として楽しんでもらえそうだ。

 「おっしゃる通り、もともとはすでに物語を知っている人向けに作っていたんです。でも、作っている途中で『初めて見る子どもたちにも楽しんでもらえる作品だな』という自信が出てきて、どちらにも楽しんでいただけるような絵本になっていると思います。実際に、読者のボリュームゾーンは3歳から中学生くらいのようです。3歳くらいの子だともともとの『シンデレラ』や『桃太郎』を知らないので、純粋に初めて受け取る物語として楽しんでもらっています。中学生くらいになるとベースの物語を知っているので、『1人称童話』ではその差を楽しんでもらうという感じです。当事者の立場になって考えてみるとか、物語には描かれていない部分も想像するとか、学年が上がるにつれてそういう思考の仕方ってより重要になってくると思うんです。“心”をテーマに仕掛けを作っているので、こういう普遍性的なものは年代を問わず必要とされていく気がしました」(クゲさん)

“視点を変える”主人公目線で広がる世界とカメラ位置のこだわり

 「絵本を手掛けるからには、これまでにないものを作ってみたかった」。そう話すクゲさんならではのこだわりのひとつがカメラの位置だ。シリーズのタイトルでもある“1人称”の通り、物語は主人公目線で進む。そのため、登場人物を捉えるカメラ(視点)の位置も必然的に変わってくる。

 「通常の絵本だと物語の第三者として、起こった出来事や登場人物を捉えているので、俯瞰した位置にカメラを置いているような感覚で物語が進んでいきます。しかし、『1人称童話』の場合、読み手側は主人公として物語を受け取るので、カメラの位置も主人公の目線に合わせてセットしています。目の前に広がるのは、俯瞰した景色ではなく、主人公が見た世界。つまり“物語の視点を変えている”のがこの絵本の要なんです」(クゲさん)

 ボリュームゾーンは先述の通りだが、この新しい“カメラ位置”のおかげで読者層は大人にも及び、絵本としては珍しく幅広い。「ぜひ中学生以上の人にもおすすめしたい」「こんな見方もあるのかと楽しめた」と、SNSでも大人の読者からの声も多く見られる。

 「僕たちのつくった40ページ前後の物語は、あくまで1人称童話の“サンプル”。最後の2見開きで、『あなたならどんな桃太郎?』『鬼たちはどうして金銀財宝がほしかったんだろう?』など読者に問いかけているのですが、そこからが本当の1人称童話なんです。絵本の楽しみ方の手順としては、“サンプル”で登場人物の気持ちに共感して、その人なりに物語を想像して、さらに物語の先にある創造に行きつく。この手順を楽しむのが『1人称童話』の醍醐味だし、それで新たな価値観と出会ってくれたら僕としても嬉しい気持ちになります。大人たちが楽しんでくれているのも、自分の豊富な経験の中で、“自分ならどうする?”を、より具体的に想像できるからではないかな、と思います」(クゲさん)

 この”共感→想像→創造“のステップが評価されての受賞だというグッドデザイン賞は、エントリー式で応募を受け付けているため、“デザインでの勝負”ということにある程度の自信はあった。しかし、「金賞はちょっと評価されすぎですね(笑)」と予想を上回る評価に驚いたと言う。

 「そもそも絵本自体があまりエントリーする賞ではないので。あわよくばノーマルの賞を…くらいの気持ちは正直ありました(笑)。そしたらあれよあれよという間に金賞を頂いてしまって。他に金賞を獲得した作品を見てみるとソニーのロボット“aibo”、スズキの乗用車“ジムニー”など、僕たちが作っているものとは随分とガチ度が違うなと思いました(笑)。表彰式では20組くらいの金賞受賞チームが一斉にステージに上がったのですが、壇上でデザイナーの市川と『ひとつだけ断トツでユルイのがあるよね』ってひそひそ笑ってました」(クゲさん)

 では、なぜ絵本のエントリー自体が珍しい賞での応募を試みたのか。

 「絵本でも広告でもその業界の賞というのはあるんですが、グッドデザイン賞の良さはそういうのとはまるで違ってて、言うなれば“異種格闘技戦”的な面白さ。確か、日本で唯一の総合デザイン賞だったと思うのだけど、つまりあの賞のいう“デザイン”ってその懐が抜群に広くて、怒られちゃうくらい簡単に言えば“なんでもあり”です(笑)。世の中のいろんな優れたデザインたちと横並びにリングに上がる、そういうのが楽しそうだったので応募したわけです」(クゲさん)

 「こうして取材を受けているのもグッドデザイン賞による効果の一つです」と語るも、本当の意味での反響はこれからだとクゲさんは考えているよう。

 「重版がかかった絵本に帯をつけるんですが、厚かましくもそこに“グッドデザイン賞”のマークを入れる予定みたいです。ほとんどの方が目にしたことのある、あのマークです。なので、グッドデザイン賞を受賞した本と本当の意味で認知されるのは、帯がついて書店で平積みされてからだと思います。まぁ絵本とグッドデザイン賞の組み合わせなんて初めてなので、買っていただけるかどうかはわかりませんが(笑)」(クゲさん)

「十人十色の物語が生まれる」 正解のない『1人称童話』が担う役割とは?

 学校や家庭では新たな議論のネタ、コミュニケーションの材料として重宝されていると言う。

 「“物語の余白の部分を考える”“多様性を見つける”というテーマで、授業でも活用しやすいようです。十人十色の物語が生まれるので、クラスに30人いたら30通りの『桃太郎』について議論できる。“これが君の個性なんだよ”と個を尊重する教育にも役立っているとお聞きしました。その子なりに考えて創りだす物語が、その子の正解なので、普段は発言の少ない子どもでも積極的に自分の意見を言うようになったという声も聞きました」(クゲさん)

 「今の段階でユーザーの反応は狙い通りですか?」とクゲさんに尋ねると「そうですね」とニコリ。

 「ひとつの提案として……絵本を読み始めたら、まずは深呼吸してみてほしいんです。実は、僕たちの『1人称童話』では三作とも、物語の冒頭で主人公が大きく呼吸をしているんです。なぜ呼吸かというと、それは子どもが両手で本を持っていてもマネできるように。読み始めに、物語の中の空気だと思って大きく息を吸い込んで、それから読み進めると、主人公と気持ちがシンクロして、より深く“共感”できるんじゃないかなって思っています」(クゲさん)

(文/Kanako Kondo)

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もしあの主人公が 自らの口で 語ったら。

絵本史上初、グッドデザイン賞金賞を受賞した
『1人称童話』 公式サイトコチラ

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