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進む“無電柱化”、エンタメ作品における時代や情緒を映す“名脇役”電柱の役割とは?

 最近、街を歩いていて空が広く感じることはないだろうか? 今まで否応なしに視界に入っていた電柱や電線。それらが撤去され、今や電線は地中に。台風や地震、交通事故などのリスク、予算の問題で賛否両論があり、諸外国に比べて対応が遅いと言われていた日本でも、東京五輪に向けて具体的に“無電柱化”が進んでいるのだ。これにより、観光地や文化的な街並み、新興住宅地などの景観が改善。だがエンタメ界に目を向けると、やや寂しい印象もある。映画やドラマ、そしてアニメで時代の移り変わりとともに形を変えながら映像に登場してきた電柱や電線は、目立たないけど欠かせない、作品における“名脇役”と言えるからだ。

後れをとった無電柱化、東京五輪に向けて推進中

 過去、電柱といえば木製だった。昨今の主流はコンクリート電柱。そして現在は都市部を中心に無電柱化が進められている。欧米諸国やアジアの主要都市など、海外では無電柱化が進んでおり、外国人観光客から見れば電柱が立ち並び電線が張り巡らされた空は珍しい光景の様子。それらを写真に収める観光客も少なくない。日本では進みが遅かった無電柱化だが、例えば東京都では2020年東京五輪をきっかけとする『無電柱化推進条例』が、昨年2017年9月から施行されている。

 その目標は、防災面の第1次緊急搬送道路の無電柱化率42%、バリアフリー化の必要な特定道路では51%、文化遺産周辺などの景観関連では70〜80%、五輪関連のセンター・コア・エリア内の幹線道路は100%。平成30年4月6日に国土交通大臣が決定した「無電柱化推進計画について」の資料を見る限りにおいては、景観はもちろん、震災などで電柱が倒れたことによる救急車両への障害化の防止、また電線の破損などによる火災、感電などの二次被害を防ぐ目的もあるようだ。

 これまでは整備や管理、トータルコストの面で実現が難しかったが、国は多用な整備手法の活用、低コスト手法の普及拡大、危機のコンパクト化、技術開発に力を入れている。ただやみくもに数字を追うのではなく、必要な場所から着手する予定だという。

日常にある風景としての電柱 エンタメ作品に欠かせない存在に

 こうして無電柱化が進んでいるが、「電柱は日本の生活に非常に馴染んでおり、映画やドラマ、アニメなどにおいても欠かせないものになっている」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。背景美術として木の電柱で時代を演出することもできるし、夕焼けに染まる風景に電柱や電線の影は映え、ノスタルジーを感じさせる。また、電柱が並び電線が張り巡らされた街は、視覚的に「何かありそう」に見せることもできるだろう。

 登場人物の行動に意味を持たせることもできる。定番だと、ぼーっと歩いていて電柱にぶつかるシーンや、電柱に登る作業員が落としたものが主人公に当たったり、刑事や探偵の尾行で後ろに隠れたり、犬に追いかけられて登って逃げたり…。

 「あまりに馴染みすぎてエンタメでは電柱や電線が“記号化”している例も。例えば公衆電話や鉄道の踏切などノスタルジックな風景がピックアップされるアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 鋭意制作中』というポスターでは、そのテイストを象徴するように、広がる青空と雲をバックに電柱と電線だけが描かれるという象徴的な表現になっています」(衣輪氏)

 このほか「演出面やフィルム・コミッションにも利用されている」と同氏。例えば小津安二郎の映画『晩春』(49年)では笠智衆と原節子が電車で移動する際、車窓の風景が送電柱と電線の上部のみが流れる映像となっており、これは撮影条件での理由もあったのだが、どこか心象風景を表す描写になっているのが心憎い。ロケ地では海から電柱が何本も立ち、対岸に工場地帯が見える“日本のウユニ塩湖”こと千葉県の「江川海岸」が有名で、『相棒』(テレビ朝日系)を始め、多くのドラマ、CMなどで使用されている。

電柱、電線のある空がノスタルジックに? 描写の変化

 一方で無電柱化が進んだことにより、“電柱がない”ことが効果的になっている例も。最近では『夜行観覧車』(TBS系)、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)や『もみ消して冬 〜わが家の問題なかったことに〜』(同系)などがそうだが、新婚だったり新興住宅地や高級住宅街が舞台だったり、新たな家族像など先進的な演出をしたいときには“無電柱化”された場所がロケ地に選ばれることがままある。

 また現在放送中のフジテレビ月9ドラマ『SUITS/スーツ』にも注目だ。この作品には、ほぼ電柱や電線が登場していない。これは「フジテレビが同アメリカドラマの日本版制作権利を獲得した際、アメリカから最も強く提示されたのが“スタイリッシュであること”だったこと。また電柱や電線が映ると一気に日本の現実に引き戻され、同原作ドラマが持つ雰囲気が出ないためだろう」と前出の衣輪氏。無電柱化により、現在はその過渡期ということでエンタメ作品での表現の幅が広がっている状態だが、今後ますます無電柱化が進んで“無いのが普通”になったとき、電柱の存在や価値が「過去の演出」「ノスタルジック」のみとなってしまうのはなんとも寂しい。

 「“電柱萌え”もあり、Twitterで“#電柱フォトコン”“#いい電線”などで検索すると、数多くの電線マニアが写真を投稿しているのも目にします。コメントも『電柱あってこその日本の夏空』『個人的にすごい好きな電柱』など愛情たっぷり。このように愛され、その時々を描く作品に、様々な映像効果をもたらしてきた電柱が存在しなくなるのは、時代の移り変わりはあれど切ない。電線や電柱は確実に主役や登場人物たちのお芝居を引き立てる“名脇役”であったと言えると思う」(衣輪氏)

災害大国日本において電線や電柱が無くなっていくことは、今後の発展において必要不可欠だ。だが電柱がもたらしてきたエンタメ作品への付加価値は計り知れない。街の風景が変わるにつれ、電柱・電線が表現の幅を広げていったように今後、別の何かが、新たな背景美術の“名脇役”として生まれてくるのかもしれない。

(文/西島亨)

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