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“後払いガチャ”開発者が語る業界の今「課金は悪いことじゃない」

 ソーシャルゲームなどで度々用いられる“ガチャ”。そのガチャの結果を表示してから購入するかを決めることができる「後払いガチャ」なるシステムがTwitterで話題となり「このガチャが一般化してほしい」など、称賛の声を浴びている。このシステムを取り入れたのは『君の目的は僕を殺すこと3』というスマホアプリ(2016年12月リリース)。その背景を、「後払いガチャ」の発案者で開発者であるふんどしパレードの山田裕希さんに聞いた。

「後払いガチャ」は一部の人が多くを負担する課金システムへの疑問から

 特にスマホのアプリゲームなどでメジャーな存在の”ガチャ“。ゲームをより有利に進めるために、強いキャラクターやアイテムを手に入れる手段のひとつだ。多くの場合、このガチャを引くためにはその権利を購入する必要があり、『基本プレイ無料』のアプリの中で、ゲーム会社の利益の多くを占めるシステムだ。ガチャはあくまで”何が出るかわからない“ブラインドパッケージとなっているため、目的の”商品“が出るまで課金を繰り返す”重課金者“も多く存在する。そんな中、『君の目的は僕を殺すこと3』では、ガチャを引いてみて満足のいく結果だった場合のみ購入することができるという”後払いガチャ“(回数制限あり)を今年の3月より導入している。

――課金ガチャに対して率直にどのような意見をお持ちですか?
山田裕希課金ガチャは非常に収益の上がりやすいシステムの反面、『一部のユーザーに多くの消費をしてもらうことで成り立っている』歪な構造になっていると思います。一部の人に高額の負担をしていただくのは心苦しいというのが正直な意見ですが、現在リリースされているスマホゲームはほとんどが無料でプレイが可能で、尚且つ無課金のユーザーさんが圧倒的な割合を占めています。そうなってくると一部の人にたくさん課金してもらえるガチャという仕組みに頼らざるを得ないのも事実です。

――後払いガチャは、そういった“歪な構造”へのアンチテーゼでもあったりしますか?
山田裕希そうですね。僕らが“後払いガチャ”で目指したのは、『普段は課金しない人へそのきっかけの場を作ること』。これで多くの人が課金をしてくれる状況になれば、一部の人が多くの負担をしなくても運営が成立するようになる。“後払いガチャ”にはそうしたスマホゲーム業界の常識に挑戦する狙いもあります。

――後払いガチャを真似た課金システムも登場するのでは?
山田裕希逆に『真似していただけるなら是非どうぞ!』という気持ちです。今は『スマホゲームは無料でできる』と思っているユーザーが多くを占めていますが、ゲーム会社にとっては開発も運営も無料では行えないんです。スマホゲームの開発には、リリースまでに数億円、運営やプロモーションに毎月数千万円かかる場合も多くあります。なので、“購入”や“課金”をしていただかないことには続けていけないんです。そんな中で、売り上げを多くのユーザーに分散できるのであれば、スマホゲーム業界にとってめちゃくちゃプラスになると思うんです。このシステムが一役買えるのであれば、それは嬉しいことですね。

後払いガチャの導入により、売上を“多くのユーザーに分散すること”に成功した

――ボリュームユーザーはどのような方が多いですか?
山田裕希幅広い方に楽しんでいただいていますが、特に10代男性が多いようですね。最初から10代をターゲットをしぼっていたわけではないのですが、10代がボリュームゾーンとなってくると、余計に一部のユーザーに多くの課金をしてもらうことが難しくなってきます。だからまずは1回“お試し”としてでも引いてもらうことで課金することへの抵抗を減らしたいな、と思ったことも“後払いガチャ”導入のきっかけのひとつです。

――10代がボリュームゾーンとなると、SNSなどでたくさんのユーザーの声も聞こえてきそうですね。
山田裕希『君の目的はボクを殺すこと3』にはゲーム自体にユーザーさんと運営が交流できる機能を取り入れているんです。最初はTwitterなどでユーザーさんとの交流をはかっていたのですが、Twitterを使っていないユーザーさんも多いので、ゲームの中にSNSをつくってしまった方が効率がいいなと。多い時で1日に1000通くらい質問をいただきます。答えることができるのはほんの何通かになってしまうのですが、ユーザーさんからは『こんなに運営と距離が近いゲームは珍しい』と好意的な意見をいただいています。答えているのは僕だけじゃなくて、ゲームに登場するキャラクターだったりもします(笑)。

――ユーザーさんの声を聞くことにすごく力を入れているんですね
山田裕希『後払いガチャ』も『ゲーム内SNS』も、まずユーザーさんがいないと成り立たないサービスなので、運営しているゲームの外側に目を向けるのではなく、支持してくれているユーザーさんが喜ぶことをやるのが重要だと思っているんです。ですから、開発者とユーザーの距離が近いと言っていただけるのもすごく嬉しいことです。

若い世代にお金を支払っていただけるコンテンツ作りを目指したい

――「後払いガチャ」が話題になったことによって、新規ユーザーは増えましたか?
山田裕希実はそこまで大きな変化はありませんでした。導入の前後で、売り上げも大きく変動していません。もともと新規ユーザーに向けたシステムというよりは、既存のユーザーに“お試し”で使ってもらいたいと思っていたので。ただ、『後払いガチャ』は回数制限がありながらも、課金売上の10%くらいと高い割合を占めていますし、他の課金アイテムに比べて購入者数が5倍くらい多いのが特徴です。つまり、『全体の売上は変えずに、売上を多くのユーザーに分散することに成功した』と言えると思います。

――スマホゲーム業界における今後の展望があれば教えてください。
山田裕希今はニュースも音楽もゲームも無料で楽しもうと思えばできてしまう時代なので、コンテンツにお金を払うことに馴染みがない人も多いんですよね。現在高額課金してくれる方の多くは30代〜40代ですし、これから年齢が推移して今の10代の方たちが大人になったときに、果たしてスマホゲーム業界は成り立っているのか……という不安があります。『ゲームにお金を払いたくない』『課金したら負け』という意識の方もいると思いますが、僕らは『これならお金を払いたい』と思ってもらえるようなコンテンツや仕組みを作っていかなきゃいけないんですよね。あらゆるコンテンツの楽しみ方が変わったことを認識したうえで、どういう仕組みにしたら若い世代のユーザーさんがその対価を支払ってくれるのか、そしてその文化をいかに広められるのか。この課題との向き合い方が、スマホゲーム業界ひいてはエンタメ業界の未来を大きく左右すると思います。


(文/kanako kondo)
『君の目的は僕を殺すこと3』の開発者で「後払いガチャ」の発案者である
ふんどしパレード・山田裕希さんのTwitter@_yhiroki(外部サイト)

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