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“世界”の渡辺直美に見る、SNS時代のスター像の変化

 先日、女性お笑いタレントの渡辺直美がアメリカのニュース雑誌『TIME』で「ネット上で最も影響力のある25人」のひとりに選出された。もはや渡辺直美はいちタレントというより“インフルエンサー”として認知される存在であり、“テレビにガンガン出ている人”でありながら、メインのフィールドはテレビ外のWEB・SNSというイメージがある稀有な存在になっているようだ。ネットやスマホの普及によりメディアを取り巻く環境も急速に変化している今、平成末期の“天下を獲るスター”像の変化とは?

渡辺直美が『TIME』に選出 トランプ大統領と並びネットのスターとして賞賛

 『TIME』と言えば世界的権威のあるニュース雑誌であり、そこで選ばれたということはまさに世界規模で認められたということだ。ツイッターで約181万人、インスタグラムでは約800万人ものフォロワーを抱える渡辺は、歌手のカニエ・ウエストやリアーナ、トランプ大統領といった面々とともに「25人のインフルエンサー(社会に与える影響力が大きい人)」のひとりに選出され、同誌から「日本のSNSで最も人気の高いスター」、「日本のステレオタイプの女性の在り方に一石を投じる存在」として賞賛されたのである。

 数年前から女芸人の中でも頭ひとつ抜け出た存在だった渡辺直美だが、ここにきてついに“世界の渡辺直美”になった瞬間だ。しかし振り返れば、日本ではテレビの“レギュラー番組のイメージ”があまりないことにも気づく。冠番組のひとつやふたつを持っていてもおかしくないはずが、ゴールデン帯のレギュラーで言えば、『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)のゴチバトルのみ。その他、深夜番組や月2回のコーナーなどで、ガッツリ出演しているというわけではない(NHK総合の『NAOMIの部屋』という冠番組もあるが、月1回程度の不定期深夜放送)。

しっかりテレビで露出されつつも、イベントなど“テレビ外”がメインフィールドに

 とは言え、それでもTV番組ではゲスト出演が多数あり、渡辺がSNS上や芸能活動で残した言動は常にネットニュースで目にするし、各地の芸能イベントでも引っ張りだこ。春に行なわれたロッテ・ガーナチョコレートのCM発表イベントでは、飛ぶ鳥を落とす勢いの注目女優・浜辺美波らが新3人娘として紹介されたが、なぜか渡辺もブッキング。イベントでは3人が主役のはずが、渡辺はSNSの“インフルエンサー”としてその“影響力”を買われ、イベント自体が渡辺を通じてテレビのみならず(テレビ以上に?)ネットで拡散されていくことが期待されたわけで、まさに“渡辺直美頼み”の好例かもしれない。

 渡辺直美の“メディア化”の代表例とも言えるのが、2014年、2017年と今年と出演しているBOAT RACE振興会のCMだ。歌や踊りが上手いというエンターテイナーからお笑い芸人の側面までこれまでかというほど流され、ボートレース絡みのイベントに出演するとこれまたネットニュースやワイドショーで取り上げられる。とにかく“よく見る人”として日本国民に認知されているのは間違いなく、それだけ渡辺に“メディア力”がある証でもあろう。

絶大な認知を誇るも、“大御所”にならない絶妙な距離感を演出

 一方、SNSで“頑張りすぎない”のも渡辺直美流だ。インスタグラムでは日本一の人気者なわけだが、実際2011年のカウント開設初期には投稿本数も多かったところ、インフルエンサーとしての立ち位置を確立させると投稿数を減らしていき、現在では5日に1度ほどの更新に落ち着いている。ツイッターでも180万以上のフォロワーを持つが、今回のTIME誌の選出に対してさらりと「自分でもびっくり 影響力を感じたこと無いからよくわからないけど ついにTIMEに…ありがとうございます」とコメントし、何かとSNSでは“必死”に見える芸能人が多い中で、ことさら大ごとにしない点も好印象を与えたようだ。

 こうしてみると、渡辺直美は芸人でありながらも歌・踊りも見せるエンターテイナー、ネットで影響力を持ったインフルエンサーでもあり、ファッションアイコンでもある。もはや渡辺の肩書を“何をやってる人”と言えばいいのかわからなくなっているが、本人自身は“芸人”としてのこだわりを持ち続け、今でも「お笑いが大好き」「だからこそ、お笑いが一番緊張する」と一芸人としての思いを明かしている。

 実際、初期の渡辺を代表する番組『ピカルの定理』(フジテレビ系)では、ピース・綾部祐二や平成ノブシコブシ・吉村崇などを相手に、ときには狂気すら感じさせるコントを披露していたが、放送終了の際は「私はコント番組に入りたくて芸人になりました! その夢が奇跡的に叶って嬉しかったです」と喜びをつづる一方、「でもピカルはとても辛かったです。一度も満足した事がありません。毎日反省ばっかりで、収録で楽しかった思い出がありません」と“お笑いが一番、だからこそ辛かった”と正直な気持ちも告白していた。

 今や女芸人の代表格と言っていい存在にまでなった渡辺だが、自らの“格”を上げつつも、同時に“大物感”を出しすぎないというバランス加減も絶妙。そうしたイメージ戦略や、メディアをコントロールする能力にも非常に優れているタレントであることが分かる。

メディアに消費されずに、タレントがメディアを“使う”時代の象徴に?

 かつては、スターと言えば「CM〇本、レギュラー番組〇本」、「視聴率」などの数字がスターの証しとなっていたが、渡辺にはそんな(テレビ上の)数字の“勲章”はなく、また“無用”でもあり、それでもいつの間にかTIME誌で紹介されるほどのインフルエンサーとして、世界的に認知されているのである。

 そんな渡辺だが、2008年から2010年まで『笑っていいとも』(フジテレビ系)で“いいとも少女隊”を務めており、その時代はテレビ番組スタッフからひどい仕打ちを受けたと笑い話のように語っているようだが、苦労人でもあったからこそ、タレントの在り方について思うところがあったのかもしれない。

 実際、かつて“天下を獲った”スターたちは、その反動なのか時には、批判にもさらされ、疲弊・消耗しているようにも見える。視聴率の低下、テレビ離れ、メディアの多様化、さまざまな要因でスター(売れっ子)の定義も変わりつつある。そんな現在は、消費されすぎない、テレビに潰されない、SNSでも消耗・疲弊しないどころか、すべてを上手くコントロールしていくしたたかさがタレントには求められているのかもしれない。渡辺直美は、そんな「タレントがメディアを利用する時代」の象徴とも言えそうだ。

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