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非接触商法の『在宅アイドル』が増加 “会いに行けない”アイドルが産む偶像性とは?

  • 非接触商法の『在宅アイドル』が増加しているという

    非接触商法の『在宅アイドル』が増加しているという

 それまでのアイドル業界の常識を覆した「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしたAKB48が登場して早12年が過ぎたが、ついにここにきて真逆の“会いに行けない”ことをウリにする『在宅アイドル』が増加傾向にある。ネット配信やSNSでアイドル活動を発信し、Amazonを使ったファンからの“施し”を対価として得ているようだ。家から外出せずとも生活できるという“非接触商法”の実態とは? そして、『在宅アイドル』がネットユーザーたちに支持される理由とは?

新たなアイドル文化を確立したAKB48、しかし“接触商法”に疲弊するアイドルも

 かつて1970年〜80年代前半のアイドルと言えば、山口百恵やピンク・レディー、松田聖子、中森明菜等々、まさに“選ばれし者”の代表であり、ファンや視聴者にとっては神聖で手の届かない存在だった。ところがおニャン子クラブの登場以降、アイドルは徐々に一般化。1990年代のアイドル冬の時代を経て2000年代に入ると、今度は“会いに行けるアイドル”としてAKB48が登場。特権階級としてのアイドル像ではなく、クラスにひとりはいるような“身近な存在”が支持されるようになる。

 現在の隆盛を極める「アイドル戦国時代」の土壌を作ったのはまぎれもなくAKB48の功績。「メンバーが出演する常設劇場の設置」、「CDに握手券を封入し、全国各地で握手会を開催」するといった手法は、それまで“遠かった”アイドルとの距離が一気に近づき、アイドルとファンが一体化するというイノベーションをもたらしたのである。その後、こうした“接触商法”はアイドル活動の基本路線として確立することになる。

 だが、元週刊誌の芸能記者でアイドルのマネジメントに携わる富沢直道氏は、「ただし、『ハイタッチ会』、『握手会』、『ツーショットチェキ』などを行う接触型アイドルは、数百人、数千人の見ず知らずの相手と握手をしなければならず、精神面・体力面での負担が大きい」と指摘する。その反動なのか、「いま、真逆のアプローチで登場してきた『会いに行けないアイドル=在宅アイドル』が増えています」と富沢氏は語る。

動画配信とSNS文化の普及により、“在宅のまま”アイドル活動が可能に

 では一体どんなビジネスモデルなのか? ネットの生放送配信でアイドルとファンをマッチングさせる『SHOWROOM』で言えば、「ルーム」と呼ばれるアイドルの生放送配信中の空間を訪れると、視聴者はアバターを通じてアイドルとリアルタイムのやりとりができる。さらに視聴者はアイドルに対して無料の仮想アイテムである「星」や、有料で購入できる「ギフト」を“投げ銭”(ギフティング)できるのだそう。つまり、そのギフトが『在宅アイドル』の収入になっていると富沢氏は説明する。

 また、ライブ動画サービス『LINE LIVE』でも、アプリ内課金を通じて購入できるLIVEコインを使って、同じようにアイドルにギフトアイテムを送信することができる。また、『在宅アイドル』はAmazonの「ほしい物リスト」を公開することで、ファンから“施し”を受けているらしいのだ。その中には生活用品の他に高級ブランドのバッグなどもあり、10万円を超える高額商品が届くこともあるとのこと。

 「こうなると芸能事務所などに所属しなくても、個人のアイドル活動が可能になるわけです。さらに、在宅アイドル側にしてみれば、収入以外のメリットとして“他人との接触を避けられる”ため、接触商法に疲れた地下アイドルたちとも親和性が高いんです」(富沢氏)

俗世との関わりを避けるアイドルとファン 会わないからこそ肥大化する“偶像性”

 アイドルトとファンが接しないことは、アイドルとしての偶像性、神秘性を高めるという効果もある。さらに、『在宅』によって守られることで、男性スキャンダルが発覚したり、ビジュアルの低下を目の当たりにすることもない。つまり、アイドルに対して“落胆”することが少なくなる点も『在宅アイドル』が支持される理由と言えそうだ。

 今や日本のアイドルシーンを代表する存在と言っても過言ではないAKB48の指原莉乃は、中学生のときにイジメにあっていたことを告白し、地元を離れて東京に行くためにアイドルになったという。ショコタンこと中川翔子も高校時代にイジメにあい、そのはけ口としてアニメやゲームに走ったというが、「そもそも、アイドルが元はイジメられっ子であることは珍しくない。それどころか、地下アイドルに限って言えばその傾向はさらに強くなる」と富沢氏は明かす。

 そんな「いわゆる“闇属性”を持った女性に対する需要が、ネットには一定数ある」と解説する富沢氏。つまり、なるべく他人との接触は避けたい、だけどアイドルにはなりたい、そんな承認欲求を満たせる『在宅アイドル』は、アイドルになりたい女性と、偶像性をアイドルに求めるファンの双方にウインウインの関係をもたらしているようだ。

画面だけの“バーチャル演出”で、アイドルの偶像性が高まる「回帰現象」も?

 かつて湾岸戦争時、お茶の間では軍事施設を空爆する映像が繰り返し流され、「コンピュータゲーム戦争」などと揶揄されたこともあった。また「初音ミク」という、ファンたちが進化させるバーチャルアイドルや、主にYouTube上で動画等の配信活動を行う架空のキャラクター『バーチャルYouTuber』などが登場し人気を博している。バーチャルリアリティーやネットの仮想空間には、自分好みの“現実”を実現させられるという利点と、“不都合なものを見せない”、“生っぽい現実を隠す”という側面もある。前出の富沢氏は「在宅アイドルにしても、『美味しいところ』だけしか映さないという手法をとる人も多い」と、在宅アイドルの裏事情も明かしてくれた。

 そもそもアイドルという言葉には「偶像」や「憧れの的」という意味があるが、1970〜80年代の“遠い存在”のアイドル像は、2000年代に「会いに行けるアイドル」によって破壊された。そしてここにきて『在宅アイドル』たちが登場し、かつての失われたアイドルの“偶像性”を取り戻しているかのような回帰現象が起きている点も非常に興味深い。

 果たして『在宅アイドル』は、過剰な接触商法の単なる反動なのか、それとも“アイドル偶像視”の新機軸として、ネット時代の新しいアイドルの“形”となるのか、引き続きその動向を追いかけていきたい。

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