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「日本に追いつくにはまだ時間がかかる」 中国人アニメーターが抱く日本アニメへの“尊敬”と“羨望”

  • 現役の中国人アニメーター5人に聞く、日本アニメへの思いとは?

    現役の中国人アニメーター5人に聞く、日本アニメへの思いとは?

 成長著しい中国のアニメ業界はいま、日本のアニメ技術や制作システムを取り込もうと懸命だ。一方の日本は、若手アニメーターの“ワーキングプア化”が問題視されており、圧倒的な資本力を誇る中国を“黒船”と見なし警戒する風潮も。しかし、現場に目を向けると中国人アニメーターの根底には日本アニメへのひとかたならぬ“想い”があるのだという。そこで、某大手中国アニメ製作会社所属、日中アニメ業界共に詳しいU氏に中国のアニメ事情を聞くと共に、現役の中国人アニメーター5人に実施したアンケートを元に日中アニメ業界の今後を考える。

日本アニメへの“愛情”を隠さない中国人アニメーターたち

 昨年、日本初の国産アニメーションが公開されてから100周年を迎えた日本では、ゼロ歳から還暦までがアニメを楽しむ土壌がある。では中国ではどんな人たちがアニメを親しんでいるのか。U氏によれば「中国の動画共有サービスの最大手『ビリビリ動画』の場合、1.5億のアクティブユーザーのうち平均年齢は17歳。全体では0〜17歳の層が主流で、次は18〜24歳、25歳以上は10%未満」とのこと。中国での主力客層は若者たちであることが伺える一方、「中国で、まだ日本アニメがマイナーだった頃から見てきた80年代生まれの人たちが、その憧れからアニメ業界に入った」とU氏は解説する。

 実際、アニメを学ぶためフランス留学の経験を持つ中国人アニメーター・E氏は「松本零士、永井豪作品全般と、ロボットアニメから影響を受けました。小さい頃は『美少女戦士セーラームーン』などの少女漫画原作アニメ、それから富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』などが好きでした」と回答。日米含め海外原画経験20年以上の大ベテランA氏は「『サムライチャンプルー』『カウボーイビバップ』『ストレンヂア 無皇刃譚』や、今敏氏や沖浦啓之氏の作品に強い影響を受けた」と答えている。日本アニメのエフェクト作画を担当する若手のD氏は「伝統を破ることが好きで、新しい技術を使って意外性のあるものを作る新海誠監督を尊敬しています」と答えるなど、それぞれが日本アニメに対して深い造詣を持っていることが伺える。

 日本アニメをどう思うか?という問いに対して、若手アニメーターの中で抜群の腕を持つ理論派のB氏は、「中国のアニメ業界は、京都アニメーションのほとんどの作品をリスペクトしている…」とし、その状況に対し忸怩たる思いもあるようだ。一方、中国国内のトップクラスの原画能力を持ち、自ら監督・演出も手掛けるC氏は「現代の浮世絵として、人類の視覚における表現力を広めてくれた意味では、将来的にメジャーな文化として評価されるべき」と絶賛する。

 D氏も「我々に欠けているものがいっぱいあり、日本に追いつくにはまだ時間がかかる」と率直な気持ちを答えてくれた。さらにE氏は「小さい頃から親しんだ日本アニメはすでに自分の一部。客観的な評論は下せない」と語るなど、中国人アニメーターたちのバックボーンに“日本アニメ”が刻まれている状況が見えてくる。

 日本のネットユーザーからは、中国アニメは「パクリアニメ」などと揶揄されることもあるが、中国アニメの急速な発展と成長は、中国人アニメーターたちの、日本アニメの良いところを学び、吸収しようとする真摯な取り組みによるところも大きいだろう

日本で学んだ中国人アニメーターは帰国すれば“即エース”に

 U氏によれば、日本で経験を積んで戻ってきた中国人アニメーターはポテンシャルが高く、「中国のアニメ会社から引く手あまた」なのだとか。それは技術はもちろんのこと、日本である程度成功した中国人アニメーターは“志が高い”こともポイントのようだ。ただ、高い技術と志を備えた中国人アニメーターが増えつつあるものの、「アニメというのは集団作業のため、何人かうまくても全体に対する影響が少ない」という課題もあるという。

 さらに、日本のようにアニメ制作の管理能力や、緻密なワークフローを構築できる人材がまだ中国には少なく、「技術、管理能力の両面でまだ日本に及ばない」とU氏は憂慮する。D氏も、「チームの意識作り、物事に対する判断、全体を見通す認識、作品の価値観など絵以外の『見えないところ』は、今の中国アニメ業界に足りない」と語り、E氏は「中国のアニメ業界ではカメラやレイアウトの持つ意味については全般的に認識が乏しく、早急に対策を講じなければいけない」と問題提起する。

 日本における若手アニメーターのワーキングプア化、中国の人材不足など互いの問題点を俯瞰で見た時、日中間で敵対視するのではなく“協力していく道”もあるはずだ。その点についてU氏に聞くと、「実力のある日本人プロデューサーを中国アニメ会社は求めている」と実情を明かす。

 なぜかと言えば、中国の資本者はお金は持っているものの、日本のアニメ産業のことや、どうやったらアニメが成功するかというノウハウを全く知らないからだ。そのため、資金があっても「今やっていることが果たして効率のよいやり方なのかどうか分からない」段階なのだそう。

 U氏は「日本で人材確保ができ、かつ日本側の要望を聞けて、日中のスタッフの意思疎通が図れる。それらを全面的にやってくれるプロデューサーが求められています。いま中国はITバブルですから、当然、そういう人材に高い給料も出せると思う」と赤裸々に語る。

 アニメーターの教育はもちろんのこと、「今後、日中のアニメ会社が協力して作品を作る際は“報連相”が大事になります。それはすなわち、日本と中国の言葉を両方分かることが重要」だとU氏。言葉が分かれば相手に対して親身になれるし、問題解決もスムーズになる。ライバルでもあると同時に、よきパートナーともなりうる中国アニメ業界と向き合うには、“中国語を話せる有能なプロデューサー”を日本がいかに育てられるか。この点は日本のアニメ業界にとって大きな課題となりそうだ。

世界に誇る日本アニメの“クリエイティブ力” 海外に発信するためのキーマンとは?

 人気アニメ『けものフレンズ』などのプロデューサーも務めた福原慶匡氏は昨年の12月に上海のアニメ事情を目の当たりにし、Twitterにて「日本の作品を作る力を本当に尊敬してくれてる。つまり日本の最後の壁がクリエイティブ力という事を改めて認識」とコメント。また、「中国のアニメ産業は始まったばかりではあるが、生産で3年、技術で5〜10年で追い抜かれるだろうなと確信。言い方難しいけど中国に組んで"頂ける"のは後数年かなと思います」などと投稿し、日本のアニメ業界が“海外に目を向けない”現状を憂慮し話題となった。

 今後、日本アニメを世界へ発信しようとした時、世界屈指のアニメ市場となるであろう“中国”との連携は必須。そこで大事なことは、C氏が「まずやるべきことは、日本人の中国に対する誤解と、中国人の日本に対する迷信を打ち破ることだと思います」と回答していることだ。

 言語や文化の違いはもちろん、国家間の問題など複雑な事情が入り混じる日中アニメ業界。まずは中国語を話せる優秀な日本人プロデューサーを育てることが、C氏が懸念する“中国に対する誤解”や“日本に対する迷信”を打ち解くひとつのカギになる。ひいては、日本が誇る“クリエイティブ力”を世界へ発信するためのキーマンとなるはずだ。

(アンケート翻訳・林子傑)

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