ドラマ&映画 カテゴリ
(更新: ORICON NEWS

“イケメン”に描かれない西郷隆盛の悲劇? 他の偉人とは異なる圧倒的イメージ浸透

 現在放送中のNHK大河ドラマ『西郷どん』。その主人公・西郷隆盛は日本の歴史を語る上で欠かすことのできない人物であり、その容姿と言えば、「かっぷくのよい体に、太い眉、四角い顔立ちでどっしり構える九州男児」を思い起こす人も多いだろう。幕末を描いたドラマや映画、小説、漫画やゲームにも度々登場するが、そこで描かれる“西郷隆盛像”もほぼこのイメージ。だが同時に、西郷隆盛がとある“悲劇”に見舞われているとも言えるのだ。

ザ・九州男児! 印象が強すぎる上野の西郷隆盛像

 明治維新の立役者として日本の歴史に名を刻む薩摩藩士・西郷隆盛。身長180cn以上の巨躯に見合う器の大きさと、飾らない性格で知られており、坂本龍馬らと並び、最も日本人から愛される幕末の人物のひとりだ。また、九州男児のイメージも強く、勇ましく一本気、たくましく、義理人情にも厚いといった印象も強い。

 その姿としては、東京都・上野公園にある西郷隆盛像が有名だ。ただし、西郷は写真が嫌いだったといわれており、実物の写真も発見されてないことから、実際はどんな顔だったのか分かっていない。像を作る上で参考にしたのは、イタリア人の版画家・彫刻家のエドアルド・キヨッソーネによるコンテ画といわれ、そのモデルは西郷の弟・従道や、同郷の大山巌だ。

 このことについてメディア研究家の衣輪晋一氏は「像公開の際に招かれた西郷夫人の糸子さんが『うちの主人はこんな人じゃなかったですよ』と言ったとされる逸話も残っており、実際に似てなかったという説があります。ほか、西郷さんは家にいる時でも正装を好んでいたため、先述の夫人の発言は『着流しを着て街を歩く姿なんてあり得ない』というニュアンスだとする説も」と解説する。

 そんな中、先日、新たに鹿児島県枕崎市で、西郷隆盛を描いた可能性が高いとされる肖像画が発見された。その姿は、“新事実!”というよりはあまりに今までのイメージ通りで、やはり眉が太くて目が大きく、ガタイの良い人物として描かれていた。

過去、西郷隆盛を演じてきた数々の役者たちもガタイの良いはっきりした顔立ち

 「その真の姿が謎に包まれていることも人気の理由であり、同時に、逸話通りのイメージが強く定着する結果につながったかもしれない」と衣輪氏。これまでの大河ドラマで登場した西郷隆盛を演じる役者たちも、眉が太くて男らしく、そして勇ましいイメージで演じている。1967年の『三姉妹』観世栄夫をはじめ、1968年『竜馬がゆく』小林佳樹、ほか1974年『勝海舟』の中村富十郎、1977年『花神』の花柳喜章、1980年『獅子の時代』の中村富十郎、1990年『翔ぶが如く』の西田敏行、1998年『徳川慶喜』の渡辺徹、2004年『新選組!』の宇梶剛士、2008年『篤姫』の小澤政悦、2010年『龍馬伝』の高橋克実、2013年『八重の桜』の吉川晃司、2015年『花燃ゆ』の宅間孝行もイメージに漏れない西郷さんだ。

 民放ドラマでは、1987年『田原坂』では里美浩太郎が、2014年『幕末高校生』では佐藤浩一が、2017年の24時間テレビ『私たちの薩長同盟』では佐藤隆太がそれぞれ西郷を好演。衣輪氏は、「林房雄原作・横山まさみち作画の漫画『西郷隆盛』をはじめ、小学生が歴史を楽しく学べる漫画本にもイメージ通りの西郷さんの姿が。こうして日本人の脳に、ガタイが良く、眉が太く、器の大きい西郷隆盛像が植え付けられ、それがあまりに強烈だったため、イメージ通りに演じざるを得なかったと見ることもできる」と分析する。

 これが今になって、西郷隆盛にとって思わぬ悲劇(!?)を生み出すことになる。歴史上、日本に大きな功績を残した偉人たちはドラマやアニメ、ゲームによく登場するが、例えば「桂小五郎や大久保利通はイケメンに描かれるが、西郷は…」といった事例が後を絶たない。つまり西郷隆盛は“イケメン化”されにくい憂き目に遭っているのだ。

どんな人物もイケメン化しがちなゲームや漫画 それでも西郷隆盛は…

 「小学館のジュニア文庫『西郷隆盛』など子供向けはもちろん、『西郷隆盛 週刊マンガ日本史38』など数々の幕末系漫画でも同イメージの西郷さん。「『週刊少年ジャンプ』の人気漫画『銀魂』に至っては、武闘派で巨漢のオネエ。かぶき町四天王のひとりという設定で、人気キャラのひとりです。ゲームでは、株式会社ミクシィの『モンスターストライク』やコーエーテクモの『討鬼伝』などで巨漢のおじさま系に描かれています」(同氏)

 ほか、女性向け恋愛ゲームでは、幕末志士に恋をするCIBIRDの『イケメン幕末 運命の恋』などのように、数多くの幕末志士がイケメンに描かれている中、そもそも西郷隆盛は登場していないというパターンも多々。現在放送されている『進研ゼミ』のTVCMでは、西郷隆盛役をなんと、眉毛を太く書いた出川哲朗さんが演じている。このように、西郷隆盛は基本的にシュッと描かれづらいのが現状だ。

 これらキャラクターの中には実在の写真が残っており、一部新撰組の面々のように、シュッとしてなくても、シュッと描かれたりすることは多い。また、西郷と同じように謎多き人物で写真が残っていない沖田総司は、司馬遼太郎の小説の影響か、病弱で神経が細い美少年として描かれている。なんとも西郷とは真逆のイメージだ。

 「その代わりと言ってはなんですが、ゲーム『桃太郎電鉄』(ハドソン)シリーズに出てくる、プレイヤーに福を与える西郷隆盛的キャラ『おいどん』をはじめ、フィクションで描かれる西郷隆盛は、必ずと言っていいほど人格的に“イケメン”に描かれるといった特徴も」(同氏)

 ルックスではイケメンになりきれないが、心はイケメン。こうした部分も、愛されている理由のひとつになっていそうだ。また、これらのイメージから漏れると「こんなの西郷さんじゃない」と反感を買いやすい一面も。それも、西郷隆盛のイメージがあまりに深く日本人に刻み込まれ、また愛されている証左なのではないだろうか。

(文/中野ナガ)

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索