誰がための自主規制? 視聴者から疑問の声も

 昨今のテレビ番組において“自主規制”という言葉は、どんな番組においても付いて回る存在となっている。バラエティ番組や情報番組はもちろん、テレビCM、映画やラジオなどでも、規制の“線引き”はますます厳しくなる一方であり、受け手である視聴者からも疑問の声が上がるほど。このような状況の中、作り手はどこまで“自主規制”しながらコンテンツ制作に臨めばよいのだろうか?

作り手側の“自主規制”に抗う声も…お蔵入り作品の“復活”を求め著名運動

 2016年夏、キリンビールがウェブ限定で公開していた缶入りチューハイ『キリン 氷結』のアニメCMが公開中止となった。同CMはアニメ『キルラキル』などで知られるアニメ制作会社TRIGGERと、株式会社アニメイトラボのコラボレーションによるオリジナルアニメ。人気声優を起用し、楽曲も凝ったことで、アニメファンから「作品」としての高評価も得ていたが、主婦連合会、アル法ネット、アルコール薬物問題全国市民協会(通称・ASK)の3団体が共同で「CMの公開中止を求める要望書」を提出。「未成年に飲酒をアピールする内容」だとして公開の差し止めを要請したことなどから公開中止が決定されたと言われている。

 あまり知られてないが、2010年5月の世界保健機関(WHO)からの「酒類メーカーなどのマーケティングから若者を守る予防手段を検討すべき」の指摘を受け、日本でも2014年6月に「アルコール健康障害対策基本法」が施行。2016年5月にはお酒のCM(テレビ)は25歳以上が出演する基準が設けられた。

 同CMはウェブだが、「ゲーム・アニメ・SNS・声優アイドルなど若者文化」を扱っている点や、登場人物の年齢が21〜25歳であることなどを指摘し、「明らかに若者層がターゲットで、未成年に大いにアピールする内容」であり「配慮が足りない」と問題視した。同社は視聴するにあたり、「20歳以上」の年齢認証を設けて、未成年者が視聴しづらいようにしていたが、ASKなどは「絶対的なものではありません」とし、未成年者でも見ることができると主張した。

 これを受け、SNSでは「そもそも25歳ルールがよくわからない」、「CMを見たが別に問題は感じない」をはじめ、さまざまな意見が飛び交った。また2017年1月16日、ツイッターのまとめサイトtogetterにて同CMの「復活」を求めての署名活動が開始。2月8日現在、7000以上の署名が集まっている。

自主規制の風潮をかわしながら面白さを探求する“尖った番組”も存在

 こういった一部の抗議によってお蔵入りし、視聴者が疑問を持つ案件は今までも数多くでてきており、その抗議をかわすための自主規制により、表現はますます制限されるという状況に。オリコンが2015年に10代〜50代の男女1,000人を対象に自主規制に対するアンケートを実施したところ、現在の規制が【妥当だと思う】は全体の44.4%、【妥当ではない】は55.6%と、僅差ながらに【妥当ではない】が半数を上回った。肯定派からは「ある程度の規制は必要。昔やっていたような、毒気のある番組が特にいい内容とも、面白い内容とも思わない」(神奈川県/40代・女性)などの意見が。また否定派からは「規制が厳しすぎて、どの番組も同じような内容になっている」(北海道/20代・女性)、「実際、規制ばかりだと、つまらなくなって、テレビ離れが進んで本末転倒になるだろう」(栃木県/20代・女性)などの意見が上がった。

 だが、そんな自主規制の風潮を上手くかわしながら面白さを探求し、人気を得ているテレビ番組はいくつか存在している。例えばNHK Eテレで夜11時から放送されている『ねほりんぱほりん』では、“元薬物中毒者”や“二次元しか愛せない女たち”、“ハイスペックな男との結婚を目指す女性”など、ともすればBPOに引っ掛かりそうなアウトサイダーよりの人物の闇深い赤裸々トークを、「かわいらしい人形劇」で表現。そのOPアニメもヤンマー一社提供の気象情報を伝えるテレビ番組『ヤン坊マー坊天気予報』(1959年〜2014年)にそっくりという、“NHKにあるまじき”(!?)の攻めっぷりでコアなファンを獲得している。

 また、自主規制と業界不況で手間と予算がかけられないことも合わせた苦境を“ワンテーマ”というアイディアでカバーした『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)や、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)なども人気。やり方次第では十分にエッジが利かせられることを証明している。

→テレビ番組を取り巻く“自主規制”の是非

不快に感じる“ライン”は人それぞれ、だからこそ一定の幅は必要か?

 ダウンタウンの松本人志は2016年2月7日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、自主規制により放送禁止用語が増え続ける現状について、「個人差があっていいのかなと思うんですよ。誰が言うかにもよるかなと。もうちょっと個人個人、自由度があったほうが面白いかなと思うんですけどね」と発言。番組の面白さには自由が必要と言及し、さらに「今、テレビは誠実さが必要かと思ってます。『ワイドナショー』はわりとそうかと思ってるんですけどね。正直にしゃべろうと」と番組やテレビに対する向き合い方を明かした。

 視聴者一人ひとりが不快に感じるラインはそれぞれ異なり、自主規制はどこまで?には明確な答えは出せない。同番組では、ゲストコメンテーターの乙武洋匡氏が「背が高いですね、というのは一般的にはむしろ褒め言葉として使うことのほうが多いと思いますけど、小さいころから背が高いことでからかわれ続けてきた女性に背が高いですねと言ったら恐らく傷つきますよね」と話し、「万人が傷つかない言葉で放送することって不可能かなと思う。その線引きのラインがずるずる手前になってきてしまっているのかなという印象」と持論を明示した。

 誰もが傷つかない平和で健全な社会……この理想を目標に掲げることはもちろん大切だ。しかしながら、必要以上の自主規制の風潮に疑問を感じる視聴者も多い。ケースによっては、“自主規制”で守るべきものの、“不在”さえも感じないだろうか。

(文:衣輪晋一)

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