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尾野真千子インタビュー『痛めつけられてなんぼの女優業(笑)』

思えば女優デビューした中学生のときから、複雑な役を演じていた。“さわやか”の代名詞である朝ドラのヒロインさえ、彼女が演じると、善悪を越えて人間の業を肯定する、芯の強い女になる。難しい役を呼び寄せているような印象すら抱いてしまう女優・尾野真千子だが、Hulu/J:COMにて全6話を一挙配信中のドラマ『フジコ』のヒロイン役は、断るつもりだったのだとか。現在放送中の『おかしの家』(TBS系)では、ちょっぴりくたびれたシングルマザーを色っぽく好演している尾野に、『フジコ』を振り返ってもらった。

自分でどんな芝居をしたか覚えていない

――少女時代から殺人を繰り返してきた、主人公フジコの壮絶な人生を描いた本作。最初に高橋泉さんの書いた台本を読んだとき、この役は断りたいと思われたそうですね?
尾野良すぎたんでしょうね、台本が。リアルでいやだったんです。やりたくなかった(笑)。酷い事件のニュースがどんどんメディアから流れてきて、そういうものをいつも目にしているいまの時代に、フジコのやったことって、ただの刺激物にしか見えないんじゃないか? って。作品を観てくれる人って、こういうドラマや映画が好きっていう人だけではないと思うんです。インターネットの配信になれば、それこそ子どもでも、誰でも観れてしまう。そういう人たちにとって、自分が演じた作品が刺激物として、自分たちの思いとは違う気持ちが伝わってしまうのが怖かった。そういうことをすごくリアルに考えてしまって、フジコの気持ちとか、物語としては考えられなかったんです。

――高橋さんが台本を手がけた映画『凶悪』(2013年)を観て、その気持ちが変わったのだとか?
尾野『凶悪』を見たときに、思い出させてくれたというか。私たちは嘘を作っていく。そこから伝わるものがある。そういうことなんだって気づかせてもらって。あぁ、ちゃんと伝えられるものを作ればいいんだ、間違ったことではないんだって思えたんです。
――大量の鮮血にまみれ、死体を切り裂く過激な描写も、ジャーナリストの美智子(谷村美月)が、拘置所にいるフジコへのインタビューを重ね、フジコが抱える心の闇にじんわりと光を当てることで、狂気や哀しみを伴って伝わってきました。美智子との面会シーンの撮影は、いかがでしたか?
尾野長かったですね。ずっと(面会室に)いた気がします。谷村さんは、不思議な人でした。表情が変わらないので、途中で不安になるくらい! でも出来上がりを観ると、あれで良かったんだなって。フジコには見せてはいけない、いろいろな思いのなかで、美智子をやってくれていたと思うんですけど、フジコとしては、感情をむき出しにしてこない、変わらない美智子の顔を見ていると、腹立たしいんですよ。なんかイライラしながら、見ていましたね。

――美智子とのやりとりで、封印していた記憶が揺り起こされるなか、怒ったり、笑ったり、くるくると表情を変えていくフジコ。第2話で美智子に見せた涙は、子どもの涙のように美しく、印象的でした。あのシーンのことは覚えていますか?
尾野……覚えていない。大概どの作品でも、自分でどんな芝居をしたか、覚えていないんです(笑)。(本番前の)テストでやったことも覚えてないことがあって。「さっきのあれ、良かったね」って言われても「なにか、やりましたっけ?」って。「いや、手を上げていたんだけど」「えっ、私、手上げてました?」とか(笑)。無意識にそういう行動を取っているからこそ、覚えていないんでしょうね。計算していないというか。もともとこうしようと思っていたら覚えているんでしょうけど、覚えていないのは不意にやってしまうから。完成作を観て「あ、こんなことをやっていたんだ、私」って、びっくりすることがよくあります。いや、ほとんどそうですね。

痛めつけられるのは周りから(笑)

――たとえば第1話で、初めて美智子に会ってあいさつをしたとき、唇をなめる仕草に、フジコの心の渇きを感じて、ゾクッとしました。尾野さんにとって、役を演じるということは、理解したふりをするのではなく、あるがままに振る舞うことで、フジコという複雑な人間の内面に踏み込んでいくような感覚でしょうか。そう考えると、10歳で家族を惨殺されて以来、心の均衡を失い、平気で人を殺せる人間になっていったフジコを演じることは、精神的にとても過酷だったのでは?
尾野やっぱり子どもに手をかけるときは、しんどい、つらい、つかれた、と三拍子揃っていました(苦笑)。ダンナ役の(高橋)努くんとふたりで、殴る蹴る(の身体の痛み)より、心が痛いよねって話していました。でも、普通の恋愛女子でもなく、特徴のある役だったのでやりがいはすごくありました。いま、また完成作を見返しているんですけど、やって良かったと思います。また違う自分を見れた気がしたし、しんどいからこそ、生まれてくることもありますし。自分を痛めつけて出てくるもの、甘やかして出てくるもの、いろいろできたら、幸せです。そのために、日々がんばっています。やっぱり自分は自分を甘やかすしかないので、痛めつけられるのは周りからですね(笑)。
――女優業は、痛いことですか?
尾野痛めつけられてなんぼ、ですよね(笑)。周りにいる人がいろいろなことを言って、いろいろなことをやらせてくれるから、いろいろな自分が出てくる。そうでないと、自分で甘やかしているだけだと、これが限界になってしまう。

――芝居をしているときのことは、ほとんど覚えていないと言っていましたが、これまで演じてきた役は、尾野さんのなかに残っているんですか?
尾野どんどん次に、次に行っていますけど……どんな役をやったっけ? って思い返すこともありますからね。本当は(撮影の終わった役は)なくした方がラクなんです。残っていると、その子たちが出てきちゃうから。

――お話を聞いていて「すぐに忘れて、次へ行くしかなかった」という、フジコの哀しいセリフが一瞬、頭をよぎったのですが!?
尾野私の場合は、リセットは簡単なんです。寝ればリセットされるので。いいことも、悪いこともね。いいことはたまーに覚えていますけど。

――尾野さんは、フジコを悪女だと思いますか?
尾野悪女ですね。特別な悪女かは、よくわからないですけど。人ってみんな必ず、悪を持っているから。フジコという人は、人を殺すとか、いろいろなことで、悪というものがぎゅーっと固まってしまっているけれども、フジコに限らず、ドラマを観ている人だってみんな、悪の一面もあると思うんですよ。

――フジコをどう感じるか? というところでは、視聴者も試されているのかもしれませんね。毎回、タイトル前に挿入される、踏切前に立つフジコの表情ひとつを取ってみても、不気味にも、孤独にも観えるのは、観る側の気持ち次第、つまり視聴者がどれだけフジコに感情移入しているかによって、変わってきますよね。
尾野そうそう、だからフジコは悪女です。その度合いがどれほどかは……あなたも悪女でしょ? って(笑)。でもフジコにはきっと、きれいな悪女の部分もあったんですけど、洗脳とかいろいろなことによって、汚い悪女にされつつあって。そうはなりたくなかったから、リセット、リセットしていったら、どんどん黒い悪になってしまって。もっときれいな悪でいたかったのに、って。そんな悪女だと思います。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

フジコ

 一家惨殺事件の生き残りの少女フジコ。トラウマを負った11歳の少女の人生はいつしか狂い始めた。殺害を繰り返していく彼女は、なぜ殺すのか? 誰が彼女の家族を殺したのか? いつしか幸せだけを追い求め殺人鬼となっていく。

キャスト:尾野真千子 谷村美月 丸山智己 リリー・フランキー 浅田美代子 真野響子
11/13(金)〜Hulu/J:COMにて全6話一挙独占配信
(C)HJホールディングス/共同テレビジョン(C)真梨幸子/徳間書店

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