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岩井俊二監督インタビュー『自分の世界観が出ている 悪友少女ふたりの関係性』

映画監督としてデビューする前から、他に先駆けたデジタル技術の研究により“岩井美学”と称される甘美な映像を確立。近年は活動の場を日本国外へと広げ、作品ごとにますます進化し、観たことのない映像世界を描き続ける岩井俊二監督が、初めて挑戦した長編アニメーション映画『花とアリス殺人事件』。本作に至るまでの道のり、そして現在撮影中の新作映画についてうかがった。

<動画インタビュー> 意外に影響を受けやすい?作品との出会い

15年くらい実験に取り組んで完成したアニメ

――記憶喪失をめぐるふたりの女子高生、花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)の恋愛騒動をみずみずしく描いた『花とアリス』(2004年)。その前日談を、アニメーションで描くという構想は、いつ頃から抱かれていたのですか?
岩井『花とアリス』を作った直後に今回のプランがあって、そのときには完全にアニメにしようと思っていました。とはいえ、当時はアニメのことを何も知らなくて、どうやって作るんだ? というところからいろいろと調べたりして。そんななか、スティーブンスティーブンというチームが、一緒にやりましょうと言ってくれたので、今回、成立させることができたと思っています。
――従来のアニメの定式から解放されたタッチでつづられる『花とアリス殺人事件』。2009年のプロデュース作『BATON』、そして2014年に監督したアニメーションショートフィルム『TOWN WORKERS』を経て、本作でも用いられた「ロトスコープ」(絵コンテをもとに、役者に芝居をつけて実写映像を撮り、その体の動きをトレースして絵にする手法)のおもしろさについてはどう捉えていますか?
岩井やっぱり人の動きが忠実に再現できるのはいいと思うんですけど、それだけだと生々しいので、そこにどれだけマンガらしさをブレンドするかということだと思います。(ロトスコープは)昔からある技法ですが、子どもの頃はマンガっぽくない動きが気持ち悪くて、あまり好きじゃなかった。それが、2000年くらいに『アメリカン・ポップ』(1981年/ラルフ・バクシ監督)を観たとき、すごく新鮮だったんですよね。“ロトなのに、新鮮に感じてる! あれ?”って考えてみたら、日本のアニメ自体が80年代以降の20年間は独自の進化を遂げつつ、ある安定した技術になっていて、それに見飽きていたんだと思うんですよね。なんとなくパターンが読めるというのか。

 それに対してロトは、いわゆる予測不能な動きをするので、目に新しかった。そこから興味を持ち、15年くらいいろいろな実験に取り組んで、今回のアニメに至りました。その過程で、日本のマンガ自体がどんどんリアルになってきたという、時代の変化(の影響)もあったと思います。井上雄彦さんや小畑健さんたちの、リアル過ぎて、もうマンガじゃない! という表現が受け入れられるようになった。そういう意味では、時代として今の方が(ロトが)なじみやすかったんじゃないかなって。

エンタテインメントにいき過ぎない中庸のバランス

――見やすい線と動きで調えられた、繊細な世界のなかで、花とアリス、ふたりの少女がいきいきと輝く“岩井節”は、アニメでも健在ですね。本作の劇場公開時に「ふたりがいれば、いくらでも物語が生まれてくる」とおっしゃっていましたが、彼女たちの愛すべき魅力とは?
岩井ひと言でいうと、悪友なんだと思うんですよね。どっちも、どこかでお互いを迷惑なヤツだと思っているという(笑)。決して親友だとか、仲良しとかじゃなくて、しょうがないなと思いながらつき合っている相手なんだけど、その関係性に自分の世界観がすごく出ているのかなって気がします。

 10代の頃は、教室のなかに話の合う相手は大勢いたけど、大人になるにつれて、教室の仲間はだんだん減ってくるし、社会に出ると、かなり小さなユニットになっていく。そんな流れのなかで、もはや同じ世界観でつるむなんてことはおよそ考えられず、ヘンな話、撮影が始まってしまうと、飲みに行って映画の話をすることすらない感じです。仲間同士って意外と疎遠だったり、そうするとお互いにつながっている手がかりもとくにない。もはや縁でしかないんですよね。そこにいた縁、みたいな関係性。

 でも、自分にとってそれほど重要な相手じゃなかったはずなのに、長くつき合っていくと、その縁の長さというのは絶大なんです。腐れ縁みたいになっていく関係の方がより人間的だし、それでいいのかも知れないとちょうど思い始めたのが『花とアリス』を作り始めた40代あたりだったと思うんですよね。同じ趣味嗜好、同じ価値観同士でずっと一緒にいられたら楽しいんだろうけど、自分の場合はそこに恵まれなかったというか。でも、そういう環境でずっともまれて来たからこそ、形成されたバランスというのもあると思います。マニアックになり過ぎず、アーティスティックになり過ぎず、エンタテインメントにもいき過ぎず、中庸のバランスというのかな。

――少女を取り巻く大人たち、なかでもアリスと初老の男・渡辺やアリスの父親とののどかな交流には、風通しのよい、少し広い世界観というのか、まさに黒澤明監督の名作『生きる』(1952年)が作られた当時の、古き良き時代の匂いを感じました。
岩井子どもの頃に読んでいた、児童文学を執筆する作家の佇まいを意識しながら、脚本を書いていたような気がします。ハードなアイテムなんてひとつも出てこない、非常に健全で健康的な、学校の図書室にあってもいいツールだけで作るという思いがありました。これが大人(が主人公)の話になると、大人の責任というものが出てきて、許されざることもいっぱい出てくる(苦笑)。「それって甘えじゃない?」って感じで否定されそうな部分を未然に防ぐために、事前にものすごいネガティブチェックをしなければいけないんだけど、子どもだと、そのほとんどが免責されるから(今回は)ストーリーで苦労した部分はそんなになく、ふわーっと書き上がりました。

 実写で撮ったものをみんなで観て、まぁおもしろいんじゃないかって納得してから(アニメの作業に入り)1年後に、完成したアニメと再会したとき、久しぶりに物語に出合って、そういえばこういう話だったよねって感じでしたね。それはちょっと不思議な体験でした(笑)。

 いま撮っている次の作品は大人の話なので、文章に直すことで、切れている部分はないか? ストーリーが1本の糸のようにちゃんとつながっているのかを検証しています。手間はかかるけど(その作業は)ものすごく大事ですね。どうしても映像って雰囲気だったりするので。

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