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アナゴさん死す? サイコパス・ホリカワくん? 『サザエさん』ネット独自の楽しみ方

 国民的アニメとして長年愛されてきた『サザエさん』(フジテレビ系)が、今なぜかネットで話題になることが多い。6月28日放送の次回予告で、「穴子さん最後の晩さん」というタイトルが流れると、「アナゴさん、死ぬんじゃないのか!?」などと、ネットで勝手に内容が予測されて盛り上がった。しかし実際は、アナゴさんの奥さんが怒って家出したが、ちゃんと“夕飯=晩さん”が用意されていた……という話だった。このように、制作者側の意図しない形で視聴者側が独自にネットで盛り上がることの多い、近年の“サザエさん事情”について検証してみた。

ひよこにワカメと命名、壁のシミを弟に見立てるホリカワくんの心情とは?

  • 多くの人に親しまれる国民的長寿アニメ『サザエさん』(写真はアルバム『サザエさん音楽大全』2013年発売/ユニバーサルミュージック)

    多くの人に親しまれる国民的長寿アニメ『サザエさん』(写真はアルバム『サザエさん音楽大全』2013年発売/ユニバーサルミュージック)

 1969年の放送開始以来、今年で47年目を迎える『サザエさん』は、ギネス認定の世界一の長寿アニメ。“いつまでも変わらない”“安心して観られる”ことが最大のウリで、老若男女問わずお茶の間で人気だが、最近、変わったキャラクターが登場することもあり、話題になっている。その代表格が、ワカメの同級生であり、“サイコパス”の異名を持つホリカワくんだ。

 このホリカワくん、最近になって脚光を浴びるようになったキャラで、すこぶる変わっているようだ。「ホリカワくんの卵」という回では、親戚が営む養鶏場のひよこを勝手に“わかめ”と名付け、「成長して卵を産んだら真っ先に人間のワカメちゃんに食べてもらいます」と発言し、ワカメに気持ち悪がられる。この回からネットでは、“ホリカワくん=サイコパス”とまで言われ、大いに盛り上がるのだが、確かに少々気味の悪いところが多い。

 「ホリカワくんの弟」の回では、ホリカワくんが、本来いないはずの弟を題材にして作文を書く。疑問に思うワカメだったが、ホリカワくんは塀に浮かんだシミを“弟”(名前はヘイキチ!)と称し、キャッチボールをしていたというオチだった。その人型のシミは、心霊番組でよくある“トンネルの怨霊が浮き出たシミ”っぽく、かなり気持ちが悪い。先述のヒヨコの回でも、ホリカワくんの描いたヒヨコの絵を見て、タマが悲鳴を上げて逃走。その絵は、電流が走ったようにヒヨコの毛が逆立ち、ワカメにも「これがひよこ!?」と驚愕されてしまうほど恐ろしい絵だった。カツオも「すごいよ、ホリカワくんの絵、タマが逃げていくんだからね」と皮肉るが、ホリカワくんは平然と「そんなに褒めないでください」と照れ笑い。サザエさんらしからぬシュールな空気が漂うのであった。

普遍的な内容だからこそ、紛れ込んだ異質な存在がより際立つ

 最近のサザエさんに何か異変が起きているのだろうか。確かに登場人物の服装もアカ抜けてきたし、花沢さんのお父さんは携帯電話も持っている。磯野家のテレビも、見た目は昔からある家具調のテレビだが、地デジには対応しているらしい。“世間での普及率が80%を超えたら磯野家も導入”という都市伝説があるが、制作者側は「家電は無視している」と認めているし、いまだに電話は黒電話だ。そして当然、サザエさんは永遠の24歳で、カツオは小学校5年生のまま。要するに、『サザエさん』はそれほど変わっていない。逆に、だからこそ“謎の部分”が掘り起こされたりもする。そもそも、なぜサザエはカツオにとって“姉さん”なのか? 年が離れすぎて不自然である。頭頂部に毛が一本しかない老人のような波平が、カツオとワカメの父親というのも少し変だ……そんなぼんやりとした疑問に応えたのが、1992年に発売された書籍『磯野家の謎』(集英社)。

 この本、今でいう『ワンピースの謎』(データハウス)的な、その物語の背景や設定など、疑問点を重箱の隅をつつくように検証する、“謎本”“研究本”と呼ばれるジャンルの元祖ともいえる本で、200万部を超える大ベストセラーとなった。1946年連載開始の『サザエさん』の設定を含めて検証され、あまり語られることのなかった登場人物の年齢や、実はフネが波平の後妻だったなど、ブラックな噂も盛り込み、多くの読者に新鮮に受け入れられたのだ。ネット上で『サザエさん』が面白がられている現在の現象も、この『磯野家の謎』とほぼ同じノリだといえる。

 とはいえ、すべては『サザエさん』が長寿アニメであるということと、基本的なストーリーは決して変わらない作品であるからこそ起きる現象だ。普遍的な内容だからこそ、そこに紛れ込んだ“ホリカワくん的”な異質な存在がより際立つし、定番のキャラにも何か“異変”を探し出したり、“深読み”するという我々の好奇心も、十分に満足させてくれるわけだ。今後も『サザエさん』には、変わらず“偉大なるマンネリズム”を守っていただきたいものである。

(文:五目舎)
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