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綾野剛インタビュー『輝いて愛されて、愛おしい存在』

最新主演映画『新宿スワン』で綾野剛が演じたのは、19歳の主人公・白鳥龍彦。綾と剛、白鳥と龍……役者、役名ともに、ソフトとハードをあわせ持った、印象的な名前であることは単なる偶然ではあるまい。クールなイメージを脱ぎ捨て、少年独特の繊細さや逞しさを、美しく、くじけず、まさに“名は体を表す”ように表現した綾野に、本作に注いだ情熱を聞いた。

ダイナミックに、惜しまず、抑えずに

――本作のオファー前に、原作者の和久井健氏との運命的な出会いがあったそうですね? 初めて綾野さんを見た和久井氏のひと言から、映画化が一気に動き始めたのだとか!?
綾野たまたま僕が食事に行った席に和久井先生がいらっしゃって、ちょうど『新宿スワン』の話をしていたみたいです。そのとき映画化の話は聞いていましたが、僕は原作もまともに読んだことがなかったんです。だから和久井先生に「ここに龍彦が居るじゃないですか」っておっしゃっていただいても、“龍彦って、髪の毛がボンバーの人か。オレじゃないよな”って。その辺は冷静でした。当時の僕では、彼ができるほどの度量も、ネームバリューもなかっただろうし。だからその場のノリとして言ってくださったんだなって、「いえいえいえ」とすんなり流れた話です。
 それとは全く別の話になりますが、僕が「先生」と呼ぶのは、弁護士でも政治家でも医者でもなく、漫画家だけなんです。初めてお会いした和久井先生が、そんな僕の興味のあることや質問に対して、惜しまず、丁寧にお話してくれた記憶が強く残りました。そういう経緯もあって“『新宿スワン』を読もう”と思って、すぐに単行本を(当時はまだ連載中だったため)出ているだけ全部買い揃えました。読んだら、すごくおもしろかった。それから何ヶ月も経って、本当に忘れたころに、今回のオファーが来たんです。
――原作のどこにおもしろさを感じたのですか?
綾野闇を闇として、評価している。闇というのは、あくまで悪いものではない。光が存在するために闇があるし、闇が存在するために光がある。うまく言えないんですが、そういうことをちゃんと見せているんですよ。マンガに登場する人物がみんな闇を抱えるなかで、龍彦だけは闇を抱えていないんです。彼が闇を照らすことによって、その部分が露になっていくし、そうならなければいけない役でした。(言い換えれば)それほど彼は(映画のなかで)輝いていたと思うし、愛されていたとも思います。僕にとっても、愛おしい存在でした。

――撮影当時32歳だった綾野さんが、19歳の龍彦を演じるにあたって、どのような準備をされましたか?
綾野龍彦のにじみ出るパワーが抑え切れない感じを表現する上で、出し惜しみをしないことから始めました。どんなに大げさになっても、過大表現だと言われても、抑えることを一切しなかった。やり過ぎたときには、監督の演出で抑えていただければいい、と思っていました。やっぱり32歳の僕は、19歳の龍彦より落ち着いていますから、芝居をするにあたって、自分が出てくることなんてないですが、それでも体が覚えている抑え方とか、大人でいようとする意識がある。そういうものを全部排除して、龍彦だからできる表現というものを、ダイナミックに、惜しまず、抑えずにやることに徹底しようと思いました。

スタッフ、キャスト全員に共犯者になってもらった

――『愛のむきだし』(2009年)以来となる園子温組の現場はいかがでしたか?
綾野撮影初日に、真虎さん(伊勢谷友介)と出会って、定食屋で飯をおごってもらって食べるシーンを撮りました。まずは共演者、スタッフのみんなに、龍彦は龍彦で懸命に生きようとしていることを伝えたかったんです。(僕の芝居を見て、冒頭のシーンから)これだけ飛ばしてしまうと、後半がどんどん大変になるぞという考えも(監督には)あったかもしれませんが、「よし、じゃあこっちの方向で撮っていこうか!」って乗ってくださった。監督の器の大きさを感じましたし、信頼していただけたんだなっていう手応えもありました。あのとき、龍彦の方向性みたいなものに対して、スタッフ、キャスト全員に共犯者になっていただくところから始められて、すごくよかったと思います。それも全部、園さんの演出力だと思います。
 園組というだけで、役者それぞれが、役を通してどう表現するかということを相当考えてから、現場に来ていたと思います。かと言って、考えてきたものが全部活かされるほど、甘い現場ではないとも思っていたので、とにかくたくさんのスイッチ、アプローチの方法を用意しておく。勝手に、意識的にそうしていました。そういう意味では“園子温”という名前だけで、十分な演出になっていたとも思います。
――“園マジック”とも称される、現場での即興的な演出で、印象に残っていることはありますか?
綾野いろいろと台本に書かれていないことをやっているんです。新宿の街中で、火のついた1万円札を投げるのも園さんの思いつきといいますか。最後、どしゃぶりのなか、若い子たちがケンカしているところを龍彦が歩く描写も、台本にはありませんでした。雨の演出も「秀吉(山田孝之)が出たら、とにかく雨が降るから!」のひと言でした。どしゃぶりの乱闘以来、秀吉の時は止まってしまった。だから龍彦に会うと、秀吉のなかで雨が降るんです。雨についても園さんが考えた映画的表現、雨は秀吉の主観なので、僕たちは、雨に対してリアクションはしていない。秀吉とのシーンは必ず湿っていて、雨が降っている。止まない雨の記憶が、彼のなかでずっと流れ続けているから。最後の最後、秀吉が本当の自分を見つめなきゃいけない、屋上のシーンだけ、雨が降っていない。それは(過去を捨てるために名前を変えて、歌舞伎町で生きてきた秀吉が、本来の)自分の名前を取り戻したときの、人間の強さですよね。それまでずっと止まっていた秀吉の時間が、あそこからまた1秒ずつ刻み出したんです。

――秀吉と龍彦は、先ほど話してくださった、闇と光の関係性ですね。
綾野龍彦は自分で自分のことを語らないし、「俺はこういう人間だ」ということも言わない。真虎さんの「龍彦はいいスカウトになる」という評価や、アゲハ(沢尻エリカ)が龍彦を「王子様」と呼ぶこととか、龍彦に固執する秀吉の姿勢だとか、周りの人が龍彦の輪郭を作ってくれている。秀吉は、自分で自分の名前をつける人ですから。誰にも輪郭を作ってもらえず、孤独なんです。この作品のなかで、龍彦がいちばん救わなきゃいけなかったのは、秀吉だったと思う。秀吉の孤独を、汲み取らなきゃいけなかったという思いはあったけど、ああいう結果ですから。龍彦は最後の最後まで、未熟だったと思います。

きれいごとを言い切る未熟な彼は…“希望”

――未熟、ですか?
綾野例えば「オレがスカウトした女は、必ず幸せだって言わせます」っていう考え方も、本人にとってそれがいちばん都合のいい状況だったんです。結局そうでも言って、自分のなかで気合いを入れないと、ビビって逃げていると思われるのがイヤだったんだろうし。もちろん根本には、女性に手を出すのは許せないという要素を持った人だし、心の底から本気で幸せになってほしいし、オレが幸せにしてやろうと思っていますが、実際に彼が何で収益を得ているのかというところまで、彼には考えられていない。それほど未熟なんです。龍彦の考え方では、新宿は変えられないし、世の中も変えられません。きれいごとです。だけど、そういうきれいごとをちゃんと胸を張って、心の底から本気で、何の迷いもなく、ブレもなく、混じり気のない純真さで、ああいうふうに言ってくれる人の存在は“希望”なんだと、完成作を観て僕は思ったし、そういう人はやっぱり必要だと思いました。

――完成作を、どうご覧になりましたか?
綾野観終わった後、まだまだ終われないな、終わっていないなって。僕自身がまだ終われていないって素直に思いました。そういうことってまずないんですけど。お客様にお渡しした作品は、お贈りしたものなので、後は観てくださる方々に委ねるというか、僕たちはそこからある種ノータッチですが、今回はまだ終われないなって。まだ龍彦を生ききっていないというか……。

――うれしい発言! シリーズ化に期待していました!!
綾野そうですね。今回は壮大な(原作全)38巻の1〜4巻までの話なので。本当の闇はこれからなんです。真虎さんたちと向き合って彼らに光を与えられたら、ってことも含めて、まだ全然終われていないなっていう思いがあります。全ストーリーを映画で描こうとしたら、7本くらいのシリーズになると思うんですが、果たしてそれがいいかと言えば、そうでもないので。第2章、最終章……3部作まではいきたいと個人的には思います。園さんとも、この作品に限らずですが、まだまだこれからだなっていうのは、改めてふたりで話していますし。そういう監督と出会えて、本当に感謝だなと思うので。まだ何も終わっちゃいない、始まったばかりです。
文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡
スタイリスト:長瀬哲朗(高橋事務所)/ヘアメイク:石邑麻由

新宿スワン

 親にもツキにも見放され、一文なしの白鳥龍彦(綾野剛)は、新宿・歌舞伎町にやってくるが、チンピラに絡まれてしまう。スカウトマンとして数々の伝説を持つ真虎(伊勢谷友介)に助けられ、そこでスカウトをやらないかと誘われる。歌舞伎町をゆく女性たちに声をかけて、水商売の仕事をあっせんする龍彦。この先に待ち受ける、過酷な試練を乗り越えられるのか……。

監督:園子温
出演:綾野剛 山田孝之 沢尻エリカ 伊勢谷友介 金子ノブアキ
2015年5月30日(土) TOHOシネマズ新宿ほか全国で公開
(C)2015「新宿スワン」製作委員会
【予告編】【公式サイト】(外部サイト)

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