鈍い頭の痛みに気づいたら、緊急停止していたエレベーターに閉じ込められた男の“悪夢”を描いた映画『悪夢のエレベーター』が公開中だ。俳優・タレント・構成作家として活躍する堀部圭亮の長編初監督作品。小説家・木下半太の同名処女小説を原作に、脚本も堀部監督が手がけた。同作に出演する俳優・斎藤工に作品の見どころなどを聞いた。

　斎藤が演じるのは妻の出産立会いに急ぐ浮気帰りの男・小川。妊娠中の妻を放って浮気するなんて、だらしない男の典型だが、斎藤は「もうすぐ自分が父親になるということに対する焦りというか、家族を持つ責任を深く考え過ぎたもがきの成れの果てが、奥さんと全く違うタイプの女性との浮気だったのではないか」と理解を示す。「僕もどちらかというといろいろ考えてしまうタイプだと思うから」。

　小川の浮気は男の真面目さの裏返しなのか。そんな男がいる一方で、浮かび上がってくるのが、女の“恐さ”。斎藤も「この映画を見終わった後、女性が恐くなる男性もいるかもしれないですね」と苦笑いする。

　そして、事件は深夜のエレベーターの中で起きる。緊急停止したエレベーターに小川とともに乗り合わせたのは、自称“空き巣専門”のプロ・三郎（内野聖陽）、自殺願望を持つゴスロリ少女・カオル（佐津川愛美）、他人の心が読める超能力者・牧原（モト冬樹）。このどこかまともではない4人の掛け合いが面白い。

　斎藤は「4人とも血液型が違っていて、芝居も全然違っていた」と振り返る。ちなみに、内野はAB型、佐津川はO型、モトはB型、斎藤はA型。「芝居がかった演技より、なるべく自然に、日常に近い芝居をしたいと思っていた」という斎藤とは対照的に、「内野さんは本番だけすごくテンションを上げてくる。それが抜群でした」。

　なぜ、4人がエレベーターに乗り合わせたのか。やがて秘められた“計画”が狂いはじめ、局面を打開しようと決断したことがいちいち裏目に出る――まさに、“悪夢”。「完成した作品を観て、コーエン兄弟っぽい世界観を感じ、ヨーロッパの映画によく見られるようなひねりの効いたオシャレな作品になった。堀部監督のセンスはすごい」と斎藤も満足げに話す。

　斎藤自身に目を向ければ、アジア進出という“夢”に向かって加速し始めたところだ。今年、ジャッキー・チェンと共演した香港・日本合作映画『新宿インシデント』や韓国・ソウルを舞台にした主演映画『カフェ・ソウル』が立て続けに公開され、台湾映画『九月に降る風』の日本版予告編でナレーションも務めた。来年は三池崇史監督の『十三人の刺客』やアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の実写版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』といった海外でも話題になりそうな出演作品の公開も控える。

　「20歳くらいからずっと、日本だけでなくアジアを舞台に活躍したいと思ってきたので、やっとここまで来たという感じです。ここ1年でいろいろな経験をして、自分の足元をしっかり見据えておけば、どんなにフィールドを広げてもブレないということもつかめたし、作品作りのために国境を越えて自分が存在できる喜びを感じています」