『味ぽん』といえば、さっぱり感の代名詞である国民的調味料。だが、その歴史ある商品がいつの間にか“魔改造”され、SNSでも大きな話題を集めている。先行発売を行ったドン・キホーテの担当者からも「これ味ぽんじゃなくない?」とツッコまれたという、「脳にコッテリ!」な異質すぎる佇まい。流行りのギルティ消費か? 背徳グルメか?『ヤミツキ麺のたれ by 味ぽん』の意外な開発秘話から、社内をも動かした熱いドキュメンタリーを探る。
■「ブランドとして大丈夫?」、あの味ぽんが大変貌「脳にコッテリ!」
日本の食卓に寄り添い続けて62年。ミツカンの『味ぽん』といえば、誰もが「さっぱり感」を連想する国民的調味料だ。そんな大定番ブランドから6月1日に発売された新商品が、いま世間をザワつかせている。
全国のドン・キホーテなどのPPIHグループ国内店舗限定で先行発売されたのは、『極旨ヤミツキ麺のたれ by 味ぽん』と『辛旨ヤミツキ麺のたれ by 味ぽん』。パッケージには「脳にコッテリ!」「舌にピリリッ!」「腹にガッツリ!」と、らしからぬパワフルなワードが躍る。『味ぽん』をベースに濃厚な脂のコクを掛け合わせた「極旨」と、油感に魚粉の旨み、山椒や唐辛子、辣油の辛みと痺れを効かせた「辛旨」の2種。ゆでた麺にかけるだけで、簡単に油そば風に変貌する麺専用調味料だ。
「さっぱり」の代名詞が、真逆の「背徳感(ギルティ)」へ激振りしたこの事態。SNS上でも大きな反響を呼び、購入したユーザーからは「濃厚でコッテリしている」「なのに後味に味ぽんならではの爽やかなDNAを感じる」「重すぎなくて箸が止まらない」といった絶賛のコメントが寄せられている。
「ありがたい反応をたくさんいただけて、本当にホッとしています」と笑顔を見せるのは、当商品の開発を手掛けたミツカンの吉岡真優さんだ。それにしても、なぜ最初の販売先として、あの独特な熱気を持つドン・キホーテ系列を選んだのだろうか。
「今回はかなりジャンキーで挑戦的な仕上がり。だからこそ、ドンキに来られるお客様であれば、この異質さを面白おかしく捉えて受け入れてくれるのではないかと考えました」
仕掛けたミツカン側も確信犯なら、迎え撃つドンキ側も一筋縄ではいかない。ユニークな商品を取り扱うドンキだが、最初に商品企画を持ち込まれた担当者は、あまりの衝撃に「これ、味ぽんじゃなくないですか…!?」と思わず困惑のツッコミを入れたという。
このリアルな反応は、両社の公式Xアカウント同士の応酬へと発展。「流石にこれが“味ぽん”って無理でしょ、、、」と突き放すドンキ側に対し、味ぽん側が「食べてみる前から文句言うの良くないですよ」と言い返すなど、ネットを大いに賑わせた。
「一見すると『ブランドとして大丈夫か?』と思われるような尖った商品を、一緒に面白がって世の中に送り出し、盛り上げていただいたこと。ドン・キホーテさんには改めて感謝をお伝えしたいです」
昨今、あえて高カロリーなものを貪る「ギルティ消費」が一大トレンドとなっている。本商品もブームに便乗したように思えるが、「実はトレンドを狙って開発したわけではない」と意外な事実を明かす。開発スタートは2025年。世にブームが定着するより前、純粋に「生活者の不満」を解消しようとしたことが発端だった。
「日本の夏は冷たい麺が定番ですが、毎日食べていると味が単調になりやすく、飽きてしまうという不満の声が多くありました。さっぱり感は欲しいけれど、そればかりだと物足りない。本当は夏も満足感ある味わいを楽しみたい…という、生活者の本音に寄り添える商品を作れないかと考えました」
つまり、仕上がったタイミングと世間の「背徳グルメブーム」が重なったのはまったくの偶然。むしろ時代が後から追いつき、強烈な追い風を吹かせたというのが真相のようだ。
とはいえ、「さっぱり」と「ガッツリ」は完全に相反する概念だ。それを両立させるためのブレイクスルーとなったのが、吉岡さんが目をつけた「街のお店」の光景だった。
「油そばや混ぜそばの専門店に行くと、卓上にお酢が置かれています。お客さんは、脂っぽくて濃厚な油そばの味変や口直しとしてお酢をかけ、後味をさっぱりさせて完食する。このお酢の役割こそ、味ぽんブランドのDNAが最も生きる領域ではないかと感じたんです」
■「絶対に体重計は乗らない…」、過酷すぎる油そば食べ歩き行脚
目指すべき方向が決まってからの開発は、なかなか過酷だった。吉岡さんは技術チームとタッグを組み、1日に4〜5軒もの油そば・混ぜそばの名店を巡る、凄まじい食べ歩き行脚をスタートさせた。
「限界までお腹に油そばを詰め込み続けて…。『絶対に体重計には乗らないようにしよう』とチームで固く誓い合っていましたね(笑)」
こうした食べ歩きによって油による味の違いを実感し、キッチンやラボでの試行錯誤が開始。にんにくや油を増すと『味ぽん』らしさが消え、『味ぽん』を強めると変わり映えせず物足りないため、半年間ミリ単位の調整で絶妙なバランスを追求した。そして、ようやく黄金比率のプロトタイプが完成。
「出来上がった試作品を社内試食評価にかけたところ、なんと『味ぽん』新商品開発の歴史の中で、過去最高評価点という驚異的な数値を叩き出したんです。それまでの苦労とカロリーの蓄積が、すべて報われたような気がしました」
社内で好評を得て、順風満帆に見えたギルティ味ぽん。しかし、いざ商品化のフェーズに歩み出すと、老舗企業ならではの大きな壁が立ちはだかった。伝統ある『味ぽん』の看板を掲げて、にんにく・油ドバドバのジャンキーな商品を売る。この、一見するとブランドのイメージを壊しかねない挑戦に対し、社内では当然のごとく賛否両論が巻き起こった。
「『これまで築き上げてきた世界観を壊してしまうのではないか』『こんなにギルティな商品を『味ぽん』の名前で出す意味があるのか』といった、ブランドを守る立場からの真っ当な反対意見や懸念が次々と上がりました」
あまりの白熱ぶりに、吉岡さん自身も不安に駆られ、ジャンキーさを抑えるべきかを考え始めていた。だが、そんな膠着状態を打ち破ったのは、なんとミツカン上層部、経営陣の放った思いもよらない一言だった。
「ブレーキをかけそうになっていた私たちに対し、『やれるところまで徹底的に振り切ってみよう!』、『味ぽんはここまでチャレンジできるんだと、社員や世間に見せようじゃないか!』と。まさかのアクセル全開の指示が飛んできたんです(笑)」
この言葉で迷いは完全に吹っ切れ、にんにくやごま油、辛みのパンチを極限まで尖らせる覚悟が決まった。さらに、その攻めの姿勢を支えたのは、偶然にも同じ時期(2025年)に社内で制定された、1冊の「ブランドブック」の存在だったという。
「禁止事項ばかりのルールブックではなく、『味ぽんが守るべき絶対的な世界観は数行だけ。ここさえ守ってくれれば、あとは何をしても自由。どんどん新しいことに手を挙げて発展させていいよ』という、社員の創造性を尊重するためのガイドラインでした。この柔軟な土壌があったからこそ、今回のギルティな挑戦が叶ったように思います」
■令和の家庭の救世主となるか? 乞う、“魔改造”
アクセル全開で完成させたこの商品は、現代の家庭の救世主としての側面も持っている。
「『味ぽん』といえば、冬にみんなで鍋を囲んで使うイメージが強かったと思います。しかし現代は単身世帯が増え、ライフスタイルも多様化。『ヤミツキ麺のたれ』は単身者や若い世代、男性にも気軽に使っていただきやすいと思います。また、夏休み中に3食を作るのが大変な方にも、手軽に使っていただけるのではないでしょうか」
最後に、開発者である吉岡さんに、“やる気がゼロでも、最も手軽でギルティに食べる方法”を教えてもらった。
「『極旨』はネギとチャーシューを乗せ、生卵を落としても最高です。コンビニのサラダチキンを手でちぎって乗せるだけでも十分美味しくなります。『辛旨』には、焼き海苔やレンジでチンしたチンゲンサイが抜群に合いますね。さらにギルティさを求めるなら、卵やお肉を追加するのもおすすめです」
ユーザーが自発的にアレンジを施した画像をアップし、それが次なるトレンドを生む現代のSNSマーケティング。日々エゴサーチしているという吉岡さんも、さらなる“魔改造”を心待ちにしている。
ミツカン史上最もジャンキーなこの挑戦作は、6月1日から全国のドン・キホーテ、アピタ、ピアゴなどのPPIH グループ店舗で販売中。また、7月14日までは期間限定で全国のドン・キホーテ19店舗にて大々的な売場展開を行っている。「鍋専用調味料」という62年間の固定観念を飛び越え、令和のライフスタイルへと寄り添い始めた『味ぽん』。
「皆さんに驚きや楽しさを提供できるような、ワクワクしてもらえるブランドであり続けたいです」と吉岡さん。老舗ミツカンが本気で仕掛けた“ギルティな味ぽん”が、今年の夏、日本中の食卓をどれだけヤミツキにしていくのか。国民的調味料の、これからの恐れ知らずな快進撃に注目していきたい。
(文:衣輪晋一)
■「ブランドとして大丈夫?」、あの味ぽんが大変貌「脳にコッテリ!」
日本の食卓に寄り添い続けて62年。ミツカンの『味ぽん』といえば、誰もが「さっぱり感」を連想する国民的調味料だ。そんな大定番ブランドから6月1日に発売された新商品が、いま世間をザワつかせている。
全国のドン・キホーテなどのPPIHグループ国内店舗限定で先行発売されたのは、『極旨ヤミツキ麺のたれ by 味ぽん』と『辛旨ヤミツキ麺のたれ by 味ぽん』。パッケージには「脳にコッテリ!」「舌にピリリッ!」「腹にガッツリ!」と、らしからぬパワフルなワードが躍る。『味ぽん』をベースに濃厚な脂のコクを掛け合わせた「極旨」と、油感に魚粉の旨み、山椒や唐辛子、辣油の辛みと痺れを効かせた「辛旨」の2種。ゆでた麺にかけるだけで、簡単に油そば風に変貌する麺専用調味料だ。
「さっぱり」の代名詞が、真逆の「背徳感(ギルティ)」へ激振りしたこの事態。SNS上でも大きな反響を呼び、購入したユーザーからは「濃厚でコッテリしている」「なのに後味に味ぽんならではの爽やかなDNAを感じる」「重すぎなくて箸が止まらない」といった絶賛のコメントが寄せられている。
「ありがたい反応をたくさんいただけて、本当にホッとしています」と笑顔を見せるのは、当商品の開発を手掛けたミツカンの吉岡真優さんだ。それにしても、なぜ最初の販売先として、あの独特な熱気を持つドン・キホーテ系列を選んだのだろうか。
「今回はかなりジャンキーで挑戦的な仕上がり。だからこそ、ドンキに来られるお客様であれば、この異質さを面白おかしく捉えて受け入れてくれるのではないかと考えました」
仕掛けたミツカン側も確信犯なら、迎え撃つドンキ側も一筋縄ではいかない。ユニークな商品を取り扱うドンキだが、最初に商品企画を持ち込まれた担当者は、あまりの衝撃に「これ、味ぽんじゃなくないですか…!?」と思わず困惑のツッコミを入れたという。
このリアルな反応は、両社の公式Xアカウント同士の応酬へと発展。「流石にこれが“味ぽん”って無理でしょ、、、」と突き放すドンキ側に対し、味ぽん側が「食べてみる前から文句言うの良くないですよ」と言い返すなど、ネットを大いに賑わせた。
「一見すると『ブランドとして大丈夫か?』と思われるような尖った商品を、一緒に面白がって世の中に送り出し、盛り上げていただいたこと。ドン・キホーテさんには改めて感謝をお伝えしたいです」
「日本の夏は冷たい麺が定番ですが、毎日食べていると味が単調になりやすく、飽きてしまうという不満の声が多くありました。さっぱり感は欲しいけれど、そればかりだと物足りない。本当は夏も満足感ある味わいを楽しみたい…という、生活者の本音に寄り添える商品を作れないかと考えました」
つまり、仕上がったタイミングと世間の「背徳グルメブーム」が重なったのはまったくの偶然。むしろ時代が後から追いつき、強烈な追い風を吹かせたというのが真相のようだ。
とはいえ、「さっぱり」と「ガッツリ」は完全に相反する概念だ。それを両立させるためのブレイクスルーとなったのが、吉岡さんが目をつけた「街のお店」の光景だった。
「油そばや混ぜそばの専門店に行くと、卓上にお酢が置かれています。お客さんは、脂っぽくて濃厚な油そばの味変や口直しとしてお酢をかけ、後味をさっぱりさせて完食する。このお酢の役割こそ、味ぽんブランドのDNAが最も生きる領域ではないかと感じたんです」
■「絶対に体重計は乗らない…」、過酷すぎる油そば食べ歩き行脚
目指すべき方向が決まってからの開発は、なかなか過酷だった。吉岡さんは技術チームとタッグを組み、1日に4〜5軒もの油そば・混ぜそばの名店を巡る、凄まじい食べ歩き行脚をスタートさせた。
「限界までお腹に油そばを詰め込み続けて…。『絶対に体重計には乗らないようにしよう』とチームで固く誓い合っていましたね(笑)」
こうした食べ歩きによって油による味の違いを実感し、キッチンやラボでの試行錯誤が開始。にんにくや油を増すと『味ぽん』らしさが消え、『味ぽん』を強めると変わり映えせず物足りないため、半年間ミリ単位の調整で絶妙なバランスを追求した。そして、ようやく黄金比率のプロトタイプが完成。
「出来上がった試作品を社内試食評価にかけたところ、なんと『味ぽん』新商品開発の歴史の中で、過去最高評価点という驚異的な数値を叩き出したんです。それまでの苦労とカロリーの蓄積が、すべて報われたような気がしました」
社内で好評を得て、順風満帆に見えたギルティ味ぽん。しかし、いざ商品化のフェーズに歩み出すと、老舗企業ならではの大きな壁が立ちはだかった。伝統ある『味ぽん』の看板を掲げて、にんにく・油ドバドバのジャンキーな商品を売る。この、一見するとブランドのイメージを壊しかねない挑戦に対し、社内では当然のごとく賛否両論が巻き起こった。
「『これまで築き上げてきた世界観を壊してしまうのではないか』『こんなにギルティな商品を『味ぽん』の名前で出す意味があるのか』といった、ブランドを守る立場からの真っ当な反対意見や懸念が次々と上がりました」
あまりの白熱ぶりに、吉岡さん自身も不安に駆られ、ジャンキーさを抑えるべきかを考え始めていた。だが、そんな膠着状態を打ち破ったのは、なんとミツカン上層部、経営陣の放った思いもよらない一言だった。
「ブレーキをかけそうになっていた私たちに対し、『やれるところまで徹底的に振り切ってみよう!』、『味ぽんはここまでチャレンジできるんだと、社員や世間に見せようじゃないか!』と。まさかのアクセル全開の指示が飛んできたんです(笑)」
この言葉で迷いは完全に吹っ切れ、にんにくやごま油、辛みのパンチを極限まで尖らせる覚悟が決まった。さらに、その攻めの姿勢を支えたのは、偶然にも同じ時期(2025年)に社内で制定された、1冊の「ブランドブック」の存在だったという。
「禁止事項ばかりのルールブックではなく、『味ぽんが守るべき絶対的な世界観は数行だけ。ここさえ守ってくれれば、あとは何をしても自由。どんどん新しいことに手を挙げて発展させていいよ』という、社員の創造性を尊重するためのガイドラインでした。この柔軟な土壌があったからこそ、今回のギルティな挑戦が叶ったように思います」
■令和の家庭の救世主となるか? 乞う、“魔改造”
アクセル全開で完成させたこの商品は、現代の家庭の救世主としての側面も持っている。
「『味ぽん』といえば、冬にみんなで鍋を囲んで使うイメージが強かったと思います。しかし現代は単身世帯が増え、ライフスタイルも多様化。『ヤミツキ麺のたれ』は単身者や若い世代、男性にも気軽に使っていただきやすいと思います。また、夏休み中に3食を作るのが大変な方にも、手軽に使っていただけるのではないでしょうか」
最後に、開発者である吉岡さんに、“やる気がゼロでも、最も手軽でギルティに食べる方法”を教えてもらった。
「『極旨』はネギとチャーシューを乗せ、生卵を落としても最高です。コンビニのサラダチキンを手でちぎって乗せるだけでも十分美味しくなります。『辛旨』には、焼き海苔やレンジでチンしたチンゲンサイが抜群に合いますね。さらにギルティさを求めるなら、卵やお肉を追加するのもおすすめです」
ユーザーが自発的にアレンジを施した画像をアップし、それが次なるトレンドを生む現代のSNSマーケティング。日々エゴサーチしているという吉岡さんも、さらなる“魔改造”を心待ちにしている。
ミツカン史上最もジャンキーなこの挑戦作は、6月1日から全国のドン・キホーテ、アピタ、ピアゴなどのPPIH グループ店舗で販売中。また、7月14日までは期間限定で全国のドン・キホーテ19店舗にて大々的な売場展開を行っている。「鍋専用調味料」という62年間の固定観念を飛び越え、令和のライフスタイルへと寄り添い始めた『味ぽん』。
「皆さんに驚きや楽しさを提供できるような、ワクワクしてもらえるブランドであり続けたいです」と吉岡さん。老舗ミツカンが本気で仕掛けた“ギルティな味ぽん”が、今年の夏、日本中の食卓をどれだけヤミツキにしていくのか。国民的調味料の、これからの恐れ知らずな快進撃に注目していきたい。
(文:衣輪晋一)
2026/06/25