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現代人を動かすのは“怒り”?「マンガのWEB広告」に見る意外な利便性、電子コミックならではの“タイパ”効果も

 ネットやSNSで目的の記事やポストを見ていると、必ずといっていいほど目に入るWEB広告。特に最近目にする機会が多いのが、マンガや電子コミックサービス各社の広告だ。昨今は自分の興味関心に合ったターゲティング広告も増えてはいるものの、少々煩わしさを感じている人もいるかもしれない。なぜこれほどまでにマンガのWEB広告が増えているのか? ユーザーにとっての利便性は? そこからは現代人の感性の深層が見え隠れしていた。

よく見るマンガのWEB広告だけど…

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【漫画】まさに怒り沸騰!これは読んじゃう…斬新な復讐にスカッと


■テレビCMとは異なるWEB広告、コロナ禍を経て広告への投資が増加

 マンガのWEB広告が増えたのはいつ頃からなのか。総合電子書籍ストア・コミックシーモアによると、コロナ禍が大きく関係しているようだ。

 「巣ごもり需要から電子コミックを読む方が飛躍的に増え、売上と連動するように電子コミックサービス各社も広告予算を追加するようになりました。マンガのWEB広告を掲出する媒体が増えたのも、この時期です。実際、広告の効果も高かったため、さらに広告に投資するという流れがマンガのWEB広告が増えた背景にあったのではないかと考えられます」(コミックシーモア・多田知子さん)

 電子コミックプラットフォームの中にはテレビCMも打っているところもあるが、WEB広告とは目的も効果も異なるという。

 「テレビ広告の目的はマスに向けたブランド認知です。一方、WEB広告はマンガやエンタメに関心のある方に向けて、より作品にフォーカスした内容を意識しています。書影や作品紹介だけではわからない作品の魅力や読みどころをお伝えできるので、WEB広告のクリックから入ってこられた方はそのまま一気読みしてくださったり、他のマンガも読んでくださる傾向にありますね」(多田さん)

■雑誌という“枠”がなくなり…膨大な電子コミックは自力で探すよりも“タイパ”がいい

 ただ、昨今はWEB広告が増えすぎて、煩わしく感じている人もいるのではないか。

 「たしかに広告そのものが嫌だという方もいらっしゃるかもしれないですから、なるべく不快に思われない内容を検討しています。ただ効果が出ないと淘汰されるのが広告の世界ですから、近年はユーザーの属性や関心に合わせたターゲティング広告の仕組みを取る媒体が増えています。自分の趣味嗜好とズレのない広告が表示されるターゲティング広告は、ユーザーにとっても選択に費やす“タイパ”にも寄与できる部分があるのではないでしょうか」(多田さん)

 たしかに、かつてはマンガとの出会いも雑誌という“枠”が担っていたが、電子コミックは作品単位。電子書店やアプリは数多く、取扱われる電子コミックは何百万冊と膨大だ。それだけに、自力で好みに合ったマンガに辿り着くのは至難の業。無数のエンタメコンテンツが溢れた今、精緻にターゲティングされたWEB広告が、個別最適化されたおすすめ機能にもなっているといえるかもしれない。

 「作品がこれだけ増えた今、個々のユーザーに『読みたい』と思ってもらえるマンガをお届けするのもプラットフォームの役割であり、WEB広告はその手段の1つです。レビューでも、広告から無料で読み始めてハマり、最新刊を楽しみにしているといったコメントは多く、広告が作品を知っていただくきっかけになっているのを感じています」(同・山川慧太さん)

広告から人気になった『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス

広告から人気になった『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス

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 一見、ユーザーにとって“邪魔もの”と思われがちなWEB広告だが、実際は購読につながる“打率”は高いという。作品をプラットフォームに配給する側からも評価されており、大手出版社KADOKAWAからは「読者と作品との的確なマッチングに特に長けた電子書籍ストアは強い」との声もある。

 「当社の場合、WEB広告の制作で重視するのは、作品をとことん読み込んで魅力を掘り下げる“想い”の部分、そしてデータ分析ですね。WEB広告も複数パターンを掲出し、どのコマや要素を切り出したものが反応が良かったか、その反応も無料だけで離脱したのか、課金まで結びついたのかなどを多角的に分析し、その後の広告や作品自体の制作に還元しています」(山川さん)

 こうしたマンガへの想いとテクノロジーの両輪を回してきた結果、「広告と相性のいいジャンル」について、仮説が浮かび上がってきたという。

 「端的に言うと、“怒り”です。スワイプで流されてしまうWEB広告は一瞬で目を引き、行動(クリック)してもらえるかどうかが勝負。さまざまな感情の中でも怒りは最も沸点に達するのが早く、行動につながりやすいのかもしれません」(山川さん)

■広告ヒットも増加、「いじめ」「夫の不倫相手」が怒りの感情を揺さぶる

 実際、近年は“広告ヒット”と呼ばれ、広告から流入した読者が爆増し、売上を伸ばしている作品が生まれている。

 「当社のオリジナルコミックで、昨年の年間ランキング・青年マンガジャンル2位になった『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』にもその傾向が見えました。“敵キャラのいじめ描写と、それに対する斬新な復讐手法”という広告クリエイティブが、ユーザーの怒りの感情を揺さぶり、ヒットにつながったと考えています」(山川さん)

 また、同ランキング女性マンガ1位になった『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』も、広告クリエイティブの分析と改善で大ヒットに躍進した例だ。

 「本作は浮気した元夫と離婚して仕事に邁進していた主人公のもとに、元夫からやたらポエムチックなメール(=ロミオメール)が届いたことから始まる攻防戦。つまり敵キャラは元夫なので、当初は広告でも元夫のナルシストぶりや気持ち悪さをメインに掲出していました」(シーモアコミックス 第二編集部プロデューサー)

 広告の効果から30〜40代女性読者を中心に小ヒットを達成したものの、「もっと読んでいただける可能性がある作品だ」として、大胆な作品の続きの内容における刷新を行う。

 「過去のヒットデータから、女性に嫌われる女性像は読者の怒りの共感を呼びやすいことがわかっていました。そこで30〜40代女性が嫌う女性像を徹底リサーチ。SNSのほか、ネット掲示板も参考にして(笑)。そこで浮かび上がってきたのが、“小ズルく立ち回る若い女性”というキャラクターです。続刊からは元夫を寝とった上に、主人公の今カレも狙う女性の“活躍”を多めに盛り込みました。さらに広告でもその女性を敵キャラとしてメインに掲出したところ、売上が120倍まで伸長したんです」(シーモアコミックス 第二編集部プロデューサー)

広告を変更したことで好影響『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』(C) 結衣まどか/シーモアコミックス

広告を変更したことで好影響『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』(C) 結衣まどか/シーモアコミックス

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 このように、膨大に蓄積されたデータは広告のみならず、前述の『ロミオメール』のようにオリジナルコミック制作にも活用されている。

 「当社には8つのオリジナルレーベルがありますが、制作スタイルは大きく2タイプに分かれます。1つは作家と編集者が二人三脚で面白い作品を目指す従来型の編集部。もう1つは読者レビューも含むビッグデータを分析して作品に落とし込むマーケットイン型の編集部です。もちろん後者の編集部も作家の才能を生かすのが大前提ですが、そこに説得力のあるデータを掛け合わせることでヒットの精度を上げていくという制作スタイルを取っています」(山川さん)

 一般にマーケットイン型の商品開発は、同じようなモノが乱立してしまうデメリットがあるとされる。マンガも近年は“異世界”や“令嬢”といったジャンルの量産が指摘されるが──。

 「そこには僕らもとても慎重になっています。たしかに、キャラクター像やストーリー展開といった表面的なヒット要素ばかりなぞっていたら、同じような作品ばかりになってしまうかもしれません。データ分析で意識しているのは、もっと深層的な人間の心の動きを捉えることです。特定のジャンルに注力するのではなく、データで捉えた人間の感性の骨格の部分をさまざまなジャンルの作品に投入するという考え方ですね」(山川さん)

 しかし、人間の感性には数値化できない定性的な要素もたくさんある。

 「おっしゃる通り、定量的なデータばかり見ていたら視野が狭まる恐れもあります。だからこそ、従来型の作家・編集のクリエイティブな閃きを最重視したマンガの制作スタイルも大切にしています。プロダクトアウト型とマーケットイン型、2つのタイプの編集部が常に意見交換をしながら、読者に刺さるマンガ作りを目指せるのが強みだと考えています」(山川さん)

 現代的なデータ分析がなかった時代にも、感性を揺さぶる作品は読者の心を捉えてきた。その感性の深層がデータで見えるようになった今、多くのマンガジャンルで刺さる要素が“怒り”だというのは少々気になるが、マンガは時代の写し鏡。ヒットマンガには、現代人の感性の奥底が見え隠れしているのだ。

(文:児玉澄子)

関連写真

  • よく見るマンガのWEB広告だけど…
  • 広告から人気になった『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 広告を変更したことで好影響『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』(C) 結衣まどか/シーモアコミックス
  • 変更前の広告『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』(C) 結衣まどか/シーモアコミックス
  • 変更後の広告『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』(C) 結衣まどか/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス
  • 『レンタル・マーダー〜復讐のプロ、お貸しします〜』(C) 加藤屋大悟・どでんちゃん・八重樫ひのめ・チームでんがし屋/シーモアコミックス

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