33歳でこの世を去った金子正次さんの初映画・初主演作『竜二』（1983年）が、公開40周年を記念してきょう27日よりテアトル新宿、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都ほか、順次劇場公開される（以下、敬称略）。

【写真】その他の写真を見る

　金子は、1949年愛媛県津和地島生まれ。松山聖陵高校自動車科に通うも2年で中退。上京後、ディスコの呼び込みをしながら新宿をふらつく。72年、原宿学校（後の東京映像芸術学院）演技科に入学、卒業公演に飛び入り出演。74年には寺山修司、唐十郎と並ぶ旗手・内田栄一とともに劇団「東京ザットマン」を旗揚げ、20作品で主演、80年解散した。

　初執筆した映画脚本『チンピラ』は好評だったが、金子が主演のキャスティングは大手映画会社と折りあいがつかず、自主製作に。スターになることを夢見た金子は、映画学校時代の友人たちを巻きこんで、35ミリフィルム撮影、35ミリフィルムでのプリント上映の商業映画を作るという、前代未聞のプロジェクトを始動。82年、『竜二』のプロットを川島透に相談、2週間後には初稿を書きあげ、2ヶ月後に1000万円の資金調達を達成して、キャスティングを開始する。83年1月6日クランクイン、3月19日クランクアップ。

　友人の松田優作は出来上がった脚本を手に動き、萩原健一は楽曲の使用を快諾。プロデューサーの川島は監督不在となった現場を率い映画を仕上げ、出演した菊地健二は金子とともに配給会社を探して奔走した。

　同年10月29日に劇場公開され、金子は満席立ち見となった初日舞台あいさつを終えて帰宅した後、倒れて救急入院。11月6日未明、胃がん原発のがん性腹膜炎でなくなった。33歳だった。80年前後から83年までの3年間に5本の脚本を執筆、うち4本が映画化された。

　完成した映画『竜二』は、日本アカデミー、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール、報知映画賞など、83年度の映画賞を総なめにし、『竜二』以降、日本映画の潮流が変化し たといわれる作品となった。

　物語の舞台は、80年代の新宿・歌舞伎町界隈。山東会幹部として肩で風切り裏カジノで稼ぐ竜二は、妻と娘のためにヤクザ稼業から足を洗う。仕事を見つけ、毎月給料を妻に渡し、夜は娘と過ごす平穏な暮らし。しかし、不安を覚えはじめる。嫌だと感じた気持ちや心地よい思いに正直に歩きだすしかない…。

　公開当時、昔ながらの様式美あふれる任侠映画でもなく、『仁義なき戦い』シリーズのような実録モノでもない、派手な暴力描写が登場しない異色のヤクザ映画として話題となった。ヤクザにもカタギにもなりきれない竜二の焦燥と葛藤…大人になりきれない自分自身とリアルに向きあう青春群像映画である。

　映画史上に語りつがれるラストシーン、竜二（金子）とまり子（永島暎子）の無言の饒舌。風呂あがりの娘と3人で囲む夕食。ネオンがきらめく新宿を竜二とともに闊歩する2人の弟分、ひろし（北公次）と直（佐藤金造※桜金造）。欲望が渦巻く街でどうすることもできない現状の中であがく人々の人情が映しだされ、テーマ曲「ララバイ」（萩原健一）や挿入曲の「プレイ バックpart2」（山口百恵）、「氷雨」（日野美歌）、「どんぐりころころ」（唱歌）、「夕焼け雲」（千昌夫）、「君は心のふるさとよ」（千昌夫）、「矢切の渡し」（細川たかし）など、当時の音楽シーンを代表する名曲の数々が使用されているのも特徴だ。

★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」