今月23日から都内の日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区を会場に開催される「第36回東京国際映画祭」(11月1日まで)。3日に丸の内にある日本外国特派員協会で同映画祭チェアマンの安藤裕康氏、同プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、映画監督の城定秀夫氏が会見を開き、今回の目玉企画の一つである「小津安二郎生誕120年記念企画 SHOULDERS OF GIANTS」について語った。
今年は小津安二郎監督の生誕120年、没後60年にあたる。東京国際映画祭では、新たにデジタル修復した多くの作品を初公開するほか、国立映画アーカイブでの小津安二郎監督週間(10月24日〜29日)の貴重なフィルムでの上映と合わせて、ほぼ全作に近い35本が上映される。
また、今年のコンペティション部門の審査委員長を務めるヴィム・ヴェンダース(ドイツ)、黒沢清(日本)、ジャ・ジャンクー(中国)、ケリー・ライカート(アメリカ)ら国内外の映画監督が参加する国際シンポジウムも実施。
改めて小津作品に光をあて、私たちが小津監督から何を学び、どう未来につなげてゆくべきかをグローバルな視点で考えよう、というのが企画の趣旨だ。「SHOULDERS OF GIANTS」は、「小津という偉大な監督の肩にのって、映画の未来をみてみよう」という思いが込められている。
安藤チェアマンは、鎌倉(神奈川)にある同監督のお墓にお参りするほど小津監督を尊敬しているといい、「今年は日本映画界として盛大にお祝いしたいと考えている」と並々ならぬ意気込みを語った。
コンペティション部門審査委員長をヴィム・ヴェンダース監督にした理由も、“海外で最も小津安二郎を尊敬している監督”として白羽の矢を立て、昨年来日した際に直接依頼をしたところ、その場でOKをもらったという。「小津監督の天国からの指図ではないか」と使命感に燃えている。
また、山田洋次監督が「ずっと長い間、小津の映画は面白くないと思っていたが、最近になって、素晴らしさに改めて感銘を受けた」と話していたことも披露。その後、『父ありき』(1942年)のサイレントフィルムのリマスターを一緒に鑑賞した際、「本当にすごいね。小津さんの作品のすべてがここにある」と感銘を受けていたことを伝えた。
安藤チェアマンは、「小津作品には『日本人の原点』があると思っています。もっと言えば、日本人だけではなく、世界のユニバーサルな人間の原点があると思っています。人間として素晴らしい作品を制作しているからこそ、ヴェンダース監督も小津監督のことを世界に広げたいと思っているのだと考えます」と、小津作品を上映することの重要性を語っていた。
■東京国際映画祭上映作品について
市山プログラミング・ディレクターは「私の初めての小津体験は、大学の時に観た『秋日和』(1960年)です。感動したではなく、異常な体験をしたという記憶があります。ストーリーはテレビドラマでやっているようなありがちな話でしたが、宇宙人が会話しているような異常なスタイルに衝撃を受けました。せりふの言い回しや構図の撮り方など、とにかく異常なものをみたという印象がありました」とエピソードを披露。
「小津監督の映画は、観た人のこれまでの映画の体験や人生の体験によって色んな見方のできる映画であると思います。また、いろいろな余白があるので、観た人のその時の体験によって感じ方が変わってくる映画であるとも思います。だからこそ、今回上映することで、新たな発見をしてほしい」と語った。
今回の上映作品(下段にリストあり)の中では、最近になってきちんとした映像が発見された2作品を特に推す。1つ目は『父ありき』で、「長らく音声が悪く不完全なプリントしかありませんでしたが、ロシアで保存状態のいいものが発見されたことで、それを最新の技術で復元したものを上映することができることになりました」。
2つ目は、『突貫小僧』(1929年)で、製作会社の松竹に原版が残っていなかったのだが、家庭用に販売されていたものが30年前に発見されたことをきっかけに、その後もいろいろなバージョンが発見されている。今回は『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(新たにフィルムが見つかったロングバージョン)を声優としても活躍している山崎バニラの活弁付きで上映する。
■初期のサイレント映画をリメイクするオムニバスドラマ企画
小津監督の初期のサイレント映画6作品を現代の映画監督6人がリメイクするWOWOWの番組『連続ドラマW OZU 〜小津安二郎が描いた世界〜』の3話分をTIFFシリーズ部門で上映。『生れてはみたけれど』(監督:吉田康弘)、『非常線の女』(監督:松本優作)、『出來ごころ』(監督:城定秀夫)の3作。
城定監督は「サイレントの小津安二郎は、まだ、いまの小津安二郎の作品ではなく、いろんなジャンルの作品をとっており、スタイルのない状態だと思っていました。一般的な小津安二郎作品ではない作品をリメイクすることで悩みましたが、『出来ごころ』に登場する喜八というキャラクターは、寅さんの原型になったとも言われており、現代にもいるであろうキャラクターで普遍的だと感じたこともあり、それを物語にできないかと考えアプローチしました。私が、小津さんから間接的に影響を受けていることは、古典的な撮影方法を取ることだと思います」と語っていた。
ドラマ『出來ごころ』の主人公・喜八役を演じるのは、城定監督と『女子高生に殺されたい』以来のタッグを組む、田中圭。妻と別れ、息子の富夫と二人で暮らしながらも、酒や博打に夢中になってしまうダメ親父を演じる。喜八の相棒で同じ工場に勤める次郎役は渡邊圭祐、次郎に想いを寄せる春江役は白石聖、喜八の息子・富夫役は森優理斗、喜八たち工員が通う食堂の店主・おとめ役は渡辺真起子がそれぞれ演じる。
【東京国際映画祭上映作品】
『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(1929年)
『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932年★WP)
『非常線の女』(1933年★) ※世界的なトランペッター黒田卓也による生演奏付き上映
『菊五郎の鏡獅子』(1936年、★WP)
『父ありき』(1942年★)
『長屋紳士録』(1947年★)
『風の中の牝鶏』(1948年)※鶏=正しくは旧字体
『晩春』(1949年)
『宗方姉妹』(1950年)
『麥秋』(1951年)
『東京物語』(1953年)
『東京暮色』(1957年)
『彼岸花』(1958年)
『お早よう』(1959年)
『浮草』(1959年)
『秋日和』(1960年)
『小早川家の秋』(1961年★)
『秋刀魚の味』(1962年)
※★は4Kデジタル修復版
※WPは4Kデジタル修復版としてのワールド・プレミア上映
【国立映画アーカイブ「小津安二郎監督週間」上映作品】
『学生ロマンス・若き日』(1929年)
『大学は出たけれど』(1929年)
『東京の女』(1930年)
『淑女と髯』(1931年)
『突貫小僧 パテベビー短縮版』(1929年)
『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(1929年)
『朗らかに歩め』(1930年)
『その夜の妻』(1930年)
『東京の合唱』(1931年)
『青春の夢いまいづこ』(1932年)
『出來ごころ』(1933年)
『母を恋はずや』(1934年)
『浮草物語』(1934年)
『東京の宿』(1935年)
『一人息子』(1936年)
『淑女は何を忘れたか』(1937年)
『戸田家の兄妹』(1941年)
■第36回東京国際映画祭 開催概要
開催期間:2023年10月23日(月)〜11月1日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net
■TIFFCOM2023 開催概要
開催期間:2023年 10 月25 日(水)〜27 日(金)
会場:東京都立産業貿易センター浜松町館
公式サイト:www.tiffcom.jp
今年は小津安二郎監督の生誕120年、没後60年にあたる。東京国際映画祭では、新たにデジタル修復した多くの作品を初公開するほか、国立映画アーカイブでの小津安二郎監督週間(10月24日〜29日)の貴重なフィルムでの上映と合わせて、ほぼ全作に近い35本が上映される。
また、今年のコンペティション部門の審査委員長を務めるヴィム・ヴェンダース(ドイツ)、黒沢清(日本)、ジャ・ジャンクー(中国)、ケリー・ライカート(アメリカ)ら国内外の映画監督が参加する国際シンポジウムも実施。
改めて小津作品に光をあて、私たちが小津監督から何を学び、どう未来につなげてゆくべきかをグローバルな視点で考えよう、というのが企画の趣旨だ。「SHOULDERS OF GIANTS」は、「小津という偉大な監督の肩にのって、映画の未来をみてみよう」という思いが込められている。
安藤チェアマンは、鎌倉(神奈川)にある同監督のお墓にお参りするほど小津監督を尊敬しているといい、「今年は日本映画界として盛大にお祝いしたいと考えている」と並々ならぬ意気込みを語った。
コンペティション部門審査委員長をヴィム・ヴェンダース監督にした理由も、“海外で最も小津安二郎を尊敬している監督”として白羽の矢を立て、昨年来日した際に直接依頼をしたところ、その場でOKをもらったという。「小津監督の天国からの指図ではないか」と使命感に燃えている。
また、山田洋次監督が「ずっと長い間、小津の映画は面白くないと思っていたが、最近になって、素晴らしさに改めて感銘を受けた」と話していたことも披露。その後、『父ありき』(1942年)のサイレントフィルムのリマスターを一緒に鑑賞した際、「本当にすごいね。小津さんの作品のすべてがここにある」と感銘を受けていたことを伝えた。
安藤チェアマンは、「小津作品には『日本人の原点』があると思っています。もっと言えば、日本人だけではなく、世界のユニバーサルな人間の原点があると思っています。人間として素晴らしい作品を制作しているからこそ、ヴェンダース監督も小津監督のことを世界に広げたいと思っているのだと考えます」と、小津作品を上映することの重要性を語っていた。
■東京国際映画祭上映作品について
市山プログラミング・ディレクターは「私の初めての小津体験は、大学の時に観た『秋日和』(1960年)です。感動したではなく、異常な体験をしたという記憶があります。ストーリーはテレビドラマでやっているようなありがちな話でしたが、宇宙人が会話しているような異常なスタイルに衝撃を受けました。せりふの言い回しや構図の撮り方など、とにかく異常なものをみたという印象がありました」とエピソードを披露。
「小津監督の映画は、観た人のこれまでの映画の体験や人生の体験によって色んな見方のできる映画であると思います。また、いろいろな余白があるので、観た人のその時の体験によって感じ方が変わってくる映画であるとも思います。だからこそ、今回上映することで、新たな発見をしてほしい」と語った。
今回の上映作品(下段にリストあり)の中では、最近になってきちんとした映像が発見された2作品を特に推す。1つ目は『父ありき』で、「長らく音声が悪く不完全なプリントしかありませんでしたが、ロシアで保存状態のいいものが発見されたことで、それを最新の技術で復元したものを上映することができることになりました」。
2つ目は、『突貫小僧』(1929年)で、製作会社の松竹に原版が残っていなかったのだが、家庭用に販売されていたものが30年前に発見されたことをきっかけに、その後もいろいろなバージョンが発見されている。今回は『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(新たにフィルムが見つかったロングバージョン)を声優としても活躍している山崎バニラの活弁付きで上映する。
■初期のサイレント映画をリメイクするオムニバスドラマ企画
小津監督の初期のサイレント映画6作品を現代の映画監督6人がリメイクするWOWOWの番組『連続ドラマW OZU 〜小津安二郎が描いた世界〜』の3話分をTIFFシリーズ部門で上映。『生れてはみたけれど』(監督:吉田康弘)、『非常線の女』(監督:松本優作)、『出來ごころ』(監督:城定秀夫)の3作。
城定監督は「サイレントの小津安二郎は、まだ、いまの小津安二郎の作品ではなく、いろんなジャンルの作品をとっており、スタイルのない状態だと思っていました。一般的な小津安二郎作品ではない作品をリメイクすることで悩みましたが、『出来ごころ』に登場する喜八というキャラクターは、寅さんの原型になったとも言われており、現代にもいるであろうキャラクターで普遍的だと感じたこともあり、それを物語にできないかと考えアプローチしました。私が、小津さんから間接的に影響を受けていることは、古典的な撮影方法を取ることだと思います」と語っていた。
ドラマ『出來ごころ』の主人公・喜八役を演じるのは、城定監督と『女子高生に殺されたい』以来のタッグを組む、田中圭。妻と別れ、息子の富夫と二人で暮らしながらも、酒や博打に夢中になってしまうダメ親父を演じる。喜八の相棒で同じ工場に勤める次郎役は渡邊圭祐、次郎に想いを寄せる春江役は白石聖、喜八の息子・富夫役は森優理斗、喜八たち工員が通う食堂の店主・おとめ役は渡辺真起子がそれぞれ演じる。
【東京国際映画祭上映作品】
『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(1929年)
『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932年★WP)
『非常線の女』(1933年★) ※世界的なトランペッター黒田卓也による生演奏付き上映
『菊五郎の鏡獅子』(1936年、★WP)
『父ありき』(1942年★)
『長屋紳士録』(1947年★)
『風の中の牝鶏』(1948年)※鶏=正しくは旧字体
『晩春』(1949年)
『宗方姉妹』(1950年)
『麥秋』(1951年)
『東京物語』(1953年)
『東京暮色』(1957年)
『彼岸花』(1958年)
『お早よう』(1959年)
『浮草』(1959年)
『秋日和』(1960年)
『小早川家の秋』(1961年★)
『秋刀魚の味』(1962年)
※★は4Kデジタル修復版
※WPは4Kデジタル修復版としてのワールド・プレミア上映
【国立映画アーカイブ「小津安二郎監督週間」上映作品】
『学生ロマンス・若き日』(1929年)
『大学は出たけれど』(1929年)
『東京の女』(1930年)
『淑女と髯』(1931年)
『突貫小僧 パテベビー短縮版』(1929年)
『突貫小僧 マーヴェルグラフ版』(1929年)
『朗らかに歩め』(1930年)
『その夜の妻』(1930年)
『東京の合唱』(1931年)
『青春の夢いまいづこ』(1932年)
『出來ごころ』(1933年)
『母を恋はずや』(1934年)
『浮草物語』(1934年)
『東京の宿』(1935年)
『一人息子』(1936年)
『淑女は何を忘れたか』(1937年)
『戸田家の兄妹』(1941年)
■第36回東京国際映画祭 開催概要
開催期間:2023年10月23日(月)〜11月1日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net
■TIFFCOM2023 開催概要
開催期間:2023年 10 月25 日(水)〜27 日(金)
会場:東京都立産業貿易センター浜松町館
公式サイト:www.tiffcom.jp
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2023/10/04