ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

片渕須直監督「おぼろげな輪郭が見えてきた」最新作『つるばみ色のなぎ子たち』京まふレポート

 『この世界の片隅に』(2016年)、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(19年)に続く新作『つるばみ色のなぎ子たち』を現在鋭意制作中の片渕須直監督が16日、京都市内で行われた「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)2023」のステージイベントに登壇。新作の「パイロット映像」を初公開し、「おぼろげな輪郭が見えてきた」などと語ったイベントの概況を紹介する。

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』を語る

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』を語る

写真ページを見る

【写真】その他の写真を見る


 イベントでは、登壇した監督から最初に、パイロット映像の公開に先駆け、これまでの作品について語られた。

 「最初に作った映画が『アリーテ姫』(2001年)という作品で、構想から公開までで8年かかりました。次の『マイマイ新子と千年の魔法』は2009年に公開されたのですが、そのあとの『この世界の片隅に』もそこから7年かかっています。『つるばみ色のなぎ子たち』も2017年から構想を始めていてすでに6年かけています。6年たってようやくこれだけの長さ(3分35秒)の映像ができました」

 今年5月にタイトルが発表された『つるばみ色のなぎ子たち』は、枕草子が書かれた千年前の京都を舞台に、清少納言が生きた時代を描く映画。片渕監督の徹底的な研究と調査と綿密な分析によって制作が進められているが、いまだ多くがベールに包まれており、これまでキーワードやヒントのようなものだけが時折公開されるだけだった。もちろん公開時期未定の作品だが、同イベント内で発売されたグッズが完売するなど、大きな期待が寄せられているのは間違いない。

 「映画の全貌はまだ見えてきません。けれど、これから公開される3分30秒ほどの映像の中に、皆さんが新しいものをくみ取っていただけるとありがたいと思っています」 と片渕監督。

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

写真ページを見る

 パイロット映像が初公開されると、観客から自然と拍手が起こった。

 「6年前からやっていたものが、ようやくこれだけの長さのものができて、皆さんにご覧いただけたというのは、とても感慨深いものがあります。この映画の舞台は京都なので、この京まふでその機会が得られたことを本当ありがたいなと思っています」と、最初に映像を見た人々表情を感慨深く眺めながら、この機会が得られたことの喜びを、少し安堵した様子で語った。

 「『マイマイ新子と千年の魔法』という作品には、なぎ子ちゃんという女の子が出てくるのですが、この女の子はこの作品の舞台・山口県防府市に住んでいた8歳の清少納言として描いています。その女の子が大人になった時の世の中ってどうなっていたのだろうと思ったことがこの映画を作った最初のきっかけです」

■パンデミックという現代の情勢との関連性

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

写真ページを見る

 長年の思いが一つになって制作されている『つるばみ色のなぎ子たち』。その制作を支えるメインスタッフについても監督より改めて紹介された。

 「もちろん、自分ひとりの力ではなくて、作画監督の安藤雅司さん、監督補の浦谷千恵さんの力がなければここまでたどり着くことはできませんでした。そして、美術監督として新しく金子雄司さんにご参加いただいています。前に水谷利春さんにお願いをしていたのですが、作品の制作期間が長くなってしまっていることもあり、若い金子雄司さんにバトンタッチをしました」

 金子雄司氏は、『アイの歌声を聞かせて』や『ジョゼと虎と魚たち』などの作品で活躍している美術監督。そのこだわりは、手描きによって背景を描くことにあるという。

 「金子さんは、アニメーションが今までやってきた筆で絵を描いてきた道のりを残したいとおっしゃってくださっていて、この作品にもその技術を残して画面を作ってくださっています」

 さらに、会場には音楽を担当する千住明氏の姿も。片渕監督が紹介すると、観客より拍手が送られた。

 「千住さんとは、ずいぶん前から千年前の雅楽についての楽器や音について、勉強会などを開かせていただいていました。その要素がこれから作品の中で実現していくのだろうなと期待しています」

 そして、改めて、観客の表情を見て片渕監督は次のように語り掛けた。

 「どうでしたでしょうか?皆さんの予想通りだったでしょうか?この映像の中で皆さんが何を見つけていただけたでしょうか?たくさん子どもたちも出てきたし、倒れた人も描かれていました。前作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を制作していたあたりで世の中がコロナで大変なことになっていきました。この映画を志した2017年にはまだそんなことは全くなかったのですが、たまたま世の中のほうがこのようなパンデミックになってしまいました。自分たちがこの作品を作る意味みたいなものが新たにのしかかってきています」

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

写真ページを見る

 パンデミックという現代の情勢と『つるばみ色のなぎ子たち』の関連性。この作品の舞台となる千年前の京都は、教科書のようなのどかな雰囲気ではなく、感染症などをはじめとした多くの理由で多くの人が死に絶える時代だったという。

 「清少納言が描いた『枕草子』を、もう一度新しい自分たち独自の視点から読んでみると『その時私たちは色のない服を着ていた』という描写があります。色がないというのはティザービジュアルに描いた服のことです。(千年前は)色とりどりの十二単だけではなくて、色がない喪服を着ていた時代だったわけです。つるばみ色というのは喪服の色だったりします。びっくりするぐらいたくさんの人が亡くなっていて。近しい人がなくなると喪服を着る。やっと喪服を脱いで色のついた服が着れると思ったら、また誰かが亡くなって喪服を着る。そんな世界の中で、大人になったなぎ子ちゃんは『私たちは打ちひしがれてない』とおそらく枕草子に書いていたのではないかと思ったりしています。自分たちもその気持ちに励まされたりしています。とはいえ、それだけがすべての映画ではないということだけは、今、お伝えしておきたいです。おそらく完成はまだ数年先になるとは思うのですが、折に触れていろいろまた別のものをお見せしていけたらなと思っています」

■現実を見つけ出してアニメーションを描く楽しみ

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

写真ページを見る

 また本作制作にあたり、さまざまなことを一から徹底的に調べ直している片渕監督は「千年前は本当にわからないことだらけです」と語りながらも、それが分かったときや、映像にアウトプットできた時の達成感にうれしさを感じるという。

 「『この世界の片隅に』は、昭和の時代で70〜80年前なので写真もあり調べることができましたが、千年前には写真がありません。実は絵巻物もなく、それが描かれるのはこの映画の200年後なんです。どんな服を着ていたのだろう。どんな風に彼女たちは生きていたのだろう。少しずつ調べて、積み重ねて出来上がったのが今回の映像です」

 映像の中についても少しだけ触れた。

 「平安時代の地面をここまで描いたのは初めてのことなのではないかと思っています。土だけではなくて石が撒かれていて、半分地面に埋まっていて。そしてかつて京都は沼地だったため、そこからまだ水が抜けきっておらず、びしょびしょなところがたくさんあったんです。そこを牛車で走ると轍(わだち)ができるわけです。その轍がここ数十年で発掘されて、それで牛車の車輪の幅がわかりました。160センチ幅の牛車に4人の人が乗っていることがわかると、それは軽乗用車と同じ大きさで…。エンジンは牛だけど4人乗りだし一緒だなぁと思って。牛車のスピードも、うちの新人から育った若いアニメーターが計算して時速を出して、そうしてシーンを描いていて。そういったことをちょっとずつちょっとずつ、千年前はこうだったんだと確かめながら、画面を作ってきています。それは、それが自分たちの想像で描くよりもずっと楽しくて。想像の力をこらして画面を作ることは楽しくてアニメーションの醍醐味ではあるけれど、現実を見つけ出して画面にする。そうした作り方もあるわけです。その中で動いている牛車もあれば、歩いている人も描く想像で描かず、自分たちで一つ一つ丁寧に確かめたものを持ち寄って、映画を作る」

 片渕監督の、そしてスタッフのこだわりの一面が垣間見える話に観客は熱心に耳を傾けていた。さらに、「子ども」という要素にも言及。

 「たくさんの子どもたちが画面に映し出されました。英語のタイトルは、日本語に訳すと『喪に服す子どもたち』という意味になりますが、関係あるのかどうか…。千住明さんは、楽曲にわらべ歌のニュアンスを入れてくださっています。あの時代の子どもたちがどんな風に生きたのか。当時のものから見つけ出して映画として描いていこうと考えております。少しつらい予感もしているけれど、そういうものも全部携えて、映画の完成までの道のりを歩いていきたいなと思います」

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット

写真ページを見る

 雅やかさからかけ離れた千年の京都の風景に子どもという要素。まだまだほかにも、映画の全容に至るヒントがパイロット映像の中にありそうだ。

 「映画作る人というのは少し変わっていて、特にアニメーションを作る自分は、すでに自分の中でもう映画はできているんです。それを順番に絵にするから、時間がかかって多くの人の力を借りて、画面にしていかなければならないのですが、自分の中ではこういう映画になるというのがもうできている。それをいつか皆さんと一緒に、大きな映画館で、響き渡る音とともに味わえたらなと思います。それが今、この最初のパイロットフィルムに抱く思いです。まだまだ時間はかかりますが、これからも皆さんと一緒に歩んでいけたらと思いますので、よろしくお願いします」

 応援ではなく一緒に歩んでほしいと、本ステージの多くの場面で語った片渕監督。『つるばみ色のなぎ子たち』は、MAPPA関連会社・コントレールで新人育成もあわせて制作されている。ベテランと新人をはじめとしたスタッフ、そして、観客も含めて一緒に千年前に向かうその旅路に期待が膨らむ。

YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」

>このニュースの流れをチェック

  1. 1. 『この世界の片隅に』片渕須直監督の新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像が初解禁
  2. 2. 片渕須直監督「おぼろげな輪郭が見えてきた」最新作『つるばみ色のなぎ子たち』京まふレポート

関連写真

  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』を語る
  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット
  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット
  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット
  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット
  • 片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』パイロット映像の場面カット
  • 『つるばみ色のなぎ子たち』キービジュアル

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

>

メニューを閉じる

 を検索