日本映画で初めて海上自衛隊・潜水艦部隊の協力を得て撮影した実物の潜水艦と、日本屈指のVFX技術を融合させ、かわぐちかいじによる不朽の名作漫画を実写映画化した『沈黙の艦隊』（9月29日公開）に出演する俳優の大沢たかおと玉木宏が先日、広島県の呉にある海上自衛隊呉資料館＜てつのくじら館＞にてトークイベントを実施した。大沢は会場に集まった50人の海上自衛隊員を前に、「皆さんも制作者のひとりと思って」と、感謝の気持ちを伝えた。

【写真】その他の写真を見る

　潜水艦の町とも呼ばれる広島県呉市にある海上自衛隊呉資料館「てつのくじら館」に展示されている潜水艦＜あきしお＞の非公開エリアで撮影を行っていた本作。また、主演の大沢は役づくりの一環で、本編撮影前に広島県・江田島にある幹部候補生学校を訪れており、候補生との交流や所作指導を受けた。

　さまざまな形で撮影に協力した海上自衛隊に対し、映画の完成報告と感謝を伝えるため、大沢と玉木の訪問が実現した。てつのくじら館では、海上自衛隊呉地方総監 海将・二川達也氏、第1潜水隊群司令 1等海佐植田康照氏の案内の元、館内の展示を見学し、潜水艦の歴史や構造などの説明を受け、知識を深めた。さらに、＜あきしお＞の中を見学し、その狭さや機能に触れ、潜望鏡などを覗き込むなどして、改めて“潜水艦”を体感した。

　見学後は自衛官50人が集まる会場にてトークイベントを実施。凛々しい姿で2人を待ち構えていた自衛官たちを前に、大沢は「本日ようやく直接ごあいさあつに伺えてうれしく思いますし、楽しみにしておりました。このような場では黄色い声援をいただくことが多いのですが、今日はそれが全くなく、『来る場所を間違えてしまったのかなぁ…』と思いましたが（笑）、皆さんの凛々しい姿を見て納得しました」、玉木も「本日お越しいただいた皆さんの中には原作を読んでいない方はいらっしゃらないですよね（笑）」などと和やかな雰囲気の中でスタート。

　所作指導や撮影協力時のエピソードを振り返り、「江田島の幹部候補生学校で、みなさんの起床時刻の6時から生活の様子を見学させていただきました。何故か途中から僕の制服があって、訓練に参加することになって（笑）。あの場で制服を着てみなさんと敬礼をしたり、時間を共にしたことで、海江田の役作りの核をつかめたのでとても感謝しています」（大沢）、「僕は今回は横須賀の基地のほうで潜水艦の中に入って、各役割によってどのような所作をするのかという部分を指導いただいて、艦長としての対応などを伺いました」（玉木）と語った。

　また自衛隊の習慣にならい、撮影現場では毎週金曜日にカレーを食べていたこと明かし、「皆さんと同じように自分たちも毎週金曜日にカレーを食べることで気分を味わいながら、役に没頭できることができました」と本作ならではのエピソードも飛び出した。会場内には完成披露イベントに出席し、すでに本編を観賞した自衛官もおり、感想を問われると「最高です！」と力強く回答。大沢と玉木もどこか安心したような笑みを浮かべていた。

　会場の自衛官とのQ＆Aも実施。今年の春先まで呉の潜水艦で副長をしていた自衛官から「発令所は作戦の中枢になるため特別ですし、身の引き締まる空間だと思います。映画の中でも精巧な発令所のセットで撮影されていていかがでしたか？」と質問があり、大沢は「美術さんが実物は中々見ることが出来ない中、ネットやさまざまな情報を集めてセットを作ってくださって。さらに現場にはずっと自衛官の方に居ていただきご意見を伺いながら撮影ができたので、架空のものではあるものの皆さんのお墨付きがいただけるレベルのものを作り上げられたのではないかと思います。以前、呉で艦長をなさっていた方とお話した際、艦長は厳しい存在なのかと思っていたら、やはり狭い空間で長期間一緒に過ごすので、不安にさせないようになるべく表情に出さず、家族のように過ごすとおっしゃっていました。ただ僕は自衛隊の皆さんを裏切って逃亡する役なので…（笑）。理想的な艦長は玉木くんに任せました」と回答。

　これを受け、玉木は「今作の中では海江田と深町の対比が重要だと思っていました。艦長はいかなる状況であれ焦りや不安を見せてはいけない存在だと思いますが、作品の中では海江田が“静”の存在でそれに対比する深町は“動”の存在でありたいなと思い、発令所の中では動き回って、隊員に寄り添うことを意識して演じていました。疑似的な潜水艦の空間で撮影するだけでも中々厳しい環境だと感じたので、実際に海に出られる方々は相当な覚悟を持っていると感じました」と話した。

　また「役作りへの向き合い方やモットーを教えていただきたい」という問いに、「お客様の前に立つ時は日常を感じさせてないほうが良い存在だと思っているので、その部分は気を付けていますし、どんな役でもこなせるように普段からフラットな状態を保てるように意識しています」（玉木）、「今回はメリハリが必要だと思っていたので、みんなに前では冷静にあって、控室に戻ったら素に戻るということはやっていました。潜水艦を見学させていただいた時に艦内がとてもキレイなことに驚いて、お話を伺ったら『水の一滴が事故の一滴であり、起こりうることではあるから完璧にしている』とおっしゃっていて。これは自分の生活から変えないと演じることは難しいかなと思い、皆さんが日常的にやっていることを最低限ではありますが撮影の前後は自分も持ち込んで行っていました」（大沢）と熱い想いを語り合った。

　最後に大沢から「映画はさまざまな手法で撮影がされていますが、実際に潜水艦にカメラをつけて撮影するなど世界に先駆けて行えたことは本当に感謝しております。この作品は僕らの映画というよりも皆さんと一緒に作った作品だと思っております。是非皆さんも制作者のひとりと思って観ていただけるとより楽しんでいただけると思います。本当にありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えて、イベントを締めくくった。