俳優の広瀬すずが主演する映画『水は海に向かって流れる』（公開中）は、2021年に映像化もされた『子供はわかってあげない』で漫画賞を総ナメにした田島列島の同名漫画が原作。柔らかな画のタッチと親しみやすいキャラクターたちとその会話、センスのある言葉選びとギャグ、そして、心に刺さるさりげないひと言のバランスが絶妙で、少し重めな題材でもスッと物語が入ってくる。

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　本作は、過去のある出来事から「恋愛はしない」と宣言する26歳のOL・榊さん（広瀬）と、そんな榊さんに淡い想いを寄せる高校生の直達（大西利空）を中心に、クセ者ぞろいのシェアハウスの賑やかな日常を描いたもの。

　リアリティある人々の姿や心情をすくいとる表現の数々は、広瀬をはじめとする存在感のあるキャスト陣から発せられることで、さらに説得力が増す。田島列島作品の魅力でもあるユニークで心に刺さるせりふの数々を紹介する。

■「自分の恋愛がうまくいかないのを他人のせいにする女にはなるな」

　榊さんが「恋愛しない」宣言をしたあと、直達も「俺も恋愛しないことにした」と相談に乗ってもらっていた同級生の楓（當真あみ）に告げ、それを聞いた楓は思わず部活の練習を飛び出し榊さんのいるシェアハウスに走って向かい、「撤回してください！」と伝えに行ったときに榊さんが楓に返すせりふだ。恋に悩む楓が、榊さんが恋愛しないなんて言わなければ…と感情をぶつけるのだが、榊さんが放つこのせりふに何も言い返せないほど、榊さんの達観した態度が言葉に説得力を与えている。

■「他人に訊かなきゃわかんない恋なら諦めろ！」

　恋に悩む楓が、「占ってよ！　恋愛運」「直達くんと榊さん」と、女装占い師の兄（戸塚純貴）にふたりの恋愛運を占ってほしいと仕事場まで頼みに行ったときに言われるせりふだ。本作でも劇中では気さくで明るい性格のキャラクターを演じている戸塚が放つ核心をつくようなせりふにはハッとさせられる人が少なくはないだろう。ただ冷たく言い放っているのではなく、妹のことを想う優しさも感じられる。このあとの兄妹らしい会話でクスっと笑えるところも田島列島らしさだ。

■「ご理解いただけたか、このハート泥棒！」

　直達に恋する楓が直達と一緒に音楽室でお昼を食べているシーンで、あまりにも恋に鈍感な直達に胸の内を明かしたあと放つせりふ。“これぞ田島列島節“と感じる人が多いと思われるせりふのひとつだ。いわゆる告白のシーンだが田島列島が選ぶ言葉のセンスを感じるせりふ。ただ「好き」と伝えるだけではなく、「ハート泥棒」というせりふが印象的で、田島列島作品に初めて触れる人でも「これが田島列島なのか」とすぐに田島列島ワールドに引き込まれるはずだ。