ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

テレビは「人気番組」の基準がない“指標なき時代”へ 情報過多なドラマ『unknown』の挑戦とは

 俳優の高畑充希田中圭がW主演を務める、現在放送中のテレビ朝日系ドラマ『unknown』(毎週火曜 後9:00)。同作は放送前から、高畑演じる闇原こころが“吸血鬼”であることも明かされ、『おっさんずラブ』のスタッフ・キャストが集結することなどで話題を集めていたが、こうしたいわゆる「情報過多」なドラマが制作されるに至った理由について、メディア文化評論家の碓井広義氏は「『指標なき時代』における果敢な挑戦」と分析する。

テレビ朝日系で放送中のドラマ『unknown』

テレビ朝日系で放送中のドラマ『unknown』

写真ページを見る

 同作は、それぞれ決して言えない重大な秘密を抱え、なかなか結婚に踏み切ることができずにいる2人が暮らす町で、凄惨な連続殺人事件が発生し、その事件の裏に2人の暗い秘密まで交錯していく壮大なラブ・サスペンス。

 放送前から「一体、どんなドラマなんだろう?」と期待度ランキングでも上位に選ばれるなど話題になった同作。碓井氏は「このドラマの設定を知った時は、かなりびっくりしました。何しろ高畑充希さんが「吸血鬼」なんですから。しかも吸血鬼なのに人間を襲って血を吸ったりせず、通販サイトで血を購入している(笑)」と驚いたと言い、「なぜ今、吸血鬼なのか。この斬新な仕掛けの背後に何があるんだろうと、大いに興味を引かれた」と疑問も浮かんだという。

 ドラマが放送されると、「このドラマにおける“吸血鬼”は、一種の『メタファー(隠喩)』なのではないでしょうか」と分析。「誰でも、未知なるもの(unknown)に遭遇すると身構えてしまうことが多いですよね。それはヒトに対しても同様です。たとえば人種、国籍、宗教、信条が異なる人たちや、LGBTQの人たちと出会った際、過剰に反応したり、時には誤解してしまう人は少なくない」と言い、第2話でこころの母・伊織(麻生久美子)が虎松に向かって言ったセリフに注目。

 【伊織】「世の中は、まだまだ自分の知らないことで溢れてるじゃない?それを怖れて、嫌って、排除しようとするのか。歩み寄って知ろうとするのか。虎ちゃんはどっちの人?」。

 このせりふに碓井氏は「自分が『知らないもの』、自分とは『異なるもの』、そこから生まれる『差別』や『偏見』も含めての象徴が吸血鬼なのでしょう」と考えた。

 そして第4話では、こころが両親に「虎ちゃんは、吸血鬼の私のことを受け入れ、愛してくれたんだよ!」と告げる場面も。碓井氏は「受け入れること。そして、愛すること。それは、このドラマのテーマにつながっています。より多様性が求められている時代、この吸血鬼という大胆なメタファーがどこまで物語を深化させるのか、注視していくつもりです。ですから、もしも、このドラマを単なる“吸血鬼モノ”だと思って見ていない人がいたら、『それはモッタイナイですよ』と言いたいですね」と語る。

 同作は、W主演の高畑と田中をはじめとして、“ラブ”、“コメディー”、“サスペンス”と幅広い演技を披露している。一見コメディータッチのラブファンタジーかと思いきや、サスペンスの要素もしっかり投入されたこのドラマを支えているのは、主演2人が見せてくれる、シリアスとコメディーの絶妙なバランス。

 「そのバランスの良さと高畑・田中コンビの軽妙なやりとり、こころの父を演じる吉田鋼太郎さんの怪演(笑)、いや快演が楽しくて、ついクセになりそうです。このドラマは、田中圭さんや吉田鋼太郎さんなどの出演者をはじめ、貴島P、瑠東監督、脚本の徳尾浩司さんなど『おっさんずラブ』のチームが制作しているわけですが、視聴者をとことん楽しませようという“エンタメ熱”が画面から伝わってきます。さらに、井浦新さん、千葉雄大さん、志尊淳さんといった豪華な『カメオ友情出演』があります。この贅沢な投入の仕方が、ドラマの楽しさを倍加させているのです」(碓井氏)

 碓井氏によると、カメオ友情出演に関しては韓国が“先進国”なのだそう。「『エンタメ界をみんなで盛り上げよう』という意識が、俳優さんたちに共有されているからです。日本においても、『unknown』がそんな気運を醸成する、けん引役になるかもしれません」と語る。

 昨年10月期の『silent』をはじめ、配信やSNSで大きく話題になる作品が増え、ドラマというエンタメの見方が変わりつつある中、碓井氏によると「地上波でテレビを見る層がいる一方、TVer等の配信で見るのが当たり前という層も多い。しかも、視聴率と配信再生回数が必ずしも連動しなくなっている」そうで、「これは、テレビ全体が『指標なき時代』に差しかかっていることの反映であり、ドラマ作品もこれまでの価値基準で評価することは難しい時代だと言えます」と分析する。

 そんな中『unknown』について碓井氏は「『指標なき時代』における果敢な挑戦」だと言う。

 同作の特徴には「多面的なドラマ」という側面もあるそうで「ラブストーリーのファンは10〜30代女子。そして、サスペンスが好きなのは40代以上です。『unknown』は、あえて視聴者の年代に幅を持たせているのです。その多面性も含めて“果敢な挑戦”だと言える。そのことに気づく人たちが増えることで、今後、最終回に向かって視聴率も配信も伸びていくのではないでしょうか」と予測した。

 現在、4月クールの地上波ドラマだけで30作品以上、配信なども含めるとさらに多くのドラマが制作されている。「数字という結果をストレートに追い求めるあまり、ドラマもまた『わかりやすい』『口当たりがいい』作品が並ぶようになってきました」と碓井氏が語るように、“ながら見できる”見やすいドラマも多くなっている。

 そんな作品たちに比べると『unknown』は、「第1話を1度見ただけでは、どんなドラマか掴めなかった」「コメディーなのかサスペンスなのか、ジャンルレスで戸惑った」など同作が描こうとするゴールが見えず混乱した視聴者の意見も多く見られていた。

 碓井氏は「そんな中、見る側に『安心感を与えない』『考えることを求める』のが同作であり、ある意味で“映画的”とも言える」と言い、「コメディーとサスペンスが交錯する大胆な展開や、一見不謹慎と思われそうなやり取りを通じて、ドラマの可能性を拡げようとする意欲作。見る側は、笑ったりハラハラしたりしながら、自分なりの考察を楽しみ、この『新たなエンタメ』を目指すドラマの終着点を見届けてほしい」と期待を込めた。

■碓井広義(ウスイ・ヒロヨシ)プロフィール
1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年
3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。
著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、
編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

>

メニューを閉じる

 を検索