右肩上がりの成長を続ける電子コミック市場が、2022年度も過去最高を更新することが予測されている。なかでも目立ったのが、縦スクロールマンガのwebtoonの飛躍的な伸びだ。マンガアプリの普及で読者人口のすそ野がかつて以上に広がる中、世界のスタンダードになりつつあるwebtoonがマンガ大国・日本でもいよいよ定着の兆しを見せている。一方で、横読みマンガの人気は今なお根強い。これからの日本の読者の心を掴むマンガはどのような姿をしているのか。マンガアプリ大手のLINEマンガに話を聞いた。
■ストレスフルな現代人に刺さる? スマホで読むマンガに求められる「スカッと」展開
堅調に成長を続ける電子コミック市場で、webtoonの存在感がますます増している。2022年には大手出版社の集英社と小学館がwebtoonの専門部署を立ち上げたことも、マンガ業界の大きなニュースとなった。
マンガアプリ大手のLINEマンガの年間ランキングでも、総合部門のトップ20に15作品のwebtoonがランクイン。特に10代男性のランキングでは、実に19作品がwebtoonで占められている。
「今年支持されたwebtoonのキーワードは“カタルシス”だったと思います。不倫復讐劇の『私の夫と結婚して』やいじめられっ子が喧嘩で下克上する『喧嘩独学』、いじめにあっている妹を圧倒的な強さで守る最強の兄『入学傭兵』など、最初は虐げられていた主人公が力を得て無双状態になっていく、いわばスカッとする展開がウケていたようですね」(LINE Digital Frontier・森啓取締役COO/以下同)
若干ご都合主義でもあるようだが、重厚な読後感を残す作品よりも、ストレスフルな現代人には刺さるのかもしれない。スマホの縦スクロールで手軽に読み進められるフォーマットはTikTokやショート動画の視聴スタイルに似ており、ライトな作風にもマッチする。費やした時間に見合った満足感を得たいという、“タイパ”(タイムパフォーマンス)重視の風潮とも合っているようだ。
「新連載作品が人気を伸ばした一方で、2018年に始まった『女神降臨』が今年も4位にランクインするなど息の長い作品も増えています。webtoonは毎週更新が基本ですが、次週まで確実に離脱させない作品作りの熱意は、日本の週刊コミック誌が長年培ってきた『読者と徹底的に向き合う』という姿勢と通じるものがあると思います」
webtoonの勢いが止まらないながらも、出版社マンガの人気は今なお根強い。総合ランキング上位には『キングダム』(集英社)、『アオアシ』(小学館)、『ONE PIECEモノクロ版』(集英社)、『呪術廻戦』(集英社)などがランクインしている。
「昨年より出版社のマンガでも力を入れてきた『話売り』『毎日無料』の施策が、ランキングにも着実に反映されました。出版社作品の販促は単行本の『試し読み』や『○巻無料』といったアプローチが主流ですが、新規読者にとって間口が広いのはやはり『毎日無料』です。LINEマンガにおいては毎日訪れて1話ずつ楽しみ、やがて作品のファンになったら課金、単行本購入とステップアップする流れができつつあります」
森COOは「近年は中小出版社からも勢いのある作品が続々と誕生しています」とも証言する。マンガアプリには大手から中小、さらにはwebtoon、インディーズとあらゆる出自の作品が同じ土俵で並ぶ。読者はますます、「どこで」読むかではなく「何を」読むかで作品を選ぶようになっている。
「集英社とLINEマンガ インディーズで共同開催した、『集英社少女マンガグランプリ』で特別賞を受賞するなど人気を博した『氷の城壁』は、この秋から他アプリにも展開されて大ブレイクしています。独占配信作品はありますが、囲い込みにメリットはあるのか、作品を広く届けるべきか、マンガアプリもそうした過渡期に来ているように思います」
■韓国発webtoonが席巻するなか、クオリティ求める日本マンガのDNAが芽吹く
一方、年間ランキングの上位のほとんどを韓国発のwebtoon作品が占めているのも特徴的だ。とはいえ、今年も終わりに近づいて早くも新たな動きが見られるという。
「すでに今年ランクインしている『かたわれ令嬢が男装する理由』のほか、『先輩はおとこのこ』が大ヒットしたぽむ先生の新作『ノアは方舟』、『路上伝説』、『神血の救世主』、『まぁるい彼女と残念な彼氏』など、日本発webtoonの人気が急激に加速しています。この背景は、今年になって日本でもwebtoonスタジオが急激に増加したこと。大手出版社のほかにも、ゲーム会社やアニメ会社といった他業界からの新規参入が相次ぎ、さらに個人のwebtoon作家も増えています」
ラインナップはまだまだ韓国作品が多いが、クオリティに遜色はなく、むしろ日本のマンガファンを満足させている側面もあるようだ。
「韓国のwebtoonスタジオは成熟しており、人気作品の安定供給を可能にしています。一方で日本のマンガの良さは、やはり作者と編集者の二人三脚体制。綿密に取材を重ね、ストーリーを練り上げるといった作品作りで多くの歴史的名作を生み出してきました。そうした日本のマンガのDNAを受け継いだwebtoonが、今後さらに増えそうな兆しがあります。どちらが良い悪いではなく、作品の多様性が増していくことが何より楽しみです」
当初、横読みマンガに慣れ親しんできた日本のマンガファンの中には、webtoonに懐疑的な声も少なくなかった。しかし今では「縦/横」といったフォーマットへのこだわりよりも、「面白いマンガが読みたい」という共存の姿がランキングからも窺える。日本のマンガ業界にさらなる活性化をもたらすであろうマンガアプリと、webtoonの今後の動向に注目したい。
(文:児玉澄子)
■ストレスフルな現代人に刺さる? スマホで読むマンガに求められる「スカッと」展開
堅調に成長を続ける電子コミック市場で、webtoonの存在感がますます増している。2022年には大手出版社の集英社と小学館がwebtoonの専門部署を立ち上げたことも、マンガ業界の大きなニュースとなった。
マンガアプリ大手のLINEマンガの年間ランキングでも、総合部門のトップ20に15作品のwebtoonがランクイン。特に10代男性のランキングでは、実に19作品がwebtoonで占められている。
「今年支持されたwebtoonのキーワードは“カタルシス”だったと思います。不倫復讐劇の『私の夫と結婚して』やいじめられっ子が喧嘩で下克上する『喧嘩独学』、いじめにあっている妹を圧倒的な強さで守る最強の兄『入学傭兵』など、最初は虐げられていた主人公が力を得て無双状態になっていく、いわばスカッとする展開がウケていたようですね」(LINE Digital Frontier・森啓取締役COO/以下同)
若干ご都合主義でもあるようだが、重厚な読後感を残す作品よりも、ストレスフルな現代人には刺さるのかもしれない。スマホの縦スクロールで手軽に読み進められるフォーマットはTikTokやショート動画の視聴スタイルに似ており、ライトな作風にもマッチする。費やした時間に見合った満足感を得たいという、“タイパ”(タイムパフォーマンス)重視の風潮とも合っているようだ。
「新連載作品が人気を伸ばした一方で、2018年に始まった『女神降臨』が今年も4位にランクインするなど息の長い作品も増えています。webtoonは毎週更新が基本ですが、次週まで確実に離脱させない作品作りの熱意は、日本の週刊コミック誌が長年培ってきた『読者と徹底的に向き合う』という姿勢と通じるものがあると思います」
webtoonの勢いが止まらないながらも、出版社マンガの人気は今なお根強い。総合ランキング上位には『キングダム』(集英社)、『アオアシ』(小学館)、『ONE PIECEモノクロ版』(集英社)、『呪術廻戦』(集英社)などがランクインしている。
「昨年より出版社のマンガでも力を入れてきた『話売り』『毎日無料』の施策が、ランキングにも着実に反映されました。出版社作品の販促は単行本の『試し読み』や『○巻無料』といったアプローチが主流ですが、新規読者にとって間口が広いのはやはり『毎日無料』です。LINEマンガにおいては毎日訪れて1話ずつ楽しみ、やがて作品のファンになったら課金、単行本購入とステップアップする流れができつつあります」
森COOは「近年は中小出版社からも勢いのある作品が続々と誕生しています」とも証言する。マンガアプリには大手から中小、さらにはwebtoon、インディーズとあらゆる出自の作品が同じ土俵で並ぶ。読者はますます、「どこで」読むかではなく「何を」読むかで作品を選ぶようになっている。
「集英社とLINEマンガ インディーズで共同開催した、『集英社少女マンガグランプリ』で特別賞を受賞するなど人気を博した『氷の城壁』は、この秋から他アプリにも展開されて大ブレイクしています。独占配信作品はありますが、囲い込みにメリットはあるのか、作品を広く届けるべきか、マンガアプリもそうした過渡期に来ているように思います」
■韓国発webtoonが席巻するなか、クオリティ求める日本マンガのDNAが芽吹く
一方、年間ランキングの上位のほとんどを韓国発のwebtoon作品が占めているのも特徴的だ。とはいえ、今年も終わりに近づいて早くも新たな動きが見られるという。
「すでに今年ランクインしている『かたわれ令嬢が男装する理由』のほか、『先輩はおとこのこ』が大ヒットしたぽむ先生の新作『ノアは方舟』、『路上伝説』、『神血の救世主』、『まぁるい彼女と残念な彼氏』など、日本発webtoonの人気が急激に加速しています。この背景は、今年になって日本でもwebtoonスタジオが急激に増加したこと。大手出版社のほかにも、ゲーム会社やアニメ会社といった他業界からの新規参入が相次ぎ、さらに個人のwebtoon作家も増えています」
ラインナップはまだまだ韓国作品が多いが、クオリティに遜色はなく、むしろ日本のマンガファンを満足させている側面もあるようだ。
「韓国のwebtoonスタジオは成熟しており、人気作品の安定供給を可能にしています。一方で日本のマンガの良さは、やはり作者と編集者の二人三脚体制。綿密に取材を重ね、ストーリーを練り上げるといった作品作りで多くの歴史的名作を生み出してきました。そうした日本のマンガのDNAを受け継いだwebtoonが、今後さらに増えそうな兆しがあります。どちらが良い悪いではなく、作品の多様性が増していくことが何より楽しみです」
当初、横読みマンガに慣れ親しんできた日本のマンガファンの中には、webtoonに懐疑的な声も少なくなかった。しかし今では「縦/横」といったフォーマットへのこだわりよりも、「面白いマンガが読みたい」という共存の姿がランキングからも窺える。日本のマンガ業界にさらなる活性化をもたらすであろうマンガアプリと、webtoonの今後の動向に注目したい。
(文:児玉澄子)
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2022/12/29