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漫画『タコピーの原罪』の衝撃 いじめ、毒親…考察が過熱する緻密な筆力

 「少年ジャンプ+」で連載中の作品『タコピーの原罪』が今、毎週のように漫画ファンをザワつかせている。最新話が掲載されるたび、同作の関連ワードがツイッターのトレンド上位に浮上し、ファンによる考察や感想が数多ひしめいているのだ。いじめ・毒親など、子供たちの暗澹(たん)たる世界を容赦なく描き、多くの読者の心をとらえるこの作品の魅力を紹介していきたい。

『タコピーの原罪』上巻書影 (C)タイザン5/集英社

『タコピーの原罪』上巻書影 (C)タイザン5/集英社

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■“感情の伏線”を凄まじい解像度で描く

 『タコピーの原罪』は昨年12月に連載を開始。掲載数は3月4日時点でまだ13話しかないが、1話あたりの閲覧数は250〜300万におよび、同アプリ内の作品でもトップクラスを誇る。最近では、最新話が更新される金曜未明に「タコピー」関連のワードが必ず上位トレンド入りし、これをきっかけに読み始めたファンも多いのではないだろうか。

 物語は冒頭、“ハッピー”を広めるため地球にやってきた生命体が、小学生の少女「しずか」に窮地を救われる。しずかはその生命体を見た目から「タコピー」と名付け、交流するようになった。しずかはクラスメートから酷いいじめを受けているが、タコピーにはいじめの概念が理解できず、不思議な力を持つ数々の“道具”でしずかを元気づけようと試みる。そんなある日、タコピーがしずかに道具の一つを預けてしまったことから運命の歯車が狂い出す、というストーリー。

 SNSでは毎週、「心がしんどい」「本当に恐ろしい」と感情移入する声が後を絶たないが、 鬱展開が続くこの作品が次々とファンを生んでいる要因はどこにあるのか。

 まず、多くの読者から絶賛されているのは、各キャラクターの“感情の伏線”が極めて緻密に張り巡らされている点だろう。いじめられる「しずか」、いじめる「まりな」、しずかを助けたい「東(あずま)くん」――追い詰められた子供たちが発する言葉、取る行動、そこに至るまでの“因子”たちが、凄まじい解像度で作中に描きこまれている。

 例えば、しずかを助けたい一心で東くんが道を踏み外す過程では、東くんが親から暗に能力を否定され続け、しずかを救うことだけが承認欲求を満たす対象になっていく。東くんが心に受けるダメージや劣等感は、セリフはもちろん視線・表情から口にする食べ物まで、こと細かにヒントとして描写されており、しずかに陥落する十分な動機が着々と積み上がっていく。

この作品において、SNSの考察班はプロットの謎に迫るだけでは終わらず、こうした各シーンに隠された心理的な伏線を読み解こうとする人が他作品と比べて多いのが特徴だ。

『タコピーの原罪』タイザン5氏イラスト(左から:まりな、しずか、タコピー) (C)タイザン5/集英社

『タコピーの原罪』タイザン5氏イラスト(左から:まりな、しずか、タコピー) (C)タイザン5/集英社

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■「タコピー」という存在が問うもの

 そして本来、宇宙から地球に天啓をもたらすはずだったタコピーという存在。彼が何も知らないままいじめ・DV・毒親の問題にエンカウントし為す術ない様子も、この物語の大きな原動力になっている。おそらく、タコピーというピュアな観測者(にして当事者)を中心に置くことで、バイアスを一旦はずし、いじめや家庭問題の根源を問い直しているといえそうだ。

 いじめ問題の背景として、まず家庭の問題が克明に描かれる。子供らは知らぬ間に親の業(ごう)を受け継ぎ、その歪みがいじめとして発露する。一方、その親すらも他の大人のエゴに翻弄され生きる、いち被害者と見ることもできるだろう。さらに、こうした問題の被害者が、ふとしたきっかけで容易く加害者側に転化しうる心理的なもろさ、危うさまでもが包み隠さず描かれている。

 もちろん、いじめやDVといった問題のすべてでこうした転化が生じるわけではなく、いかなる場合でも加害者側が正当化されるべきではない。ただ、起こりうる事象として、その因果のリアルさには慄然とするほどの説得力がある。子供たちの残酷な物語は、大人の業がその舞台をあつらえている、と気付かされるのだ。

 SNSでは「フィクションによくいるわかりやすい悪役じゃなく、日常に潜む“本物”を描くのが上手すぎてコワイ」、「子どももヒトであり、悪因で歪まされれば悪果として相応の加害者になるという現実にちゃんと向き合ってキャラクター描写されている。人間は被害者のまま加害者にもなれてしまう」といった感想も見られ、この作品の秀逸さを的確についていると言えるかもしれない。

 「これは、ぼくときみの最高にハッピーな物語――」作品は冒頭、こんな一文からスタートした。しかし、現時点で言えば、苛烈な運命が子供らを翻弄し続けており、“ハッピー”らしき福音はその気配すら聞こえない。タコピーの過去やストーリーの謎、そしてタイトルの“原罪”とは結局なにを指しているのか…。多くの疑問を残し、物語はクライマックスに突入していく。新人作家・タイザン5氏の圧倒的な筆力に皆が感情を振り回されながら、読者の考察も最後まで過熱ぶりが続きそうである。

■著者プロフィール■
タイザン5(タイザンファイブ)/「ジャンプルーキー!」2020年9月期「月間ルーキー賞」で編集部期待賞を受賞。2021年「少年ジャンプ+」にて『タコピーの原罪』で連載デビュー。幸せな宇宙人と不幸せな女の子の出会いを描き、SNSで反響を呼んでいる。
『タコピーの原罪』上巻は3月4日発売予定(693円/税込)。続いて下巻も4月4日発売予定。

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  • 『タコピーの原罪』上巻書影 (C)タイザン5/集英社
  • 『タコピーの原罪』タイザン5氏イラスト(左から:まりな、しずか、タコピー) (C)タイザン5/集英社

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