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「推し活」の豊かさを描いた『おじさんはカワイイものがお好き。』 根底にあるのは人を尊重する思い

 10年ほど前まではコアなアイドルファンの専門用語であった「推し」という言葉。当初は応援するアイドルグループの中での「自分の一番お気に入りのメンバー」を指していたが、今やその対象はアーティスト、俳優、スポーツ選手、YouTuber、インフルエンサー、マンガやアニメのキャラクターまで拡大しており、「自分が好きな人やモノ」という意味合いで広く用いられるようになっている。多くの人々はそれぞれの「推し」を持ち、「推しを応援する活動=推し活」は、しばしばテレビや雑誌などで特集が組まれるほどに浸透している。

“キュン死”が続出したドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』

“キュン死”が続出したドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』

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 20年夏に放映された『おじさんはカワイイものがお好き。』(日本テレビ系)は、そんな好きなモノのある日々、「推し活」の豊かさを描いたコメディードラマである。当時、SNS上には視聴者からの多くの共感の声が上がり、Twitterでは関連ワードが続々とトレンド入りした。これだけ盛り上がったのには訳がある。推しキャラ"パグ太郎"を愛でる主人公を演じたのが、クールで渋いイメージのある眞島秀和であったからだ。これまで、重厚な役からコミカルなものまで、幅広く演じてきてはいるものの、ここまで振り切った役は珍しい。

 眞島が演じる小路三貴は、渋く、紳士的で容姿端麗、さらに仕事もできる“イケオジ”だが、実はカワイイものが大好きという設定。長年それをひた隠しにしてきたが、43歳にして初めて同志のケンタ(今井翼)に出会い、自分の“好き”と向き合い葛藤する。そのなかで、会社の隣の課のライバル・鳴戸(桐山漣)や、居候する大学生の甥っ子・真純(藤原大祐)らの“好き”を認め合い、少しずつ心の距離を近づけていくという物語は、「何かとギスギスしやすい世の中ですが、心温まるドラマになって良かったなと思っています」と眞島本人も語るように、優しさに満ちた物語であった。

 会社でのクールな表情から一転、"パグ太郎"を溺愛する家での緩んだ表情、仕事がデキる姿からは程遠い、ケンタとのちょっとした行き違いに悩む姿など、おじさんのギャップの魅力が詰まった内容は、ユーモラスであり、どこかペーソスも感じさせた。役作りの上での苦労はあったのだろうか。

「子どもの頃は、横山光輝さんの漫画(『鉄人28号』『伊賀の影丸』『魔法使いサリー』『バベル2世』など)に熱中したこともありましたが、小路さんの"パグ太郎"みたいな推しは、僕には経験がないですよ。自分の愛犬は可愛がっていますが、それくらいですね。だから、役柄との共通点は自分ではあまり感じられないのですが、同業者の友人の中には「ピッタリだね」という人もいて。「どういうところ?」って聞くと、「そのまんまじゃん」って(笑)」(眞島秀和/以下同)

「演じ方に関しては、モノローグも多かったし、表現手法としては何パターンかあったので、あまり複雑に考えるのをやめて、シンプルに、素直に、と心がけました。主人公の心の声は、自分を納得させるための言葉なんですよね。いつも言い訳みたいなことを自分に用意していて、そこがけっこうリアルに感じました。大人になるにつれ、自分に言い訳するようになりますもんね」

 今回演じた主人公・小路は眞島と同じ43歳。ダンディーだが、もっと楽に生きてもいいのにと感じる不器用な部分もあり、そのアンバランスさが魅力的だったと振り返る。

「仕事ができて、年齢に見合った職場での気配りとか、部下のフォローとかができる点など、魅力的ですよね。キャラクターの“パグ太郎”が好きだというのも、べつにそこまで隠さなくてもいいんじゃないか、とも思いましたが、そういう不器用なところも含めて、穏やかで優しくて、強い人だなと。でも、その一方で、ずっと孤独だったんだろうなとも思いました。自分の好きな趣味をずっと奥さんにも隠してきたわけですから。それでもいいと思って生きてきたのでしょうが、そんな人がやっとケンタくんという仲間を見つけられて、本当に良かったと思いましたね」

「小路さんも含めて、みんな自己評価が低いところも好きですね。僕も自己評価が低いほうなので共感を覚えます。年を取るほどにそうなっている気がしますね。漠然としていますが、正解が分からないからなのかな。多様化と言われる世の中になっていますが、メンタルがそこに追い付いていない感覚です」

 全5話の中で印象に残るシーンを尋ねると、「たくさんある」と少し悩んだ後に、次のシーンを挙げてくれた。

「強いて挙げるとすれば第1話でパグ太郎に追いかけられるシーンかな。撮影の序盤であったこともありますが、印象的でしたね。それと、3話の元奥さんと久々に再会して、夫婦だった当時のことを話すシーン。あとは、最終話でのケンタくんとのやりとりも思い出深いですね」

「気持ちは思ってるだけじゃ伝わらない」「人の好きを大事にするって難しい」など、ドラマでは多くの名セリフも生まれた。

「あまり深く考えないで発した台詞ですが、それが印象に残ったと聞いて、「これが心に刺さるのかな」なんてあまり意識せずに発していたのがかえって良かったのかもしれないですね。演出の熊坂出監督は撮影の進め方が独特で、あまりテストやリハーサルを行わないんですよ。人の気持ちの流れを大事にするというか、その場その場で、お互いに持ってきたものを出し合うということが多かったです」

 そんななかで、最終話の名シーン、“パグ太郎の着ぐるみとの2ショット写真撮影”も生まれた。好きな人やモノの“推し活”経験のある人なら心から共感できる、パグ太郎の横に立った小路の強張った表情、うろたえ方は、なんともリアルで愛おしい。

「あれはいろいろと想像して演じました。はじめはすごい笑顔で、パグ太郎と一緒に写真に収まるのかな、とも思いましたが、本当に好きな人やモノを前にしたら、笑顔なんて作れないんじゃないか、そう考えたんです」

 コロナ禍での撮影状況を尋ねると、当初予定されていたスケジュールがギュッと詰まったり、実際の撮影現場で自分の飲み物を管理するようになったり、マスクを付けたり…、そういった変化はあったが、芝居を撮る基本的な流れに大きな変化はない、としながらも、「作品作りに入っていけること、現場に立つことができることが、本当に有難いことなのだと改めて感じました。同業の人は皆そう思っていると思います」という答えが返ってきた。ドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』が多くの視聴者を癒したように、役柄を演じることで、眞島自身も癒されていたことを感じる瞬間だった。そして、ドラマを通して、「普段の生活の中で周囲の友人に、素直な言葉をかけてあげたいなと思うようになった」という言葉が印象的だった。

 ドラマ、映画、舞台と幅広く活動する眞島は、昨年から新たに『ガイアの夜明け』(テレビ東京)でナレーターの仕事もスタートした。芯の強さと優しさを兼ね備えた声の魅力に気づいた人も多いのではないか。今後やりたいことに話を向けると、「こういうことをやりたい、というのはなくて、誰かがやろうとしているプロジェクトに呼んでもらうのが僕のやりがい。いろんなところに呼んでもらえたら有難いというのが僕のスタンス」と、なんとも自然体の答え。これが、引く手あまたの名バイプレーヤーたる所以なのかもしれない。

「推し活」で大事なのは、本ドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』のメッセージである「自分の『好き』も、相手の『好き』も大事にする」という精神。まだまだ、コロナ禍で緊張を強いられる生活は続くが、眞島が新たな魅力を放った本作を観て、お互いを尊重する優しい思いにあふれた作品世界に浸り、癒されてみてはどうだろうか。
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  • “キュン死”が続出したドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』
  • 2月10日にはBlu-rayとDVDで発売された『おじさんはカワイイものがお好き。』

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