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【高橋ダン】10分間で7億円の損失…“地獄を見た男”が断言する「人生における損切」の重要性

 「損切り」という言葉を聞く度に、人間としての“度量”が試される気持ちになる…そんな思いに共感する人も多いはず。「いかに被害を最小限に抑えるか?」の判断は株式市場だけでなく、“人生”においても迫られる機会が数度はあるはず。米・ウォール街で頭角を現した際、たった10分間で7億円の損失という“手痛い失敗”を経験したプロ投資家・高橋ダンだからこそ語れる、「人生における正しい損切り」とは?

プロ投資家でYouTuberとしても注目を集める高橋ダン氏 (C)oricon ME inc.

プロ投資家でYouTuberとしても注目を集める高橋ダン氏 (C)oricon ME inc.

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■弱冠26歳でファンド設立 自信過剰が招いた“記録更新”への欲求

 皆さん、「損切り」という言葉を聞いたことがありますか? 株などの取引をする上で損失が発生した場合、その損失を最小限にとどめるために株を処分する…という作業のことです。当たり前で簡単に思えるかもしれません。ですがこれほど難しく「痛い」ものはありません。今回のテーマはこの「損切り」について。ひいてはこれが、皆さんの「人生」にどうつながっていくか、お話していこうと思います。

 ではまず、私の経験談からお話しましょう。ウォール街にいた僕は、その時、かなり自信過剰になっていました。弱冠26歳でファンドを起ち上げられる人、この若さでそれが出来る人はそれほどいなかったからです。さらにはファンドを起ち上げてからというものパフォーマンスは上々。ファンドではリスク回避のために取引に「上限」が設けられています。ところが、僕はパフォーマンスの高さの信頼から、この天井が取り除かれていたんです。つまり、いくらでも取引できるようになっていた。この若さで。実力で。僕は自分が「神」でもあるかのように、ますます慢心していきました。天狗になっていたというやつです。

 そして28歳の時。僕は自信過剰波というに乗って、ある取引に手を出してしまいました。この数ヵ月前、最高のパフォーマンスを手に入れており、その「記録」と「記憶」を上回りたかった。つまり「プライド」だけ。手を出したのは、裁定取引(アービトラージ)。例えば、トヨタの株はNYでも日本でも取引されています。ですがアメリカと日本では時差がある。アメリカで取引された価格と、その後で日本で取引される価格。その差額が広がるか狭まるか、これについて「賭け」をする取引ですね。

 結果から言います。僕はこれで10分程度で7億円の損失を出してしまいました。この時の僕の心情は? お話します。

■「この“俺”が立てた戦略だよ!」負けを認めなかったことでさらなる大損

 この時、アメリカ時間では日経株が下がっていました。日本の価格と比べると2%ほど下。アメリカで取引が終わった後、日本の株の取引が始まりますが、僕はここで「日経株がその差を当然縮めるだろう」と考えたのです。といっても2%ですから、それほど大きなチャンスとは言えない。それでも傲慢強欲になっていた僕は、どんな利益も自分のものにしたかった。

 アメリカ市場の終盤で大量に買い、アジア市場が開く時に売る。これで儲かるはずでした。ですが当時の僕のパートナーは疑問を持ったのです。「ダン、その戦略は当たってるのかい?」と。ですが自分を神のように考えていた僕はこう答えてしまいました。「誰に向かって言ってるの? この“俺”が立てた戦略だよ」と。

 僕の戦略はものの見事に外れました。日本で市場がスタートすると、2%だった差額は3%へ。本来ならば、ここで「損切り」をするべきだったんです。でも僕は切れなかった。もっと言うと、切りたくなかった。だから逆に、さらにこの商品を買ってしまったんです。ここまで来るともう戦略と言えません。論理的な理由もなんにもない。ただ自分が「損をしている」ことを受け止めたくなかっただけ。プライドだけが僕を突き動かしていました。

 やがて3%は4%に。ここに来て、資金調達をしてくれた人からも「大丈夫か?」と連絡が。僕は「大丈夫に決まっているだろ? もう電話してくるな!」と返してしまいました。そしてさらに大量買いし、差額が狭まるまで待機。しかし上がらず、やむを得ず「損切り」した時点で7億円の損失…。その間、わずか10分ほどでした。その後も日本市場はますます差額を広げていきました。あの時点で「損切り」しなければもっと大損していたことでしょう…とてもショッキングなイベントでした。

 当時の自分を振り返ると、僕は自分を天才であり、神のように考えていました。そして、これまでの自分の記録を上回ることだけ見ていました。もちろん本などで読んで知っていました。「成功した後が最も危ない」と。でも、僕はこいつらとは違うと思っていました。自分は特別だ! と。今回は違う、大丈夫だ! と。

 皆さんは僕のように傲慢じゃないかもしれません。ですが、僕はここで改めて悟りました。「自分の一番の敵は自分なんだ」と。プライドのためだけに、「損をした」「負けた」ということを認めたくなかったがゆえに、必要以上の損をしてしまったのだと。

■「損切り」の痛みをやわらげるために必要な“2つのこと”

 こうした経験は、多かれ少なかれ、誰しも訪れるのではないでしょうか? 実際、ヘッジファンドの世界でも、ハーバード出身のフットボールプレイヤーで、ルックスも体格も何もかも僕より格上の超優秀人物が近くにいたのですが、そんなすごいスペックの彼でさえも、「損切り」では大泣きした挙げ句、倒れ、寝込んでしまいました。

 「損切り」は投資だけではなく、人生でも言えると思います。成功をし始めると、人は、そのルートだけにすべての力を注ぎたくなってしまうんです。もちろん集中した方が効果は出る。でもそれは「当たれば」の話なんです。でも「外れた」場合。「損」が出てしまった場合…。

 恋愛を例に例えると良いかもしれませんね。「損切り」の難しさは、これまでの自分の人生の「否定」につながることです。このまま付き合っていてもダメになっていく一方。でも、付き合ってきた何年間、労してきた時間すらすべて「無駄」になってしまう。人は、それが怖いんです。

 なぜ「怖い」のか。それは、「そこだけに力を注いできたから」です。投資でも言えることなのですが、自分が投資する先は「分散」して置いたほうが良い。一点集中は危険です。力を注いできた分、「損切り」したくなくなるから。人生で言えば、集中する場所を、恋愛だけ、仕事だけ、ではなく、複数にしておけば、一つを「損切り」しても「他」があるため、「損切り」が少しは容易になるのです。

 とくに日本は職人気質と言いますか、「我慢」の文化があるため、視野が狭くなりがち。実際、「我慢」という日本語は、英語をはじめ、他の外国語でも、該当する概念・単語があまりありません。災害に耐えてきた国民性なのでしょうか、一度レールに乗るとずっとそのレールで人生を歩んでしまう。でも違うんです。他のレールに乗っても、違うルートへ進んでも、あなたが生かされる環境があるかもしれない。日本に起業家が少ないのもそういった国民性があるからかもしれませんね。そして「損切り」においては、この国民性はある意味、とても危険なのです。

 答え、正解は誰にも分からない。だからこそ、自分の可能性を「一つ」に留めるべきではない。あともう一つ、「損切り」の痛みは、経験すればするほど良い。「失敗して終わり」ではないのです。仏教では「痛み」は二つあると言われます。一つは実際の痛み。もう一つはその痛みを「どう受け止めるか」。失敗しても悲観的にならない。「It’s OK!」と受け止め、次に進めるかどうか。「失敗」や「損切り」を続けることで、どこか客観的に、システム的に自分の中に取り入れられていく部分もあるように思います。

 投資でも人生でも「損切り」は痛みを伴います。その痛みをやわらげるには「自分を多様化しておく」。そして「痛みを受け止め、それを経験とする」。皆さんも、この二つを大切に考えてみてください。

【高橋ダン】
 経済アナリスト・プロ投資家。12歳で投資を開始。米コーネル大学を首席グループで卒業後、ウォール街の名門金融機関・モルガンスタ ンレーに従事し、リーマンショックを経験。その後、独立し、自らヘッジファンドを運用。2020年1月から自身のYouTubeチャンネルを立ち上げ、現在の登録者数は17万8千人。今最も注目を集める若き論客。

(取材・構成/衣輪晋一)

YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」

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