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現役医師の作家が語る“謎解きミステリー”の醍醐味

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第37回 作家・知念実希人

 2010年ごろから密かなブームとなっている謎解きや脱出ゲーム。さまざまな地域で趣向を凝らした「謎解きイベント」が開催され、若い世代にも絶大な人気を博している。リアルな脱出ゲームや謎解きイベントは、自身が物語の主人公になり、暗号の解読をしながら物語をクリアしていく。そんな体験が映画でも味わえるのが「謎解き体感ミステリー」と題された『仮面病棟』だ。本作の原作者であり、映画の脚本も担当した知念実希人氏に、なぜ若者を中心に脱出ゲームや謎解きが流行っているのかを聞いた。

映画『仮面病棟』のメインビジュアル(C)2020映画「仮面病棟」製作委員会

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■若者が謎解きやリアル脱出ゲームにはまる理由とは……

 物語の舞台は元精神科病院だった「田所病院」。患者が勝手に外に出られないように、院内の至るところに施錠できる扉がある。「密室」になるにはぴったりの設定。そんな病院に、ピエロの仮面をつけた凶悪犯が押し入り、たまたま当直医として病院にいた坂口健太郎演じる速水や、ピエロに銃で撃たれた女子大生・瞳(永野芽郁)、病院の院長・田所(高嶋政伸)、看護師らが監禁されてしまう。

 視聴者は、建物に隠されたしかけや、入院患者の状況など、さまざまな“謎”に翻弄されながらも、病院の外に“脱出”するために奔走する速水の視点で、物語を堪能できる。まさに「脱出ゲーム」を体感しているように――。

 知念氏は、若者を中心に“謎解き”や“リアル脱出ゲーム”が注目されている理由について「一番は非日常が、ゲーム感覚で味わえるということだと思います。いまの若い世代は、スマートフォンなどでゲームをするのが主流になっていて、身体を動かして、その世界観に入って遊ぶということを子供のころに体験していない。だからこそ、昔我々の時代にあったアナログの遊びが新鮮に感じるのだと思います。いまのリアル脱出ゲームは、迷路と謎解きが合体し、しかも物語の主人公になったように、解決していくことを体感として得られることは、すごく刺激的なのだと思います」。

■自身の小説の映画化に脚本で参加する意味とは

 知念氏は作家として、数々の作品を世に送り出している。本作では、自身が書いた原作を映画の脚本にする作業にも参加し、ミステリーというジャンルの新たな可能性にも挑戦している。

 「原作ものを映像化する際、映像ならではの要素というものが重視されますが、ミステリー作品の場合、謎解きの骨格がしっかりと保たれていなければ、大きく道を外してしまうんです。その意味で、自分が参加した方がいいのではと感じました。しっかりとミステリーの部分を構築し、そのうえで、監督は演出、出演者のみなさんはお芝居でいろいろと肉付けしていく。良い関係性だと思います」。

 「仮面病棟」で知念氏がこだわったのは、スピード感。小説のなかでも、基本的には事件当日の約半日の物語が描かれる。主演を務めた坂口健太郎も、その部分を大切に演じていたと話していたが、映像ならではのギミックを用い、映画ではよりスリリングな緊張感が強調されている。知念自身も本作を執筆する際には「ワンシチュエーションのソリッドミステリーだったので、映像化したときに映えるような仕掛けは意識していました」と述べていた。

■謎解きがすべてクリアになる必要はない

 知念氏にとってミステリーの魅力とは「張り巡らされた伏線が、一気に美しく回収されていくところ」と語る。「読んでいる途中に謎が全部解けるかどうかというのは、あまり重要なことだとは考えていません。とにかく最後に事実が明かされるとき、読者が『こういうことだったんだ』とカタルシスが得られるように構成することが大事なんです」。

 だからこそ“謎解き”の部分の難易度は、それほど意識していないという。「特に医療ミステリーなどは、専門知識がないと解けないような“謎解き”もありますが、それはそれで、新しい知識になると思うのです。なによりも作家として大切にしたいのは、作品を読んでいるときは、現実を忘れて純粋に物語の世界観に入り込んでもらえたらなということ。そこは意識して執筆しています」。

 知念氏は作家でありつつ、現役の医師でもある。「中学生のとき、新本格がブームになっていて、そこからミステリーの魅力にはまっていったのですが、作家という職業にはあまりリアリティがなく、まずは医者として一人前になれるように努力しました。そのうえで、大好きなミステリーを題材に、作家としても成功できたらいいなという気持ちでした」と胸の内を明かす。

 脚本担当として、映画に参加した本作。撮影現場を訪れる機会もあったというが「小説で20〜30分ぐらいで書いたシーンでも、映像にするには何日もかけて撮影するのは、ものすごく大変だなと感じました」と率直な感想を述べると「基本は小説家なので、脚本だけを書くことはないと思いますが、自分が執筆した小説の映像化に際しては、ミステリーの骨格だけは、しっかりとお手伝いできたらなという思いはあります」と今後の展望を語っていた。(取材・文・撮影:磯部正和)

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  • 映画『仮面病棟』のメインビジュアル(C)2020映画「仮面病棟」製作委員会
  • 知念実希人氏 (C)ORICON NewS inc.

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