■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第28回 新城毅彦監督
近年、日本映画の一つのジャンルとして確立されている感がある少女漫画原作の実写映画。それ以前にも恋愛映画は多数存在したが、時代の変化と共に作り方や見せ方、はたまた演じる女優にも違いが生じてきているのだろうか――。1993年に放送された恋愛ドラマ『あすなろ白書』から常にエンタメ界の一線級で活躍し、最新作『午前0時、キスしに来てよ』でも恋愛作品を世に送り出している新城毅彦監督に話を聞いた。
■“秘めた思い”や“いじらしい思い”から、“壁ドン”などのわかりやすい表現方法へ
『午前0時、キスしに来てよ』をはじめ『ひるなかの流星』(2017年)、『潔く柔く』(2013年)、『僕の初恋をキミに捧ぐ』(2009年)など、数多くの少女漫画原作や恋愛作品を実写映画化してきた新城監督。時代と共に、制作側の手法も変わってきているのだろうか――。
「90年代というか少し昔は、日本人らしいというか、恋愛においても少し耐え忍ぶ恋みたいな、抑えて抑えて……という精神が美徳みたいな感じはありましたよね。でもいまの恋愛作品は基本的にはエンターテインメント。観る側が大きく変わってきたということはあります」。
新城監督の言葉通り、一昔前は“秘めた思い”や“報われない恋”に感情移入する作品が多かったように感じられる。「もちろん恋愛の機微自体は、そんなに変わっていないと思うのですが、そういった心よりも、ビジュアルや動き、例えば“壁ドン”のようなものを求めるような傾向はありますね」。
それに伴い、演出方法も変わっていったという。「やっぱり女の子が視聴者層なので、主役の男の子といかに疑似恋愛をしているかと思えるような演出は意識します。原作のエピソードが基本にありますが、こうされたら嬉しいんだろうなという……。昔より考えることは増えていますよね」と苦笑いを浮かべる。
■ファンと俳優の距離が近くなった
ではなぜこうした変化が生じてきたのだろうか。新城監督は「スクリーンの内側の人と、視聴者の距離が近くなってきているから」と指摘する。
「やや感覚的ではありますが、アイドルや俳優さんとファンの距離が近くなっているのかなと。キャストが登場するイベントなどの盛り上がり方を観ていると、ものすごい歓声ですよね。『潔く柔く』のころは、こんな感じではなかったです。もちろんすごくありがたいことで、こちらもそういうところを意識した演出もしますからね」。
一例として、『午前0時、キスしに来てよ』で主演を務めるGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太に触れると「彼が演じた綾瀬楓という役にはしっかりとしたキャラクターがあるのですが、そのなかで、どこか本人もそういう顔をするんだろうなとか、こういう行動をしそうだなという要素を織り交ぜるんです。そうすると、ファンは片寄くんのプライベートを観ているような気にもなりますよね」と解説する。
演じる人間が持つパワーやポテンシャルを活かし、役柄を膨らませていく……。現在の少女漫画原作の実写化には非常に重要な部分であると新城監督は語る。
一方で、ヒロインの橋本環奈については「片寄くんのキャラクターを考えたとき、花澤日奈々という役は、しっとりやるよりキラキラ跳ねるような感じにしたかった。明るさがあって華がある。しかも女の子に嫌われない子……橋本さんがピッタリかなと」と起用理由を語る。
もともと新城監督は橋本に対してはアイドル的なイメージがあったというが「『銀魂』などを観ていて、最近はすごく振り切った芝居をするなと思っていたんです。実際現場を共にして、とても頭のいい子で、引き出しもあるなと感じました。自分の考えだけで突っ走るのではなく、臨機応変に役に対応できる。とてもやりやすかった」と絶賛する。
■橋本環奈ら若手女優と、長澤まさみ・井上真央ら世代の女優とでは現場の居方が全然違う
新城監督は、橋本をはじめ永野芽郁、広瀬すずなど若手女優とタッグを組むことが多い。以前には、長澤まさみ、井上真央、宮崎あおいらとも作品を共にしていた。世代によって資質は違うのだろうか。新城監督は「質が上がった、下がったということではないのですが、やっぱり違いはありますね」と語る。大きな違いとしてあげたのが「求められるものの幅が広がっている」ということ。
「先ほども言いましたが、芝居なのか素なのかのギリギリな部分が求められることがある。それってすごく高度な技術であり、セリフの言い方一つにしてもそうですが、受けの芝居でも、どれだけ芝居をしていないか……という部分が必要になってきます。以前はそこまで演出する側も要求していなかったと思うんです」。
また現場での居方も違うという。「井上さんや長澤さんは、やっぱり女優然としているというか、現場でも女優さんの雰囲気を持っていたなという印象がありました。でも橋本さんも永野さんも広瀬さんも、現場でも賑やかというか『大丈夫か?』と思っちゃうような感じなんです。それでいていざ本番になるとスイッチが入って切り替わる。そこはよりプロっぽいのかもしれませんが、世代間の違いがありますね」。
こうした変化も「ファンとの距離が近くなった」ことに起因しているようだ。
「SNSの発達によって、入ってくる情報量も格段に増えてきているし、変化のスピードも速い。それに対応するスキルが、いまの若い女優さんたちには自然と備わっているんですよね。だから現場での対応力もあるし、自分を魅せる能力にも長けている。自らのことを発信していくことも、俳優としての仕事と捉えている人も多いのではないでしょうか」。
■キラキラ恋愛作品のなかに光る人間物語
若者に人気の恋愛作品の監督を務めることが多い新城監督だが、友情や家族愛を絡ませた人間物語もキャラクターに深みを与える。本作でも、片寄、橋本の直球の恋愛だけではなく、遠藤憲一演じるマネージャとの“絆”や、血のつながりのない母娘との“家族愛”など見どころは多い。
「こういう映画なので、マスク越しのキスや“鼻かじキス”などのシーンは見せ方に気を使いましたが、本線に深みを与えるサイドストーリーにもメッセージをしっかり込めたので、そういう部分は観てほしいです」。
長年、恋愛映画を作ってきた新城監督。時代の変化と共に作り方も大きく変わってきたことは、話を聞いて実感したが、そのなかで最も大きな変化と感じたのが「携帯電話の登場」だという。「やっぱり枷がなくなりましたよね。一昔前は恋愛映画の王道はすれ違い。でも携帯電話ができて『会えない』というシチュエーションが生まれなくなった。やっぱり大きい変化でしたね」と語っていた。(取材・文・撮影:磯部正和)
近年、日本映画の一つのジャンルとして確立されている感がある少女漫画原作の実写映画。それ以前にも恋愛映画は多数存在したが、時代の変化と共に作り方や見せ方、はたまた演じる女優にも違いが生じてきているのだろうか――。1993年に放送された恋愛ドラマ『あすなろ白書』から常にエンタメ界の一線級で活躍し、最新作『午前0時、キスしに来てよ』でも恋愛作品を世に送り出している新城毅彦監督に話を聞いた。
■“秘めた思い”や“いじらしい思い”から、“壁ドン”などのわかりやすい表現方法へ
『午前0時、キスしに来てよ』をはじめ『ひるなかの流星』(2017年)、『潔く柔く』(2013年)、『僕の初恋をキミに捧ぐ』(2009年)など、数多くの少女漫画原作や恋愛作品を実写映画化してきた新城監督。時代と共に、制作側の手法も変わってきているのだろうか――。
「90年代というか少し昔は、日本人らしいというか、恋愛においても少し耐え忍ぶ恋みたいな、抑えて抑えて……という精神が美徳みたいな感じはありましたよね。でもいまの恋愛作品は基本的にはエンターテインメント。観る側が大きく変わってきたということはあります」。
新城監督の言葉通り、一昔前は“秘めた思い”や“報われない恋”に感情移入する作品が多かったように感じられる。「もちろん恋愛の機微自体は、そんなに変わっていないと思うのですが、そういった心よりも、ビジュアルや動き、例えば“壁ドン”のようなものを求めるような傾向はありますね」。
それに伴い、演出方法も変わっていったという。「やっぱり女の子が視聴者層なので、主役の男の子といかに疑似恋愛をしているかと思えるような演出は意識します。原作のエピソードが基本にありますが、こうされたら嬉しいんだろうなという……。昔より考えることは増えていますよね」と苦笑いを浮かべる。
■ファンと俳優の距離が近くなった
ではなぜこうした変化が生じてきたのだろうか。新城監督は「スクリーンの内側の人と、視聴者の距離が近くなってきているから」と指摘する。
「やや感覚的ではありますが、アイドルや俳優さんとファンの距離が近くなっているのかなと。キャストが登場するイベントなどの盛り上がり方を観ていると、ものすごい歓声ですよね。『潔く柔く』のころは、こんな感じではなかったです。もちろんすごくありがたいことで、こちらもそういうところを意識した演出もしますからね」。
一例として、『午前0時、キスしに来てよ』で主演を務めるGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太に触れると「彼が演じた綾瀬楓という役にはしっかりとしたキャラクターがあるのですが、そのなかで、どこか本人もそういう顔をするんだろうなとか、こういう行動をしそうだなという要素を織り交ぜるんです。そうすると、ファンは片寄くんのプライベートを観ているような気にもなりますよね」と解説する。
演じる人間が持つパワーやポテンシャルを活かし、役柄を膨らませていく……。現在の少女漫画原作の実写化には非常に重要な部分であると新城監督は語る。
一方で、ヒロインの橋本環奈については「片寄くんのキャラクターを考えたとき、花澤日奈々という役は、しっとりやるよりキラキラ跳ねるような感じにしたかった。明るさがあって華がある。しかも女の子に嫌われない子……橋本さんがピッタリかなと」と起用理由を語る。
もともと新城監督は橋本に対してはアイドル的なイメージがあったというが「『銀魂』などを観ていて、最近はすごく振り切った芝居をするなと思っていたんです。実際現場を共にして、とても頭のいい子で、引き出しもあるなと感じました。自分の考えだけで突っ走るのではなく、臨機応変に役に対応できる。とてもやりやすかった」と絶賛する。
■橋本環奈ら若手女優と、長澤まさみ・井上真央ら世代の女優とでは現場の居方が全然違う
新城監督は、橋本をはじめ永野芽郁、広瀬すずなど若手女優とタッグを組むことが多い。以前には、長澤まさみ、井上真央、宮崎あおいらとも作品を共にしていた。世代によって資質は違うのだろうか。新城監督は「質が上がった、下がったということではないのですが、やっぱり違いはありますね」と語る。大きな違いとしてあげたのが「求められるものの幅が広がっている」ということ。
「先ほども言いましたが、芝居なのか素なのかのギリギリな部分が求められることがある。それってすごく高度な技術であり、セリフの言い方一つにしてもそうですが、受けの芝居でも、どれだけ芝居をしていないか……という部分が必要になってきます。以前はそこまで演出する側も要求していなかったと思うんです」。
また現場での居方も違うという。「井上さんや長澤さんは、やっぱり女優然としているというか、現場でも女優さんの雰囲気を持っていたなという印象がありました。でも橋本さんも永野さんも広瀬さんも、現場でも賑やかというか『大丈夫か?』と思っちゃうような感じなんです。それでいていざ本番になるとスイッチが入って切り替わる。そこはよりプロっぽいのかもしれませんが、世代間の違いがありますね」。
こうした変化も「ファンとの距離が近くなった」ことに起因しているようだ。
「SNSの発達によって、入ってくる情報量も格段に増えてきているし、変化のスピードも速い。それに対応するスキルが、いまの若い女優さんたちには自然と備わっているんですよね。だから現場での対応力もあるし、自分を魅せる能力にも長けている。自らのことを発信していくことも、俳優としての仕事と捉えている人も多いのではないでしょうか」。
■キラキラ恋愛作品のなかに光る人間物語
若者に人気の恋愛作品の監督を務めることが多い新城監督だが、友情や家族愛を絡ませた人間物語もキャラクターに深みを与える。本作でも、片寄、橋本の直球の恋愛だけではなく、遠藤憲一演じるマネージャとの“絆”や、血のつながりのない母娘との“家族愛”など見どころは多い。
「こういう映画なので、マスク越しのキスや“鼻かじキス”などのシーンは見せ方に気を使いましたが、本線に深みを与えるサイドストーリーにもメッセージをしっかり込めたので、そういう部分は観てほしいです」。
長年、恋愛映画を作ってきた新城監督。時代の変化と共に作り方も大きく変わってきたことは、話を聞いて実感したが、そのなかで最も大きな変化と感じたのが「携帯電話の登場」だという。「やっぱり枷がなくなりましたよね。一昔前は恋愛映画の王道はすれ違い。でも携帯電話ができて『会えない』というシチュエーションが生まれなくなった。やっぱり大きい変化でしたね」と語っていた。(取材・文・撮影:磯部正和)
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2019/12/06