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『きのう何食べた?』が描いた万人に共通する理想 たくさんの“気づき”を与えたドラマ

『きのう何食べた?』(テレビ東京系)が、6月29日にとうとう最終回を迎えた。月2万5千円の食費でつつましく暮らす男性同士のカップル、弁護士のシロさん(西島秀俊)と美容師のケンジ(内野聖陽)の物語に、なぜ私たちはこうも惹かれたのか。なぜ「いつまででも観ていられる」「ずっと観続けていたい」と思ってしまったのか、振り返ってみたい。

(C)「きのう何食べた?」製作委員会

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■日常生活のリアリティとともに描かれた、ささやかで穏やかな幸せ

「美味しい」「嬉しい」「幸せ」という感情を、いつも言葉で、表情で、全身でストレートに表現してきたケンジ。それに対して、シロさんは序盤では、クールに淡々と仏頂面で返していた。ゲイであることを職場でもカミングアウトしているケンジと違い、シロさんは職場ではもちろん、街でも周囲の目を気にしてひた隠しにしてきた。そんな2人のやりとりや距離感が時間の経過とともに変化していく。

 シロさんがおそろいの指輪をケンジに買ってくれたり、最終回では自分の両親にケンジを紹介してくれたり、オシャレなカフェに一緒に行ってくれたり。
「食いもん、油と糖分控えてさ、薄味にして、腹八分目で長生きしような、俺たち」「なるべくお前にはハッピーでいて欲しいと思ってるんだよ」といった優しさ溢れる言葉に、バックハグ、全編アドリブで撮影されたという2人の料理シーンの下ネタ全開イチャイチャトーク。

 多幸感溢れるやりとりに、ほっこりしたり、笑ったりしながらも、なぜか泣きそうになった。そこには、日常生活のリアリティとともに、まるで桃源郷のようにすら見える、ささやかで穏やかな幸せが描かれていたから。そして、その幸せは、私たちがなんとなく目を逸らしている不安や些末な日常の出来事の上に成り立っているからではないだろうか。

■現代を生きる多くの人が身につまされる言葉

 例えば、「老い」や「お金」の不安。第1話では、ハーゲンダッツをコンビニで買って帰ったケンジが倹約家のシロさんに激怒され、「シロさんってさ、お金好きだよね」と呟くシーンがあった。シロさんは言う。「金が好きで何が悪い。子どもに面倒をみてもらえるなんて将来がない俺が、最後、頼りになるのは金だけだろう」

 これは同性愛者だけでなく、独身者や、子を持たない夫婦、さらに言えば、年金制度が破綻した現代を生きる多くの人が身につまされる言葉だ。とはいえ、それを日々のリアルとしては受け止めている人は少ないのではないか。

 しかし、シロさんはだからこそ食材を激安で買える喜びや、料理友だちの佳代子さん(田中美佐子)と食材をシェアする楽しみをかみしめている。シロさんはまた、カロリーや糖分、油分など、体のことを常に気遣っている。その根底には「老い」への不安、「他者に頼らず生きていく」覚悟があるだろう。だからこそ、ともに暮らすケンジの健康にも最大限に気を遣う。

■印象的だった、両親の不安と深く理解する人がいることへの安堵

「家族」「一緒に暮らす人」を取り巻く不安もある。「シロさんがゲイでも犯罪者でも受け入れる覚悟ができている」と、トンチンカンな視点から大真面目に語る母親も、「で、どんな女だったら大丈夫なんだ?」と優しく尋ねる父親も、根本にあるのは息子への愛情だ。

 だからこそシロさんは苦しめられる。第11話では自分がゲイだと知ったときの両親の思いを考え、「きっと両親は俺のこと可哀相な子だと思った。次に俺がこんなふうになってしまったのは、私たちの育て方が悪かったんじゃないかって自分を責めたかもしれない」と涙ながらに独白するシーンがあった。

 最終回ではシロさんの両親に紹介してもらったケンジが、シロさんの父から「(高校時代のケンジは)とにかくよく勉強する子だった」と聞かされる。その際、自分が腕一本でやっていける美容師を志したように、おそらくシロさんも自分が同性愛者だとわかっていて、弁護士になろうと一生懸命勉強していたのではないかと話す。

 愛情をたっぷり注いできても知りえなかった息子の思いを、深く理解する人がいること――。シロさんの父の表情がほぐれていく様が、印象的だった。

■疎かにしている当たり前の日々を振り返らずにはいられなくなる

『きのう何食べた?』では、大切な人と互いに思い合いながら、ともに美味しいものを食べ、日々を大切に過ごす「日常」が描かれてきた。これは同性愛者同士だけでなく、万人にとっての理想だろう。

 しかし、幸せや喜びの感情を素直に相手に伝えることも、一緒に暮らす恋人や家族も、日々の食事も、当たり前の日常のなかでは、つい疎かにしてしまったり、後回しにしたり、照れくさくて、不安で、目を逸らしたりしてしまう。

 そして、「大切な人と思い合いながら、美味しいものを食べ、一緒に暮らしていく」ことが実は特別なことだと気づかされるのは、皮肉にも、大切な人・時間を失ったときや失いそうになったときだ。2人の多幸感溢れる日常にほっこりしながら、疎かにしている当たり前の日々を振り返らずにはいられない、たくさんの気づきを与えてくれる作品だった。
(文/田幸和歌子)

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  • (C)「きのう何食べた?」製作委員会
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  • 『きのう何食べた?』はドラマ満足度も絶好調! (C)「きのう何食べた?」製作委員会
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提供元:CONFIDENCE

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