• ORICON MUSIC
  • アニメ&ゲーム
  • ホーム
  • 映画
  • 自主映画と商業映画の垣根を超えて 二刀流監督・穐山茉由が目指す理想形

自主映画と商業映画の垣根を超えて 二刀流監督・穐山茉由が目指す理想形

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第5回 穐山茉由監督
 2018年の日本映画界のなかで、最大のトピックスと言っても過言ではないのが『カメラを止めるな!』の大ヒットだろう。製作費300万円、都内2館からスタートした作品は、多くの大手メジャー映画を上回る集客を見せた。しかし一方で、厳しい製作環境が浮き彫りになった事象でもあった。

【写真】その他の写真を見る


 自主映画と商業映画……映画館で公開されれば基本的には値段は同じだが、製作過程においてはさまざまなことが異なる。今回このコーナーに登場いただく穐山茉由監督は、アパレル企業のPR担当という会社員でありながら、自ら製作費の多くをねん出し“自主映画”という形で『月極オトコトモダチ』という作品を全国公開までこぎつけた。異色の映像作家・穐山監督に話を聞いた。

■自主映画と商業映画の垣根を超えたい

 製作費1億ドル以上のハリウッド映画と、製作費数百万円という自主映画でも、基本的に劇場での鑑賞券の値段は一緒である。例えが正しいか分からないが、飲食の世界で言うならば、多額の材料費をかけた料理と、安価な素材を使った料理が同じ値段で提供されるようなものだ。

 ある意味で不条理だと思われるが、そんな自主映画と商業映画のボーダーラインに挑もうと思っているのが穐山監督だ。

 「私が目指したいのは、やりたいことをやるというのは前提であるのですが、自主映画を普段見ない人にも届けたい。大きい予算で作られた映画と並んで、同じような顔をして並んでやる! みたいな(笑)。商業映画と自主映画の垣根をボーダレス化したいという思いが強かったんです」。

 『月極オトコトモダチ』の製作は「MOOSIC LAB」という新進気鋭の映画監督とアーティストの掛け合わせによる映画製作企画を具現化するプロジェクトへの応募がきっかけだった。

 「MOOSIC LAB」へ参加することができれば、その作品は新宿の映画館「K's cinema」で上映される。穐山監督にとって「見てもらえる場がある」ということは大きなモチベーションになるという。さらに、2012年から始まった「MOOSIC LAB」はこれまで、今泉力哉監督や山戸結希監督などがグランプリを獲得し、メジャー映画へ羽ばたいていくなど、映像作家としての未来が開ける登竜門的な位置づけのコンペだ。

 ここで『月極オトコトモダチ』は、グランプリを含む4冠を達成し、第31回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門でも上映された。

 「ありがたいことに思ってもいなかった広がりを見せてくれています。最初は『MOOSIC LAB』で見てもらえることだけでも嬉しいと思っていたのに、全国公開まで……。やっぱり多くの人に見てもらえるチャンスがあるというのは、映画にとって幸せなことです」。

■お金がなくても“本物”へのこだわり
 
 作品のクオリティが高いというのは間違いないことだが、製作の段階で穐山監督にはこだわりがあった。それが「本物であってほしい」という思い。自主映画を撮っている監督に共通する課題は“予算”であり、そこに付随する“時間”だ。

 しかし穐山監督は、制約が多いなか「やっぱりお金がないからね」といういいわけをできる限り排除した。しっかり脚本を作り込み「面白い」と納得してもらったうえで、キャストも、これまで映画やドラマなどで演技力を高く評価されている徳永えりを主演に、相手役も舞台等で活躍している俳優・橋本淳という実力派を擁した。さらに衣装を含むディティールも、絶対チープに見えないようにという配慮を施した。

 「自主映画だからと言って適当な衣装を着ていると悲しいんです。そういう“しょうがないよね”という部分に妥協せず、お金がないところはアイデアで勝負しました」。

 さらに穐山監督は、自主映画の作家性という部分にも、自身の思いを反映しつつも客観性を重視。ここにも自主映画と商業映画の融合にチャレンジしている。

 「映画を作る人っていっぱいいると思うんです。特に自主映画って自分でお金を出すことが多いので“自分のやりたいこと”が最優先されるのは必然なのですが、そのなかで、私はマーケティングっぽいと思われるかもしれませんが、映画って見てもらってなんぼだと思うので、より興味を持ってもらえるような目線は意識しました」。

■“企画や脚本が面白い”は希望になる 「より興味を持ってもらえる」という視点で浮かび上がってきたのが「レンタル友達」というテーマだ。

 「人間関係のなかで、どこからが友達なんだろうという疑問って誰にでもあると思うんです。そんなとき、レンタル友達のニュースがネットで流れて、SNSでたくさん友達がいるように見せるために、レンタル友達を使う人がいると知りました。異性において恋愛感情のない友達は成立するのか――とても現代的であるし、面白いなと思ったんです」。

 非常にキャッチーでありつつ、人間の本質に迫るようなテーマは普遍的でもある。丁寧に綴った穐山監督の脚本は、キャスティングをするうえでも大きなアドバンテージになった。

 「正直、すごく活躍されている徳永さんが自主映画に出てくださるのか分からなかったのですが、年齢的にも設定的にも彼女が頭に浮かんだんです。そうしたら主人公である那沙という女性が動き出した。『自主映画でも、面白い企画なら』という徳永さんと事務所さんの理解はすごくありがたかったです」。

 確かに徳永と言えば、地上波連続ドラマで主演を務め、NHK連続テレビ小説『わろてんか』でもその演技は高く評価された。なかなか自主映画という規模で出演をお願いすることは、ハードルが高いと思われる。相手役の橋本も、舞台では引っ張りだこの実力派俳優だ。それでも企画や脚本に魅力があれば、賛同してもらえるというのは希望になる。

■映画監督と一般企業の社員という二刀流

 前述したが、穐山監督は企業に勤める二刀流の監督だ。映画監督と言っても、ミュージックビデオやCM撮影など、映画以外の作品に携わっている監督は多い。そのなかでも、穐山監督は、映像とは全く違う「アパレル」というジャンルでの二刀流だ。
 
 「一つの業界だけにいると見えてこないこともあります。映画を撮りはじめてから、視野が広がった気がするので、相乗効果はあると思います。私はファッション業界にいるのですが、そのなかで話題になっていることでも、ジャンルが変わると意外と知られていないことが多い。そこを結び付けられるというのは、他の人にない部分だと思います。一つにとどまらないことで、いろいろな発見があるんです」。

 映画という業界ではないところに身を置くことで、視聴者の目線をより客観的に捉えることができる。一方で、映画を撮ったからこそ、モノづくりという部分で、アパレル業界にも還元できる気づきがあったという。

 映画作りと会社員。互いに相乗効果が見込めるだけに、このスタンスは継続していきたいという。だが、これまで「MOOSIC LAB」で評価を得た監督は、次々に商業映画でメガホンをとっている。自主映画と商業映画をボーダレス化したいという穐山監督にとって、今後はどんなスタンスをとっていくのだろうか――。

 「明確にあるのは、映画を撮り続けたいということ」と語った穐山監督。一方で「全てを仕事にしてしまうこと」への怖さもあるという。

 「なんとなく自主映画から商業映画にいくときに、諦めてなにかを捨ててしまうというイメージがあります。それが“妥協”という言葉になるかは、まだ分からないのですが、そのことで映画が嫌いになってしまうパターンもある。だから私は、そういう部分をボーダレスにできる方法はないのかと思って日々取り組んでいます」。

 現状ではそれが二刀流という方法なのかもしれない。しかし、作品が評価され、商業映画の話が来て、その規模が大きくなればなるほど、必ずどこかで決断を迫られる日が来るだろう。

 「この作品は名刺代わりになるようなものを作りたいという思いで、自分のお金で撮った映画。先につなげたいという思いはあります。ただまだ覚悟を持てない部分もあるのも事実で、そこが今後の課題。自分では良い方法を探していきたいんです」。

 イメージとしてあるのは、穐山監督が通っていた映画美学校で講師を務めていた三宅唱監督や、濱口竜介監督。

 「私の作風とは全然違いますが、映像作家としてしっかりとご自身の色を持ちながらも、商業映画を撮られている。もちろんいろいろなことでジレンマを抱えているのかもしれませんが、背中を見ていて感じるものがあります」。

 映画の世界に限らず、やりたいことを仕事にすると、理想と現実のギャップに呆然と立ち尽くしてしまうことはある。商業映画を撮れば、製作費に対してリクープしなければいけないという思惑が働くのは必然だ。そこをどうクリアしていくのか――。穐山監督の今後に注目していきたい。(取材・文・撮影:磯部正和)

関連写真

  • 自主映画と商業映画の垣根を超えて目指す理想形を語った穐山茉由監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 自主映画と商業映画の垣根を超えて目指す理想形を語った穐山茉由監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 自主映画と商業映画の垣根を超えて目指す理想形を語った穐山茉由監督 (C)ORICON NewS inc.

オリコントピックス