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若林正恭、活躍の裏にあったモヤモヤ 新作エッセイで見えた景色「潮目を渡っている」

 昨年7月に発売したキューバ旅行のエッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』が、日本旅行作家協会主催の『第3回 斎藤茂太賞』を受賞したお笑いコンビ・オードリー若林正恭(39)。テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』、フジテレビ『潜在能力テスト』、テレビ東京『ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜』など、最近ではMCとして活躍しているが、“エッセイスト”としての実力も折り紙つきだ。そんな若林の新作エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)が先月30日に出版された。

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 2013年に発売した初のエッセイ本『社会人大学人見知り学部 卒業見込』の続編にあたる今作では、雑誌『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)2015年8月号〜18年4月号掲載分の全33回に書き下ろしの新作エッセイを追加。「自分探しの旅」完結編と銘打たれているが、当の本人は「『社会人大学〜』の最初には『趣味なんていらない』と書いていましたが、新作の最後は『趣味がないと生きていけない』。変わりすぎだろって思いましたけど(笑)、そういった面での完結感はあります。でも『自分を見つけた』なんて大それた話ではなくて、なんで自分がこんな面倒くさい事を考えちゃうのかという原因とかが、ようやくわかったという着地ですかね」とやさしい笑みをこちらに向けた。

■35歳で迎えた“転換期” エッセイと漫才の共通点とは?

 今作のエッセイが書かれた2015年からの3年間は、若林にとってどんな時期だったのだろう。「テレビに出始めたのが2008年の暮れの『M-1グランプリ』からだったので、そこから7年が経つと若手という立ち位置ではなくなっていきまして…。MCをやらせてもらうようになったのも15年くらいからでしたが、自分で進行しつつ、ゲストの方の目線が『お前、まだ早いだろ』と言っているように感じることもありました。だから、35歳は若くもないけど、特別に歳を取っているわけでもない、非常に中途半端な年齢だなと。若者のブーストかかっている、エンジンの回転数が高いような感じがなくなってきて、非常におじさんになっていく、潮目を渡っているような時期でした」。そんな思いをタイトルで表現した。

 「本当は『諦念』という言葉を使いたかったんですけど、その前に山ちゃん(山里亮太)が『天才はあきらめた』というタイトルの文庫本を出したんです。なんか二番煎じだと言われるのが嫌で、このタイトル邪魔だわと思いながら別の候補を考えました(笑)。おじさんになったことで、自分の中で物事を斜に構えてみるのが終わっていく感覚があって…。自分の体力とか野心が、若い頃より収まってきたのも不安で、それは時間帯でいうと夕暮れだなと感じました。そこで“ナナメ”が終わっていくんだとなって『ナナメの夕暮れでいいのか』と」。

 『M-1』をきっかけに始まったテレビ業界を中心とした“社会”での奮闘をつづった前作『社会人大学〜』における若林の姿を、親交のある作家・西加奈子は「若林くん、童貞やんな」と形容した。自分の身に起こることへの“ピュア”な反応に対する言葉だったが、この3年間ではこうした視点に変化が訪れた。今作の中でも「軸がない」という表現で葛藤をにじませている。「あの頃はファーストタッチの社会への驚きでエッセイを書けていたので、内容にも一貫性があったんじゃないかなと思うのですが、おじさんになっていく過程で、向上心、自己顕示欲、承認欲求などがどうしても減ってきて。『じゃあ、どうする?』というのが(今回の各エッセイでは)ぐちゃぐちゃだったので、連載部分を読み直してみて1冊としてまとまるか心配でした」。

 今作に収録されている『ダ・ヴィンチ』連載部分は、半年間の休載を経て再開した「どいてもらっていいですか?」でのエッセイ。休載によって“ネタ選び”も変わった。「社会へのファーストタッチのびっくりしか、エッセイの書き方を知らないもので、後半はびっくりするようなことを自分で探したり、ねつ造するように書いていたんですが、それもできなくなってきちゃって。そこで半年休んでみて、ふと考えたら『プロレス見に行って楽しかった』というエピソードとかもエッセイで書いていいんだよな、という簡単なことに気付きました(笑)。そこから再開して、実際に書いてみると、だいぶ気分が楽でしたね」。

 『ナナメの夕暮れ』のラインナップを見ると、「ラウンドデビュー」「SOBA」といった趣味にまつわるものから、「野心と野望」「逃げる正論」といった内面に関するものまで、バラエティー豊かな構成となっている。毎回、どのようにテーマを決めて書き進めていくのだろうか。「漫才を書く時と同じなのですが、まずはおかしいなと感じたことなどをとにかく箇条書きでメモに書いて、きょうはこのテーマでいこうかなという風に進めていきます。漫才の例えになっちゃいますが、弱いボケから入っていって、徐々に濃くしていくようにネタを書いているので、それと全く同じ考え方でエッセイも書いている感じかな」。『ダ・ヴィンチ』連載の第1章と、書き下ろした第2章では書き方にもやや違いがあったと明かす。

 「『ダ・ヴィンチ』での連載が終わって、これだけだと文量的に一冊の本にできなかったから、当初は書籍化されない予定だったんです。その話を文藝春秋の編集者さんが知ってくださり『ウチで出しませんか?」と声をかけてくれたので、書き下ろしの第2章を書くことになったのですが、出版社が変わっても自分が書くという作業面での変化はなかったです。ただ、連載の時は1800文字と決まっていて、第2章は文量が自由になったので、自由っていうのは楽しいなと思いながら書いていました(笑)」。

■小説家デビューに慎重なワケ “盟友”山里亮太への率直な憧れと嫉妬

 ラジオでもエッセイの題材となった出来事を話しているが、文字で読んだ時と違った印象を受ける。「ラジオでは目の前の席に(相方の)春日(俊彰)が座っていて、春日を笑わせようとして話すから、やっぱり文章で書くのとは雰囲気が変わっちゃいますよね。エッセイだと、着飾ってお化粧しちゃうので(笑)。『エッセイは自分の名前で、自分の思っていることを表現するけど、小説は自分の本音のドロドロした部分とかを登場人物に託すから、その人の本質が出やすい』と言っている方がいたのですが、なるほどと思いました」。

 それでは、今後は“小説”の世界に飛び込もうという気持ちにならないのだろうか。「昔からコントが作れなかったんですよ。コントはOLになることもあれば、大金持ちのセレブになったり、登場人物によってキャラを変えるっていうのが書けなくて…。漫才も若林と春日という関係でしか作れない(笑)。ラジオでのトークも自分の話ですし、創作のセンスが得意じゃないんです。コントでは、医者や刑事といったようにいろんな設定がありますけど、違う人間の実感を書けないので、スゴいなと思いますね。僕は自分のフィルターを通したことしか書けないから、小説を書くということはあんまり考えたことがないです」。ラジオでも頻繁に登場する、自身の高校時代のエピソードを村上龍氏の『69 sixty nine』のような形で読んでみたいと伝えると、一気に笑顔が弾けた。

 「今はコンプライアンスが強めだから(笑)、高校時代にこんな悪いことをしたという話とかもできなかったりするじゃないですか。でもそれを、あくまでフィクションとして登場人物のせいにしたら書けるかな(笑)。高校の時からお笑い芸人になりたかったんですけど、ダウンタウンさんが『ガキの使い』とかで学生時代の話をしているのをテレビで見ていて、自分もそういうエピソードがほしいなと思って、いろんなことをやってみましたけど、いざ芸人になったら時代が変わってテレビでもラジオでも一切話せなくなっちゃった(笑)。それを小説の登場人物のせいにしたら、イケるかもしれないですね」。

 今回の本のタイトルにも間接的に影響(?)を与えた、南海キャンディーズの山里亮太との関係についても聞いてみた。というのも、先ほども話題に上った山里の文庫本『天才はあきらめた』(朝日文庫)の解説を若林が担当し、これもまた若林の今の思いが率直につづられていたからだ。「山ちゃんは嫌がると思うけど、俺は本当にテレビの仕事をして、初めて『本当に天才っているんだ』と思った人間なんですよ。この男はすごくて、努力をしているのは知っているけど、頭の回転と言葉を持ってくる速さが異常。俺もツッコミだから、山ちゃんみたいにボキャブラリーやセンスのいい言葉で突っ込むのに憧れていたけど、山ちゃんと仕事してから無理だと思ったんです」。

 「俺と山ちゃんはそれぞれ39歳、40歳なので、タイトルかぶりの事も考えると、あきらめることで逆に明るくなっていく年頃なのかもしれないですね。山ちゃんに対しては、同じ山を登っている意識を持っているんですけど、話がわかり合いすぎちゃうので、年に1回くらいしか飲まないようにしていますね。その忘年会の席上で、山ちゃんと一緒にやっていた番組の『たりないふたり』の演出だった安島(隆)さんと一緒に、山ちゃんの反省ノートを読んで、俺が音読するっていうのが楽しいひと時ですね(笑)」。

 一方の山里は、先月29日に自身のツイッターでこのようにつぶやいていた。「ナナメの夕暮れ一気に読み進めていった、まだ途中だが、心から思う。誰よ、若林くんがたりてるなんて言ってたの、脳内さらけ出した本文にはワクワクしかしていない! 色々な敵への怒りの付き合い方がまだあったか!こりゃ、もう一度お願いせねば…全然たりてないんだもの」。今月20日には“不惑”と言われる40歳の誕生日を迎える若林。「普通の人が高校や大学を卒業して、働き始めて感じるようなことを30歳になってから感じている」という若林のことだ、いろんなことへの「なぜ?」を原動力にこれからも突き進んでいく。



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  • 最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を出版したオードリー・若林正恭 (C)ORICON NewS inc.
  • 最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を出版したオードリー・若林正恭 (C)ORICON NewS inc.
  • オードリー・若林正恭の最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)
  • 最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を出版したオードリー・若林正恭 (C)ORICON NewS inc.
  • 最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を出版したオードリー・若林正恭 (C)ORICON NewS inc.

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