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別所哲也らが語る、ショートフィルムがもたらす未来

 ライフスタイルの変化や、再生デバイスの発展により、近年、存在価値を高めつつあるショートフィルム。なかでも、企業のメッセージをストーリー仕立てで伝える「ブランデッドムービー」は、非常に効果的なマーケティング手法として、ビジネスシーンで注目を集めると同時に、映像クリエイターにも大きな変化をもたらしている。

ショートフィルムの魅力を語り合った(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.

ショートフィルムの魅力を語り合った(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.

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 そんな「ブランデッドムービー」にいち早く注目していた、ネスレ日本株式会社 代表取締役社長・高岡浩三氏、『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)』の代表を務める俳優の別所哲也氏、そして映画祭内でブランデッドムービーに特化した部門「BRANDED SHORTS(ブランデッドショート)」で審査員を務めた放送作家・脚本家の小山薫堂氏が、ショートフィルムの魅力や可能性、そして未来予想図について語り合った。

 別所は「ショートフィルムって、映像の可能性を広げる役割を果たしていて、テクノロジーの進化を含め、次の時代を強く意識したものが生み出される」とその可能性に言及すると「なかでも、企業が消費者とコミュニケーションをとったり、自分たちのブランドイメージを、従来のCMの手法ではない形で表現したりするためのブランデッドムービーというのは、映画を含めた映像業界の中心になっていくような気がしているんです」と展望を述べる。

 いまから15年前の2003年に、岩井俊二監督が手掛けた『花とアリス』でブランデッドムービーの発想を取り入れた高岡氏は「当時すでに“キットカット”や“ネスカフェ”ブランドは周知されていたので、知名度を高める役割はとっくに終わっていた。欲しかったのは、ブランドで得る体験みたいなものでした。それを表現するのは15秒や30秒では不可能。とはいえ、劇場公開するようなものも無理だったので、必然的にショートムービーという発想になった。それを『ブレイクタウン』というウェブサイト上で配信したのです」と当時を振り返る。

 ここから始まったショートムービーの発展形が、オリジナルムービーや、世界各国から厳選されたショートフィルムを配信する「ネスレシアター」なのだ。こうしたネスレの消費者コミュニケーション手法の開発などに関わっていたという小山氏は、長年テレビ番組に携わってきたからこそ感じるショートフィルムの特性があるという。

 「テレビ業界の人間からすると、ショートフィルムの世界ってアウェイな感じなんです。ブランデッドショート部門のナショナルカテゴリーを受賞した『玉城ティナは夢想する』などは、テレビの人間では作れないリズムや編集で、新しい時代のクリエイターだなと感じました。最近テレビマンが編集したものをネットに載せようとすると“イマイチ”と言われることが多く『ユーチューバーに編集させましょう』なんてことになる(笑)」。

 これまでの技法や既成概念が打ち破られるということは、粗悪なものが増えてしまう危険性はあるものの、チャンスの幅は広がるという希望もある。別所は「これまでも映画監督がミュージックビデオを撮ることがあったように、ブランデッドムービーが、自分の力を試す新たな表現の場になっていくと思うのです」と才能を開花させるきっかけになる役割を果たす場だと断言する。

 高岡氏も「『ネスレシアター』という場を作り、いろいろな映画監督に発注をしました。なかには映画界の重鎮や、数々のヒット作を世に送り出したテレビドラマの監督もいる。過去の成功体験にとらわれず、例えばスマートフォンの画角を意識して、どういった表現ができるのかといったことにチャレンジする人を応援したい」と語る。

 続けて「クライアント側からすると、若い人にチャンスを与えたいという思いが強い。『ネスレシアター』の初期の頃、ある人から『映画監督に会ってほしい』と言われたことがありました。7〜8人の監督とあったとき『食べていけない』という声が多かった。とてもすてきな作品を撮るのに、食べていけないというのはおかしい。そういう人にとって、ショートムービーがチャンスの足掛かりになれば、こんなにいいことはない。しかもネットの世界はボーダレス。いきなり海外へ出る人もいるかもしれない」と経営者ならではの発想で、ショートムービーの未来に思いを馳せる。

 小山氏は「クリエイターにとって選択肢が広がることは素晴らしいこと」と前置きしつつ「すべてがスマートフォンで完結してしまうと、より人とのつながりがなくなってしまうという危惧があります」と警鐘を鳴らす。一方で「面白い動画を見ると、自分で作っていなくても、『こんなのあるよ!』と誰かに伝えたくなるじゃないですか。その意味では、ショートフィルムというのは、人と人がコミュニケーションをとるため大きなツールになり得る」と可能性を述べる。

 この点について別所も「人間は“物語る”動物。コミュニケーションがなかったら、おいしいものを食べて良い場所に住んでいても味気ないと思う。ショートフィルムが、コミュニケーション発展の材料となってくれたらいい」と賛同すると、高岡氏も「ブランデッドムービーと言っていますが、観る側はシームレスになっている。どんなものでもありなのです」と誰でも、どんな形でも表現できることがショートムービーの魅力だという。

 ブランデッドムービーという新しい動画マーケティングの形が、ショートフィルム界を大きく発展させるきっかけになりそうな一方、「誰かに見せたくて作る」というシンプルな発想で作られるショートフィルムもある。どちらにしても、世の中にショートフィルムがあふれることで、人と人とのコミュニケーションが円滑になる――。こんな世の中が、別所氏、高岡氏、小山氏の思い描いている未来予想図なのかもしれない。(取材・文:磯部正和)

■ネスレシアター
https://nestle.jp/nestle-theater/

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  • ショートフィルムの魅力を語り合った(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた高岡浩三氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた別所哲也氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.
  • インタビューに応じた(左から)別所哲也氏、高岡浩三氏、小山薫堂氏 (C)ORICON NewS inc.

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