NHKで1月7日にスタートする、大河ドラマ『西郷どん』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)。原作は直木賞作家・林真理子氏の『西郷どん!』(KADOKAWA)で、脚本は『ハケンの品格』(日本テレビ)、『Doctor-X〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)、連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)など、話題作を多数執筆している中園ミホ氏が手がける。
中園氏は、『ハケンの品格』では派遣社員として働く人に、『ドクターX』では群れず、こびず、縛られず、自分の仕事へ責任と叩き上げのスキルを武器に働く人にエールを送ってきた。『西郷どん』は、日本人なら誰でもその名を知っている、義務教育で必ず習う歴史上の人物、西郷隆盛こと西郷吉之助(鈴木亮平)が主人公。名前は知っているが、実は知らない彼の生い立ち、どのような環境で、どのように育ち、育てられ、今日に伝わる人物となったのか、激動の幕末維新史とともに一年をかけて描いていく。2018年は、明治維新(明治改元)から150年の節目の年でもある。放送開始を前に、中園氏が本作をどのような思いを込めて書き進めているのか、聞いた。
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西郷隆盛も、大久保利通も、岩倉具視も、この時代に活躍した人たちは皆、逆境を乗り越えてきた人なんです。理不尽な理由で表舞台から遠ざかり、辛酸をなめた時期がありました。それも働き盛りの時期に。しかし、その逆境に立たされた経験がその人を大きくしているようにも思います。とくに西郷の人生は、逆境の連続。下級とはいえ武家に生まれ、意識も高かった少年・西郷が、右腕をけがして、剣術ができなくなってしまうというのは大変な挫折だったと思います。そういった不運で、思うようにならない境遇が西郷吉之助という人間を作っていったんだな、というところに注目していくと、いっそう彼が魅力的に見えてきました。逆境というのは、今に生きる私たちの誰にでも訪れるものです。西郷の姿をとおして、逆境こそが、人を強くするというメッセージを送りたい。それが、この作品に取り組む私の密かなテーマです。
西郷について調べていくと、本当に彼が男からも女からも、男として、人として愛されていたんだな、と改めて感心します。西郷のために命をかけて戦おう、尽くそうという人がたくさんいいましたから。人をそこまで動かす西郷の魅力とはどういうものだったんだろうか。執筆を通じて、それを探っていきたいと考えています。
時代考証の磯田先生によると、西郷さんに会ったことがある人は「お餅のような人」と語っているんですね。お餅を2個並べて焼いていたら、くっついて1つになってしまうことがありますよね、それに例えて、西郷は近くにいる人の感情に寄り添いすぎて同化してしまうような人だった、と。西郷は情の濃い人、とくに弱い立場の人の気持ちに寄り添える人だったんじゃないかな、と思うのですが、書き進めていくうちに、どんどん、新しい一面が見えてくるんです。人としての綻びも含めて、歴史の教科書に載っている偉人としてではなく、人間・西郷を魅力的に描きたいと思います。
林真理子さんが原作のタイトルを『西郷(せご)どん』としたのは、地元の鹿児島の方々が親しみを込めて、西郷のことを「せごどん」と呼んでいることを知って、そうなさったそうですが、それくらい大河ドラマの『西郷どん』も親近感をもって観てもらいたいですし、鈴木亮平さんが演じる西郷さんなら、きっとそうなると思っています。
『西郷どん』の西郷吉之助は、最初から鈴木さんが演じることを思い浮かべながら脚本を書いているので、彼のパーソナリティに影響されているところもあると思います。鈴木さんがすごく体を鍛えて、撮影に臨まれているので、当初の予定より野性的になっているかもしれないです(笑)。鈴木さん自身がものすごく努力家で、頭も良くて、誠実で、その一方で、とても大胆なところもあって。西郷さんも鈴木さんもうなぎが大好きで、通じるところがあると思います。
私自身、大河ドラマは初めてですし、歴史ものに強いわけではありませんが、監修をしてくださっている先生方の協力のもとで作っていますので、歴史ファン、大河ドラマファンの方にも存分に楽しんでいただける作品になっていると思います。
さらに、歴史に詳しくない人、いままであまり興味が持てなかった人にも、ぜひ観ていただきたいな、と思っています。なぜなら、歴史に疎かった私でも、この時代に興味津々になり書いているからです。幕末維新の時代の若者たちの群像劇は、書いていて本当に面白い。西郷さんという人は追いかけても追いかけても届かないほど、はかり知れないスケールの魅力的な人なので、視聴者の皆さんには一年間、ほれていただきたいと思います。
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第1回「薩摩のやっせんぼ」(60分拡大版、1月7日放送)は、西郷隆盛の少年時代(幼名・小吉)の話。天保11年(1840年)、薩摩の国。西郷小吉(渡邉蒼)は、大久保正助(石川樹)など町内の仲間たちと学問や剣術を切磋琢磨する日々を過ごしていた。「妙円寺詣り」という藩最大の行事で、小吉たちは一番乗りで寺に到着し、褒美をもらう。そこで薩摩藩の世継ぎである島津斉彬(渡辺謙)と運命的な出会いをする。しかし、小吉は恨みを持ったほかの町の少年から刀で肩口を切られ、二度と剣が振れなくなってしまう。
中園氏は、『ハケンの品格』では派遣社員として働く人に、『ドクターX』では群れず、こびず、縛られず、自分の仕事へ責任と叩き上げのスキルを武器に働く人にエールを送ってきた。『西郷どん』は、日本人なら誰でもその名を知っている、義務教育で必ず習う歴史上の人物、西郷隆盛こと西郷吉之助(鈴木亮平)が主人公。名前は知っているが、実は知らない彼の生い立ち、どのような環境で、どのように育ち、育てられ、今日に伝わる人物となったのか、激動の幕末維新史とともに一年をかけて描いていく。2018年は、明治維新(明治改元)から150年の節目の年でもある。放送開始を前に、中園氏が本作をどのような思いを込めて書き進めているのか、聞いた。
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西郷隆盛も、大久保利通も、岩倉具視も、この時代に活躍した人たちは皆、逆境を乗り越えてきた人なんです。理不尽な理由で表舞台から遠ざかり、辛酸をなめた時期がありました。それも働き盛りの時期に。しかし、その逆境に立たされた経験がその人を大きくしているようにも思います。とくに西郷の人生は、逆境の連続。下級とはいえ武家に生まれ、意識も高かった少年・西郷が、右腕をけがして、剣術ができなくなってしまうというのは大変な挫折だったと思います。そういった不運で、思うようにならない境遇が西郷吉之助という人間を作っていったんだな、というところに注目していくと、いっそう彼が魅力的に見えてきました。逆境というのは、今に生きる私たちの誰にでも訪れるものです。西郷の姿をとおして、逆境こそが、人を強くするというメッセージを送りたい。それが、この作品に取り組む私の密かなテーマです。
西郷について調べていくと、本当に彼が男からも女からも、男として、人として愛されていたんだな、と改めて感心します。西郷のために命をかけて戦おう、尽くそうという人がたくさんいいましたから。人をそこまで動かす西郷の魅力とはどういうものだったんだろうか。執筆を通じて、それを探っていきたいと考えています。
時代考証の磯田先生によると、西郷さんに会ったことがある人は「お餅のような人」と語っているんですね。お餅を2個並べて焼いていたら、くっついて1つになってしまうことがありますよね、それに例えて、西郷は近くにいる人の感情に寄り添いすぎて同化してしまうような人だった、と。西郷は情の濃い人、とくに弱い立場の人の気持ちに寄り添える人だったんじゃないかな、と思うのですが、書き進めていくうちに、どんどん、新しい一面が見えてくるんです。人としての綻びも含めて、歴史の教科書に載っている偉人としてではなく、人間・西郷を魅力的に描きたいと思います。
林真理子さんが原作のタイトルを『西郷(せご)どん』としたのは、地元の鹿児島の方々が親しみを込めて、西郷のことを「せごどん」と呼んでいることを知って、そうなさったそうですが、それくらい大河ドラマの『西郷どん』も親近感をもって観てもらいたいですし、鈴木亮平さんが演じる西郷さんなら、きっとそうなると思っています。
『西郷どん』の西郷吉之助は、最初から鈴木さんが演じることを思い浮かべながら脚本を書いているので、彼のパーソナリティに影響されているところもあると思います。鈴木さんがすごく体を鍛えて、撮影に臨まれているので、当初の予定より野性的になっているかもしれないです(笑)。鈴木さん自身がものすごく努力家で、頭も良くて、誠実で、その一方で、とても大胆なところもあって。西郷さんも鈴木さんもうなぎが大好きで、通じるところがあると思います。
私自身、大河ドラマは初めてですし、歴史ものに強いわけではありませんが、監修をしてくださっている先生方の協力のもとで作っていますので、歴史ファン、大河ドラマファンの方にも存分に楽しんでいただける作品になっていると思います。
さらに、歴史に詳しくない人、いままであまり興味が持てなかった人にも、ぜひ観ていただきたいな、と思っています。なぜなら、歴史に疎かった私でも、この時代に興味津々になり書いているからです。幕末維新の時代の若者たちの群像劇は、書いていて本当に面白い。西郷さんという人は追いかけても追いかけても届かないほど、はかり知れないスケールの魅力的な人なので、視聴者の皆さんには一年間、ほれていただきたいと思います。
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第1回「薩摩のやっせんぼ」(60分拡大版、1月7日放送)は、西郷隆盛の少年時代(幼名・小吉)の話。天保11年(1840年)、薩摩の国。西郷小吉(渡邉蒼)は、大久保正助(石川樹)など町内の仲間たちと学問や剣術を切磋琢磨する日々を過ごしていた。「妙円寺詣り」という藩最大の行事で、小吉たちは一番乗りで寺に到着し、褒美をもらう。そこで薩摩藩の世継ぎである島津斉彬(渡辺謙)と運命的な出会いをする。しかし、小吉は恨みを持ったほかの町の少年から刀で肩口を切られ、二度と剣が振れなくなってしまう。

2018/01/07