江戸風俗研究家で文筆家、漫画家として活躍し、2005年に逝去した杉浦日向子さんの名作『百日紅』の映像化に、Production I.Gと初タッグで挑んだ原恵一監督にインタビュー。葛飾北斎を父に持ち、自らも浮世絵師として絵を描いて暮らしているお栄を主人公に、活気あふれる江戸の街や人々を四季折々の情緒を織り交ぜて描く『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が、5月9日より全国で公開中だ。なぜ、今、『百日紅』の映像化なのか、作品への思いを聞いた。
アニメ映画『クレヨンしんちゃん』シリーズや『河童のクゥと夏休み』など、大人が泣けるアニメーション作家として評価の高い原監督。実写映画『はじまりのみち』(2013年公開)の監督を経て、アニメーションの世界に戻ってきた。『カラフル』(2010年)以来、5年ぶりの長編アニメ作品となる。
「役者さんたちの演技や、優秀なカメラマンがあっという間にポジションやアングル、構図を決めていい映像を撮る仕事ぶりを目の当たりにできたことは大きな収穫でしたし、それは何らかの形でこの作品にも生かされていると思います。今回は、Production I.Gの優秀なスタッフのおかげで、すばらしい映像に仕上がりました」。
■“嫉妬”するほど杉浦日向子さんの才能に惚れ込んで
昨年6月、フランスで毎年開催されている世界最大級のアニメ映画祭『アヌシー国際アニメーション映画祭』で製作発表会見を開いてから約1年。主人公・お栄役に女優の杏、葛飾北斎役に松重豊、ほか濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆、麻生久美子、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治らの声の出演、主題歌に椎名林檎の「最果てが見たい」(演歌歌手・石川さゆりに提供した楽曲をセルフカバー)が決まるなど、準備万端で公開を迎えた。
原監督は「早くみんなに観てもらいたくて。それくらい自信があります。杉浦さんの素晴らしい原作を損なうことなく一本の映画にできた達成感があります」と、語り口はおだやかだが、視線や表情に強い意志がにじみ出る。
46歳という若さでこの世を去った日浦さんが20代後半に描いた原作は、発表から30年あまり経った今も、傑作として多くの人に愛読されている。原監督も杉浦作品に魅了された一人。ファンが多い杉浦作品にも関わらず、メディアミックスはこの『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が最初の公開作品となる。ちなみに、幕府の解体に反対し、最後まで戦った彰義隊を題材にした漫画『合葬』の実写映画化作品は今秋公開予定。
「杉浦さんの作品はどれも素晴らしく、いつか映像化したいと、自分の仕事上の夢としてずっと持っていました。杉浦作品の映像化1作目の監督になれたことが、すごくうれしいです」という原監督。彼女の作品の魅力について、「杉浦さんの演出家としての才能ですね。絵が上手な人はたくさんいるけれど、杉浦さんの魅力はキャラクターの心情表現やドラマ的な展開が素晴らしい。漫画家という枠に収まらない、演出家として素晴らしい作家だったと思うんです。大好きな作家であり、同業者として、ものすごく嫉妬心も抱いていました」。
杉浦作品に対する原監督の心酔ぶりは次の発言からもよく伝わってくる。
「原作の『百日紅』は、登場人物の誰一人として泣くことがない。それなのに、読むたびに深い感動と余韻が残る。その読後感をこのアニメ映画版でも継承しないといけないと思っていました。制作過程における一番の問題は、僕が杉浦さんの作品が好きすぎて、そのプレッシャーに何度も負けそうになっていたこと(笑)。それに、江戸時代についてはわからないことだらけで、『原作に描かれているコレは何ですか?』と、杉浦さんに聞いて確かめたいと思ったことがたくさんありました。当然、杉浦さんはすべてわかって描いているはずだから。杉浦さんに直接、聞くことができないことがはがゆかったですし、もっと早くにアニメ化できていれば…という忸怩たる思いもありました」。
■江戸時代も今の時代も、人が抱える悩みは変わらない
『百日紅』は、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ちあふれている江戸の町で、浮世絵を描くことを生業としている父・北斎とその娘・お栄の物語。23歳のお栄は雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ち込むが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる…。
当時、23歳で独身のお栄は「いき遅れ」と言われても仕方ない状況にあった。晩婚化が進む現代の日本にも通じるものがある。また、『百日紅』が多くの人に愛される要因として、主人公・お栄が「働く女性の代弁者にもなっている」と原監督は指摘する。「仕事のこと、恋愛のこと、家族のこと、江戸時代も今の時代も、人が抱える悩みは変わらない。今より寿命も短かったし、貧しかったけど、江戸時代の人々はそれなりに毎日楽しく生きていたってことを杉浦さんの作品が教えてくれた。現代の人たちはどうか。江戸時代の人たちほどに世界を楽しめているだろうか、そんなことを感じ取っていただけたらうれしいですね」。
アニメ映画『クレヨンしんちゃん』シリーズや『河童のクゥと夏休み』など、大人が泣けるアニメーション作家として評価の高い原監督。実写映画『はじまりのみち』(2013年公開)の監督を経て、アニメーションの世界に戻ってきた。『カラフル』(2010年)以来、5年ぶりの長編アニメ作品となる。
「役者さんたちの演技や、優秀なカメラマンがあっという間にポジションやアングル、構図を決めていい映像を撮る仕事ぶりを目の当たりにできたことは大きな収穫でしたし、それは何らかの形でこの作品にも生かされていると思います。今回は、Production I.Gの優秀なスタッフのおかげで、すばらしい映像に仕上がりました」。
■“嫉妬”するほど杉浦日向子さんの才能に惚れ込んで
昨年6月、フランスで毎年開催されている世界最大級のアニメ映画祭『アヌシー国際アニメーション映画祭』で製作発表会見を開いてから約1年。主人公・お栄役に女優の杏、葛飾北斎役に松重豊、ほか濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆、麻生久美子、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治らの声の出演、主題歌に椎名林檎の「最果てが見たい」(演歌歌手・石川さゆりに提供した楽曲をセルフカバー)が決まるなど、準備万端で公開を迎えた。
原監督は「早くみんなに観てもらいたくて。それくらい自信があります。杉浦さんの素晴らしい原作を損なうことなく一本の映画にできた達成感があります」と、語り口はおだやかだが、視線や表情に強い意志がにじみ出る。
46歳という若さでこの世を去った日浦さんが20代後半に描いた原作は、発表から30年あまり経った今も、傑作として多くの人に愛読されている。原監督も杉浦作品に魅了された一人。ファンが多い杉浦作品にも関わらず、メディアミックスはこの『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が最初の公開作品となる。ちなみに、幕府の解体に反対し、最後まで戦った彰義隊を題材にした漫画『合葬』の実写映画化作品は今秋公開予定。
「杉浦さんの作品はどれも素晴らしく、いつか映像化したいと、自分の仕事上の夢としてずっと持っていました。杉浦作品の映像化1作目の監督になれたことが、すごくうれしいです」という原監督。彼女の作品の魅力について、「杉浦さんの演出家としての才能ですね。絵が上手な人はたくさんいるけれど、杉浦さんの魅力はキャラクターの心情表現やドラマ的な展開が素晴らしい。漫画家という枠に収まらない、演出家として素晴らしい作家だったと思うんです。大好きな作家であり、同業者として、ものすごく嫉妬心も抱いていました」。
杉浦作品に対する原監督の心酔ぶりは次の発言からもよく伝わってくる。
「原作の『百日紅』は、登場人物の誰一人として泣くことがない。それなのに、読むたびに深い感動と余韻が残る。その読後感をこのアニメ映画版でも継承しないといけないと思っていました。制作過程における一番の問題は、僕が杉浦さんの作品が好きすぎて、そのプレッシャーに何度も負けそうになっていたこと(笑)。それに、江戸時代についてはわからないことだらけで、『原作に描かれているコレは何ですか?』と、杉浦さんに聞いて確かめたいと思ったことがたくさんありました。当然、杉浦さんはすべてわかって描いているはずだから。杉浦さんに直接、聞くことができないことがはがゆかったですし、もっと早くにアニメ化できていれば…という忸怩たる思いもありました」。
■江戸時代も今の時代も、人が抱える悩みは変わらない
『百日紅』は、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ちあふれている江戸の町で、浮世絵を描くことを生業としている父・北斎とその娘・お栄の物語。23歳のお栄は雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ち込むが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる…。
当時、23歳で独身のお栄は「いき遅れ」と言われても仕方ない状況にあった。晩婚化が進む現代の日本にも通じるものがある。また、『百日紅』が多くの人に愛される要因として、主人公・お栄が「働く女性の代弁者にもなっている」と原監督は指摘する。「仕事のこと、恋愛のこと、家族のこと、江戸時代も今の時代も、人が抱える悩みは変わらない。今より寿命も短かったし、貧しかったけど、江戸時代の人々はそれなりに毎日楽しく生きていたってことを杉浦さんの作品が教えてくれた。現代の人たちはどうか。江戸時代の人たちほどに世界を楽しめているだろうか、そんなことを感じ取っていただけたらうれしいですね」。
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2015/05/12